大判例

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東京高等裁判所 昭和54年(て)389号 決定

所論は要するに、申立人は、東京地方裁判所がした付審判請求棄却決定に対し、当裁判所に抗告をしていたものであるが、昭和五四年六月一四日に当裁判所書記官池田豊名義の「抗告棄却決定謄本送達済通知の件」と題する書面を受領し、これによりはじめて右抗告を棄却する旨の決定が昭和五四年四月一六日になされたこと、同日申立人に対し右決定謄本の特別送達手続がとられたが、同年五月一二日配達時不在のため保管期間の経過をもって返送されたため、同日書留郵便に付して送達する手続がとられ、これをもって決定謄本が送達済になっていることを知った。しかしながら、(一)右書留郵便に付する送達は、刑訴規則六三条一項の要件に該当しない違法のものである。本件決定謄本の特別送達の宛先の「埼玉県新座市石神五丁目九番二〇号」は申立人の療養通院の便宜のための居所であり、転送先の「東京都港区赤坂五丁目一番二六号」が申立人の住所であるが、ともに申立人が抗告状、抗告理由書に記載してその届出義務を履行しているのであるから、書留郵便に付して送達することは許されないものである。本件特別送達郵便が申立人に届かなかったのは、当時申立人は郷里富山県に旅行し、療養かたがた長期滞在中であったため、新座市居住の者が本人の留守を告げ東京都港区赤坂の住所を郵便集配人に教えたので同地に転送したものと認められ、申立人に責任はない。また右のような事実をおくれて知ったのは、久しく新座市の居所に居て東京都港区赤坂の住所を訪れなかったからであり、これまた申立人の責任ではない。(二)申立人は被告人の立場にある者ではなく、また住居不定でも転居先不明でもないのであるから、本件事案にかんがみ、特別送達が一回返送されたからといって直ちに書留郵便に付して送達をするのは、決定の確定を急ぐあまり裁判所書記官が職権を濫用したもので、違法無効である。(三)刑訴規則六三条二項は、憲法三二条に違反する規定である。書留郵便に付することをもって送達、告知があったものとすると、本人不知の間に上訴期間が経過し、上訴の権利を奪われる結果となる。このような規定は、国民の裁判を受ける権利を侵害するものである。以上述べたように、申立人は違法な送達により、自己の責に帰することができない事由によって上訴の提起期間内に上訴をすることができなかったので、上訴権回復の請求とともに、特別抗告の申立に及んだ、というものである。(なお申立人提出の書面には、裁判所書記官が本件決定謄本を書留郵便に付して送達したのは、その職務権限にもとずく決定によるものであり、昭和五四年五月二九日付通知書により右法律効果の確認を通知しているのであるから、抗告に代る異議の申立をする旨の記載があるが、右送達手続は当裁判所のした決定でないことが明らかであるから、抗告に代る異議の対象にはならないものである。)

よって按ずるに、関係事件記録によると、申立人のした付審判請求棄却決定に対する抗告事件につき、当裁判所は昭和五四年四月一六日抗告棄却の決定をしたこと、右同日、右決定謄本を抗告申立書(抗告状と題する書面)記載の申立人の住居である埼玉県新座市石神五丁目九番二〇号に宛てて特別送達をしたところ、右住居においては不在のため送達をすることができず、何人の申出によるものか不明であるが、東京都港区赤坂五丁目一番二六号の申立人宅に配達するため右郵便物が新座局から赤坂局に転送され、赤坂局において同年四月二三日右港区赤坂の申立人宅に配達の際、全戸不在であり、送達することができないものとして同局から保管期間経過後の同年五月一〇日返送されてきたので、当裁判所はやむを得ず同月一二日、右東京都港区赤坂の申立人宅に宛てて郵便に付して送達をしたこと、ところが右郵便物もまた配達不能となり返送されてきたため、同年五月二九日当裁判所書記官池田豊が「抗告棄却決定謄本送達済通知の件」と題する書面を、念のため申立人に宛てて発送し、これが同年六月一四日申立人に受領されたものであることが認められる。以上の事実よりすれば、本件決定謄本の送達については、当初埼玉県新座市の申立人住居に宛ててなされた特別送達が、同所で申立人に送達されず、赤坂局に転送され、東京都港区赤坂の申立人宅に配達の際も不在のため申立人に出会わず、またいわゆる補充送達もできないものとして返送されてきたため、当裁判所書記官が、刑訴法五四条による民訴法一七一条、一七二条の準用により、右決定謄本を書留郵便に付して送達したものであって、所論のように刑訴規則六三条一項により書留郵便に付して送達をしたものでないことが明らかである。したがって右書留郵便に付する送達が刑訴規則六三条一項によって、なされた送達であることを前提とする所論(一)の違法および(三)の規定違憲の主張はいずれも前提を欠くものである。また特別送達による送達不能の場合には書留郵便に付して送達することができることは、刑訴法五四条によって準用される前記民訴法の各法条により明らかであるところ(最高裁判所昭和五二年三月四日第三小法廷決定参照)、右各法条にしたがって書留郵便に付する送達をした担当書記官の措置になんら違法のかどはなく、また職権を濫用したことをうかがわせる点も認められないので、所論(二)の主張も理由がない。なお右書留郵便に付した送達の宛先を、申立人の東京都港区赤坂の住居としたことも、特別送達の郵便物が転送されて申立人の住居である東京都港区赤坂において送達不能となり返送されていること、申立人から抗告棄却決定後提出されてきた昭和五四年五月五日付抗告理由書(同月七日受付)の抗告人住居の記載、同封筒の差出人住居の記載、同月一六日付抗告理由書(二)(同月一七日受付)、同月二二日付抗告理由書(三)(同月二三日受付)の各封筒の差出人住居の記載がいずれも東京都港区赤坂になっていることなどにてらし、相当であるので、右抗告棄却決定を書留郵便に付して送達したことになんら違法の点はなく、右決定謄本が有効に送達されたことにより、上訴期間が進行をはじめたものといわなければならない。

ところで前記のように、右書留郵便に付した郵便物もまた配達不能となり返送されてきたものであるから、申立人が当時抗告棄却決定のあったことを知らず、昭和五四年六月一四日になってはじめてこれを知ったものであることは推察するに難くないところであるが、もともと申立人は、埼玉県新座市と、東京都港区赤坂と二つの住居をもちながら、送達場所を明確に届出ることもしておらず、また所論主張のような事情では、とうてい自己または代人の責に帰することができない事由によって上訴期間内に上訴をすることができなかったものとはいえないから、本件上訴権回復の請求は理由がなく、これを棄却すべきものである。してみると本件特別抗告申立も、明らかに上訴権消滅後になされたものであって不適法であるから、刑訴法三七五条、四一四条を類推適用して、これを棄却するものとする。

(堀江 石田 浜井)

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