東京高等裁判所 昭和54年(ネ)2094号 判決
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【判旨】
三控訴人の主張二について
控訴人は、本件賃貸借契約八条は借家法六条によりその効力を生ぜず、また公序良俗に反するほか、民法九三条但書により無効であると主張する。しかしながら被控訴人のした本件賃貸借契約の更新拒絶は控訴人が本件部屋のベランダで犬二匹を飼育することによつて昭和五一年秋頃から本件部屋付近居住者に犬の糞尿とか吠声等による被害を発生させて多大の迷惑を及ぼし、被控訴人から再三に亘り犬の飼育中止を求められたにもかかわらず、頑なにこれを拒んだことをその理由とするものであつて、本件更新拒絶は居住者に静穏な住居を供給すべき義務を有する共同住居の賃貸人である被控訴人において前記契約条項の有無にかかわらず、これをなし得るものというべきであるうえに、前述のとおり本件のような共同住宅にあつては賃貸人は賃借人に対し静穏に居住させる義務を有しているのみならず、賃借人相互間においても危険、不潔その他近隣に迷惑を及ぼす行為は厳にこれを慎まなければならないことは今更いうまでもないところであるから、賃貸人においてこれが実効を確保するため前記のような条項を設けることは当然になし得るものといわなければならない。従つて前記条項はもとより借家法六条に反するものでも、公序良俗に反するものでもないし、また本件全証拠を検討するも被控訴人が本件賃貸借契約において右条項を適用する意思が全くなかつたにもかかわらず、これを設けたと認めるにたるものはないから右条項が民法九三条但書により効力を有しないとすることはできない。控訴人のこの主張も理由がない。
四控訴人の主張三について
控訴人は、犬の飼育により被控訴人は損害を被つていないし、近隣住民に対する損害は既に控訴人において填補ずみであるから本件更新拒絶は権利の濫用である等と主張するが、本件に現れたすべての証拠によるも右損害填補の事実を認めることができないうえに本件更新拒絶に正当な事由の存することは前叙のとおりであつて、控訴人のこの主張はひつきよう事実に基づかない独自の見解であつて採用の限りでない。
五控訴人が昭和五三年一一月二〇日シェパード犬を、昭和五五年三月二五日スピッツ犬をいずれも他に譲渡し、現在本件部屋で犬を飼育していない事実は当事者間に争いないが、右の事実は本件賃貸借契約が更新拒絶により終了した後に生じたものであるばかりでなくこの事実を考慮しても本件更新拒絶に正当な事由があるとする判断は左右されるものではないから、控訴人のこの主張は理由がない。
(川上泉 賀集唱 福井厚士)