東京高等裁判所 昭和54年(ウ)460号 決定
〔主文〕
本件申立を却下する。
【判旨】
申立人らの申立の趣旨は、「申立人らと相手方間の東京高等裁判所昭和五四年(ネ)第一一四六号損害賠償請求附帯控訴事件において申立人らの附帯控訴申立に伴つて納付すべき手数料(附帯控訴状に貼用すべき印紙代)について、訴訟上の救助を付与する旨の裁判を求める。」というのであり、その理由とするところは次のとおりである。すなわち、申立人らは右事件の原審(東京地方裁判所昭和五〇年(ワ)第一三一〇号)において、訴提起及び請求拡張申立に伴う手数料の納付(訴状及び請求拡張申立書に貼用すべき印紙代)並びに証人箱山悦啓にかかる訴訟費用の納付について、それぞれ訴訟上の救助を付与されたものであるが、原審において申立人らの請求の一部を認容する判決の言渡を受け、仮執行の宣言が付されたので、これに基づいて昭和五四年四月七日強制執行をし、右認容額について弁済を受けたものの、相手方の控訴により原審判決の確定を妨げられ、執行によつて得た右金員も「有つて無きが如き」ものとなつたほか、申立人上野實(満七七才)は資力がなく、最近腰を痛めて収入の道が途絶えてしまい、また申立人上野ヨシエも無資力、無収入であつて、いずれも訴訟費用を支払う能力はない、というにある。
よつて考えるに、記録によれば、本件訴訟は、申立人ら夫婦の子である亡孝司が、昭和四八年二月一日、相手方の所有し占有する高田馬場駅ホームの設置、保存の瑕疵又は、相手方の亡孝司との運送契約上の安全確保義務の懈怠があつたことにより、同駅ホームから線路上に転落し、居合せた一般乗客らがひき上げようとしていたところに進入して来た電車とホームとの間にはさまれて即死したため、申立人らが、亡孝司の被つた財産上精神上の損害につきその相続人として、また申立人ら固有の精神的損害について、相手方に対し賠償を求めるものであり、原審は、多数の書証、人証その他を取調べたうえ、請求の一部を認容し、相手方から申立人らに対し、それぞれ八八七万円とこれに対する昭和五〇年三月二七日以降支払ずみまで年五分の割合による遅延損害金を支払うべき旨の判決を言渡してこれに仮執行宣言を付したところ、申立人らは、仮執行宣言に基づき執行文の付与を受けたうえ、強制執行により全額(遅延損害金ともでそれぞれ一、〇六五万七、三六五円)の弁済を受けたことが認められる。
ところで、民訴法一一八条にいわゆる訴訟費用を支払う資力のない者とは、自己及びその家族の一般的水準の生活を害することなくしては、訴訟費用を支弁することができない者を指し、この場合における訴訟費用とは、法定訴訟費用のほか、訴訟追行に附随する必要な経費をも含むものと解すべきであるが、本件訴訟については、既に第一審で多数の証拠調べを経ているのであるから、控訴審においては前示の意味での訴訟費用が殊更多額に及ぶものとは認められず、かつ申立人らの附帯控訴状に貼用すべき印紙額は各二一万二一〇〇円であるところ、申立人らは仮執行宣言に基づく強制執行により相手方から各一〇〇〇万円余の弁済を受けているのであるから、右程度の貼用印紙額を支出したからといつて、当面、通常の生活水準を維持することができなくなるおそれがあるとは認められない。申立人らは、原判決の仮執行宣言に基づいて相手方から支払いを受けた金員は、「有つて無きが如き」ものと主張するけれども、仮執行宣言に基づく強制執行とはいつても、法律に定められた手続により権利の実現として収受した金員である以上、申立人らの収入としてその資産を構成し、申立人らはこれを自由に処分し得るものというべきである。その他申立人らの主張する事情に徴しても、申立人らが訴訟費用を支払う資力はないと認めることはできず、他に疎明資料もない。
よつて申立人らの本件申立は理由がないから、却下することとし、主文のとおり決定する。
(森綱郎 新田圭一 真榮田哲)