大判例

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東京高等裁判所 昭和54年(う)352号 判決

被告人 韓基善

〔抄 録〕

ところで、所論のなかには、被告人は、捜査機関によるいわゆる「おとり」捜査により犯意を誘発された結果、本件犯行を実行させられたものである旨主張する部分があるけれども、記録及び当審における事実取調の結果によると、被告人が本件につき逮捕されるに至った経過は、被告人は、昭和五三年六月初めころ、「横須賀の男」という知人から電話で、「覚せい剤が欲しい」との依頼を受けたため、この取引によって儲けようと考え、これを引受けることとし、横浜市内で覚せい剤約二〇〇グラムを一六〇万円で売却する旨を約し、知り合いの暴力団関係者に覚せい剤の入手方を頼み、同人から覚せい剤約二〇〇グラムを一六〇万円で売却した場合一〇万円のリベートをもらう約束で、本件覚せい剤結晶約一八一・七四グラムを譲り受けた後、原判示の犯行当日の午後九時ころ横浜の山下公園近くにあるニューグランドホテルで、「横須賀の男」と落ち合うこととして、同日午後六時ころ右覚せい剤結晶を所持し、知人である三橋義男の運転する普通乗用自動車に同乗して肩書自宅を出発し、同日午後八時前ころ前記ニューグランドホテルに着き、同ホテルの喫茶店で暫く待っていると、「横須賀の男」が来て、その男の案内で原判示の麻雀荘「高雄」へ赴いたこと、他方、神奈川県警察本部保安部保安課課長補佐佐々木安夫警部は、同日夕刻伊勢佐木警察署保安課長大木宏之警部からの応援依頼を受け、部下四名を伴って同署に赴いた後、部下をして、前記「高雄」附近に張り込ませ、同日午後八時四〇分ころ同店二階事務所において、被告人を現行犯人として逮捕したというものであったことが認められる。

右事実関係によれば、被告人が何人かの通報により逮捕されるに至ったものの、その通報者が捜査機関とどのような協力関係にあるかは全く不明であるばかりでなく、所論のように、捜査機関そのものが被告人の犯意を誘発したとする根拠は全く存しない。仮りに、本件が「おとり」捜査であったとしても、「おとり」は覚せい剤の入手方を求めたに止まり、その入手先を指示したものでもなく、被告人が正常な自已の自由意思により、本件犯行を決意したものであることは、十分にこれを認められるところであるから、被告人の本件犯行の構成要件該当性、違法性及び有責性に何ら消長を及ぼすものではない(なお、最高裁昭和二八・三・五決定、刑集七―三―四八二参照)。

(西村 高山 村田)

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