東京高等裁判所 昭和54年(ネ)1098号 判決 1979年8月30日
控訴人
岡田浩平
右訴訟代理人
御園賢治
大塚泰紀
被控訴人
浅見
主文
原判決を取り消す。
本件訴えを却下する。
訴訟費用は第一、二審とも控訴人の負担とする。
事実及び理由
本件訴えは、原判決末尾添付物件目録記載(一)の土地(本件土地)はもと被控訴人の所有であつたが、明治二二年一一月一四日浅見兼吉がこれを買い受け、その後、浅見次郎吉、平塚静子が相続によつて順次これを承継した、また、仮りに然らずとしても、浅見次郎吉が昭和二七年四月一九日から同人死亡後は平塚静子がその占有を継続したことにより、遅くとも昭和四七年四月二〇日取得時効が完成し、平塚静子の所有に帰したところ、控訴人(第一審原告)が昭和五三年八月二七日平塚静子からこれを買い受けたとして、所有権に基づき、被控訴人を被告と表示した訴状を昭和五三年一二月二一日原裁判所に提出し、被控訴人に対し本件土地についての所有権移転登記手続を求める、というのである。
そこで、職権によつて調査するのに、被控訴人は、安政六年(西暦一、八五九年)六月二日生れで、現在生存しているとすれば、満一二〇才の高齢に達するものであるが、戸籍上、所在不明の高齢者として戸籍法二四条及び昭和三二年一月三一日民事甲第一六三号民事局長回答に基づき、東京法務局長の許可を得て、練馬区長により、昭和五二年四月一五日職権で、死亡を原因として除籍されており、また、相続人の有無も確認し得ないこと、記録上明らかである。
ところで、かかる除籍の効果については法律になんらの規定も存しないが、一〇〇才以上の高齢で所在不明の者が生存している蓋然性は極めて低いという経験則に徴し、また、公文書たる被控訴人の戸籍簿に右のごとき除籍の記載があり、被控訴人の生存を窺わせる資料も皆無であることに鑑み、被控訴人は、本件訴え提起当時すでに死亡していたものと認めるのが相当である(最高裁判所昭和二八年四月二三日判決、民集七巻四号三九六頁参照)。
したがつて、本件訴えは、被告適格を誤つた不適法な訴えで、しかも、その欠缺を補正する途がないので、これを却下すべきである。
なお、控訴人は、当裁判所に提出した「当事者の表示の訂正申立並びに特別代理人の選任申請」と題する表面で、本件訴えは相続財産法人を相手方とする訴えと解すべきであるとして、被控訴人の表示を浅見相続財産法人と訂正し、且つ、特別代理人の選任を求めるという。しかし、何人が訴訟の当事者であるかは、当事者欄の表示請求の趣旨及び請求の原因等訴状に表示されたところを客観的に観察して決定すべきところ、本件訴状の表示をもつて、本件訴えが浅見相続財産法人を相手方とするものであると理解することは到底許されず、控訴人の右主張は、当事者の表示の訂正に名を借りていわゆる任意的当事者の変更を行なわんとするにほかならないものであるが、任意的当事者の変更は、新当事者に対する新訴の提起と旧当事者に対する旧訴の取下の複合する訴訟行為であつて、第一審においてはともかくも、控訴審においては、審級制度の建前上、行政事件訴訟法一五条のごとき特別の規定のない以上、許されないものというべきである。
よつて、被告適格の欠缺を看過して本案の判断を下した原判決は、失当であるので、民訴法二〇二条、三八六条の規定に従い、原判決を取り消して本件訴えを却下することとし、訴訟費用の負担につき民訴法九六条、八九条を適用して、主文のとおり判決する。
(渡部吉隆 浅香恒久 中田昭孝)