東京高等裁判所 昭和54年(ネ)1463号 判決 1981年1月29日
昭和五四年(ネ)第一四六四号事件控訴人、同年(ネ)第二五六三号事件附帯被控訴人(以下、控訴人という。)
佐々木芳衛
右訴訟代理人
和田良一
同
福原敦
昭和五四年(ネ)第一四六四号事件被控訴人、同年(ネ)第二五六三号事件附帯控訴人(以下、被控訴人という。)
平塚輝一
右訴訟代理人
松林詔八
主文
本件控訴及び附帯控訴に基づき、原判決を左のとおり変更する。
控訴人は被控訴人に対し金四四三万二九三六円及びこれに対する昭和五一年三月二三日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。
被控訴人のその余の請求及び控訴人の請求を棄却する。
訴訟費用は、第一、二審を通じてこれを九分し、その五を控訴人の負担、その余を被控訴人の負担とする。
事実《省略》
理由
一(請負契約)<省略>
二(事情変更による請負代金の増額)
原判決一九枚目表四行目二の項を次のとおり訂正する。
昭和四八年秋頃わが国経済界を襲つたいわゆるオイルショックにより、諸物価は急騰し、建築関係についても、セメント等建築資材の値上りないしは不足、さらには工賃の上昇等をも招くにいたつたことは公知の事実に属するから、請負者たる控訴人が注文者たる被控訴人に対し、このような事情の急変を理由として、本件請負代金の増額方並びにその旨の協議を求めることは無理からぬところであつて、被控訴人もまたこれに対し誠実に対応すべきものといわなければならない。しかしながら、このことはその限りのことであつて、控訴人主張の如く、増額の請求によつて法律上当然にその趣旨の請求権が請求者のために形成せられるべきものとする実定法上の根拠はないから、このような場合には、契約の当事者はあくまで誠実にその協議を遂げ、適当な増額の措置を定めるほかはないものと解すべきである。
<証拠>を綜合すると、本件請負契約においては、甲事件再抗弁1項記載の如き約定も設けられており、控訴人は本件、請負契約締結後程ない頃から被控訴人に対し資材の値上り等を理由に、繰り返し請負代金の増額を求め、昭和四九年一一月一五日には金一三一八万円の増額方を請求するに及んだが、被控訴人の誠意ある対応ないし協力が得られず、ついにその協議が整うまでにはいたらないことが認められ、右のような被控訴人の非協力が後にもふれるとおり、本件工事遅延の一因にもつながつたものとみることができるが、さらばといつて、控訴人主張のように、控訴人の請求により当然に工事代金が増額されることになるわけではないから、この点に関する控訴人の主張は、結局採用するに由のないものというべきである。
三(工事代金)<以下、中略>
六(被控訴人の損害)
<前略>
原判決三一枚目表六行目「相当とする」から同九行目「したこととなり、」までを「相当とするが、さきに説示したとおり、本件工事につき控訴人の着工が昭和四八年一二月頃まで遅れたことについては、経済事情の急変によることのほか、被控訴人にもある程度責められるべき点があり、ひとり控訴人のみの責に帰せしめることはいささか酷であるとみられる上に、その後における工事の遅延についても、前同様の事情がからみ、加えて被控訴人の資金事情あるいは<証拠>によれば、本件契約においては、工事が著しく遅れた場合にはじめて契約を解除することができること、工事代金の支払が遅れ、あるいは注文者が代金増額の協議に誠意をもつて応じないような場合には、請負者は工事を一時中止することができる等の各約定があり、前顕各証拠によれば、これらの事情の下で、控訴人はとかく被控訴人の代金支払状況に合わせながら工事を進めようとし、被控訴人もまた控訴人の工事の進捗状況に合わせて代金の調達をはかろうとする傾向がみられたこと、左程時を経ずして被控訴人自らが施工した残工事の費用が可成り高額であつたことからみても、本件工事代金は低廉にすぎるものと推認し得ること等諸般の事情を総合すると、本件においては、少くとも着工の遅れた二か月に相応する期間の工事遅延につき、被控訴人は違約金の請求をなし得ないものとするのが衡平の観点からみて相当であると考えられるので、結局、控訴人は完工による引渡期限である昭和四九年五月一六日の二か月後である同年七月一六日から前記出来高引渡の日である昭和五〇年六月一七日までの三三七日間につき違約金支払の責を負えば足りるものというべきであり」<後略>
(杉田洋一 中村修三 松岡登)