東京高等裁判所 昭和54年(ネ)2230号 判決
三 被控訴人は、有野から控訴人への本件手形金及び利息金の債権譲渡は信託法第一一条に違反し無効である旨を主張するので、まずこの点を検討する。
1 《証拠》によれば、右債権譲渡をなしたのは有野が控訴人に対し借金債務を負担していたからであるというのであるが、控訴人は右尋問において、当時控訴人が有野に対して有していた貸金債権額は約一〇〇〇〇万円で、現在そのうち約三五〇万円の債権が残っていると記憶すると供述しながら、これら貸借関係を裏付ける帳簿書類等は存在しないと供述し、また弁済を受けると借用証は返還する、右債権譲渡を受けた後に貸付けた分はすべて回収済であると供述しながら、昭和五五年一二月になした一〇〇万円の貸付に係る書類は現存すると供述し、他方有野は、原審証人としては、当時本件手形の額面金額相当の借金があったと証言しながら、当審証人としては、当時二〇〇万円ないし三〇〇万円の借金があったが、現在は返済を終っていると証言し、その後これを翻して、まだ二〇〇万円位残っていると証言しており、右尋問結果及び各証言からすれば、両者間の貸借関係、ひいては右債権譲渡の趣旨は、極めて曖昧であるといわねばならない。
2 《証拠》によれば、控訴人は右債権譲渡を受けるに当たり、有野から被控訴人には資力があるから大丈夫だとの言葉を得たのみで、被控訴人の資力については全く調査をしていないことが認められ、また右尋問において、有野の本件手形入手の経緯、被控訴人の職業については、当時有野から聞いたと思うが、忘れたと供述している。
更に《証拠》によっても、控訴人と有野との間において右債権譲渡の対価は決めておらず、控訴人において取り立て得た金員を有野の債務の弁済に充てるとの約であり、有野としては、もし控訴人がその有野に対する債権額以上の金員を取り立てることができた場合は、差額は控訴人が有野に返還してくれるものと了解していたというのであり、《証拠》によれば、控訴人は本件訴訟提起に先立ち訴訟外で本件手形金及び利息金を請求することは全くしていないことが認められる。
3 《証拠》によれば、本件訴訟提起につき控訴人の訴訟代理人である弁護士を控訴人に紹介したのは有野であること、右提起に先立ち、控訴人は右訴訟代理人と同一人を代理人として本件手形債権の一部を被保全権利とする債権仮差押命令を横浜地方裁判所に申請し、昭和五二年三月二三日同裁判所の仮差押命令を得ているが、控訴人自身は、当審における右尋問当時に至るまでこの事実を知らないでいたこと、右仮差押命令に係る保証金をはじめとし、本件訴訟の弁護士費用、訴訟費用等は、控訴人自身の交通費、有野との話合いの際の食事代を除き、有野において支弁していることが認められ、更に控訴人は右尋問において、本件訴訟の第一審判決の内容は聞いたが、忘れたと供述している。
以上の諸点を総合勘案すれば、右債権譲渡は、訴訟行為をなさしめることを主たる目的としてなされたものと認めるに十分であり、信託法第一一条に違反し、無効であるといわねばならない。
(園田 三好 柴田)