東京高等裁判所 昭和54年(ネ)285号 判決
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【判旨】
1 そこで、本件交通事故が被控訴人らの責に帰すべき原因によつて発生したものであるか否かについて検討するに、まず、<証拠>を総合すると、次の事実を認めることができる。そして、甲第五号証及び証人赤岩永至の証言(原審)も右認定を左右しうるものではないし、また、その他にこの認定を覆すに足りる証拠は存在しない。
(一) 本件交通事故が発生した国道四号線バイパス(以下「本件バイパス」という。)は、東京都から春日部市方面へ南北に走つている、歩車道の区別のあるコンクリート舗装の道路であつて、その車道は、中央分離帯をはさんで上り、下り各二車線に区分されており、そして、右事故発生の現場(以下、「本件現場」という。)には、東方から幅員四メートルの砂利道が交わる交差点(以下、「本件交差点」という。)があり、その部分では中央分離帯が切れ目となつていた。なお、本件バイパスの本件現場付近は、直線道路で前方の見通しは良く、かつ、路面は平坦であつた。
(二) 本件交通事故の発生当時、本件バイパスの本件現場付近での駐停車は禁止されていたが、右折や転回は禁止されておらず、従つて、車両の右折や転回のために本件交差点付近に停車することは、適法なものとして認められていた。また、本件交差点付近には信号機や照明施設がなかつたため、夜間はかなり暗かつたが、右事故発生の当時の天候は晴れであり、かつ、本件現場の路面は乾燥していた。
(三) 被控訴人大沢が当日運転していた大型貨物自動車(以下、「大沢車」という。)は、長さ7.85メートル、幅2.45メートル、高さ2.76メートル、車両重量9.11トン、最大積載量10.5トンのダンプカーであつて、右被控訴人は、当夜、右自動車に土砂を満載して東京都内から本件バイパスを北上し、本件交差点の一つ手前の交差点付近から第二車線(中央分離帯に近い車線)に移り、本件交差点から前記砂利道に入るべく本件現場で右折しようとしたが、たまたま上り車線上を南方に進行する十数台の対向車があつたため、同所でブレーキペダルを踏み、車体を中央分離帯の切れ目のところに斜めに向けて、丁度第二車線を塞ぐような形で一時停車していた。なお、右一時停車していた際、大沢車は、警音器は鳴らしていなかつた。
(四) 右停車当時、大沢車の尾灯(ストップランプ)、右折指示灯(右折指示用の点滅ランプ)等は、いずれも正常に作動しており、格別故障ないし異状はなかつたし、その他にも、同車には構造上の欠陥ないし機能の障害はなかつた。(なお、乙第一号証添付の写真10及び11によれば、大沢車の積載土砂を覆うシートの末端が後方から見る角度のいかんによつては同車の右側尾灯の一部を覆い隠すように止められていたと見えないわけではないが、右写真は本件交通事故の発生後、従つて後記のごとく大沢車の後部が大破した後に撮影されたものであることが明らかであるから、右事故の発生前においても右シートの末端が右のとおりになつていたか否かは必ずしも明確でないのみならず、仮にこれが肯定されるとしても、そのために大沢車の尾灯(更に右折指示灯)が完全に隠れてしまうものではない。)
(五) ところで、訴外宮階清が当日運転していた普通貨物自動車(ライトバン(以下、「宮階車」という。)は、大沢車が進行したのと同じ本件バイパスの下り第二車線を同車の後方から時速七〇ないし八〇キロメートル以上の高速で北上し、本件現場において、右のとおり一時停車していた大沢車の後部左寄りの部分に自車の前部右寄りの部分をめりこませるようにして激突し、その結果、本件交通事故を発生させるに至つた。
(六) 右激突の結果、宮階車の前部は大破し、ハンドルは折損し、訴外宮階清は全身打撲で間もなく死亡するに至り、一方、大沢車は、後部バンパー、後部左フエンダーが大きく破損し、後輪がずれて、自ら走行することができなくなるなどの損害を受けた。しかし、右激突後の本件現場の路面上には、右両車のスリップ痕や車轍痕などは全く認められなかつた。
(七) 大沢車が右のとおり本件現場に一時停車した際、本件バイパスの下り第二車線上の大沢車と宮階車との間には、宮階車の前方を先行する自動車が数台あつたが、それらの先行車は、いずれも停車中の大沢車を避けて第一車線(第二車線の外側の車線)に移行したうえ、無事に本件交差点の西側部分を通過して北上している。(但し、それらの先行車の走行速度や大沢車、先行車及び宮階車相互間の車間距離等がどれだけであつたかは、全く不明である。)
(八) なお、本件交通事故の発生当時、大沢車の保有者は被控訴人渡辺であつた(この事実は、控訴人らと控訴人渡辺及び被控訴人会社との間では争いがない。)が、同被控訴人には、右事故の発生について故意、過失はなかつた。
2 以上に認定した事実関係に基づいて考察するに、本件交通事故の発生については、被控訴人大沢及び被控訴人渡辺には何ら故意、過失がなかつたし、また、右事故発生の当時、大沢車には構造上の欠陥ないし機能の障害もなかつたというべきであり、右事故は、専ら訴外宮階清の過失によつて発生したものというべきである。
すなわち、本件バイパス上に本件交差点があり、同所における車両の右折や転回が禁止されていない以上、被控訴人大沢が本件交差点から前記砂利道に入るために本件現場で右折しようとしたこと及びその際上り車線上に対向車があつたため同所において一時停車したことは、当然に許されるべき性質の行為であつて、道路交通法上もこれを違法とすべき理由はない。また、前記認定の事実関係からすれば、被控訴人大沢の右一時停車の態様ないしその際の措置は、本件バイパスにおける正常な交通を妨害し、交通の安全を阻害するようなものではなかつたし、右一時停車当時大沢車の尾灯、右折指示灯その他においても、交通の危険を惹起するような構造上の欠陥ないし機能の障害はなかつたというべきである。たしかに、本件バイパスのような道路上において、しかも夜間、先行車が交差点等で一時停車する場合には、その先行車の一時停車自体には何らの違法ないし過失が認められないときでも、後続車による追突事故等を発生させる危険性のあることは否定することができない。しかし、そのような事故は通常後続車の運転者の重大な過失(速度違反、前方不注意、居眠り運転等)によつて発生するものであるから、そのような事故発生の危険の回避は後続車の運転者による注意義務の遵守に期待するほかなく、後続車の運転者に重大な過失がある場合までも予想して、先行車の運転者に右のような危険の回避義務を負担させるのは相当でないというべきである(けだし、もし先行車の運転者に右のような厳しい義務まで負担させるとすると、先行車の運転者としては本件交差点のような場所では右折や転回をすること自体が事実上不可能になり、右折や転回を禁止されるのと同様の立場に追いやられることにならざるをえないからである。)。また、大沢車が本件現場に一時停車していた際警音器を鳴らしていなかつたことは、前記認定のとおりである。しかし、同じく前記認定のとおり、本件バイパスの本件現場付近は直線道路で前方の見通しは良く、路面は平坦であり、しかも、宮階車を除くその余の後続車(宮階車の先行車)数台はいずれも停車中の大沢車を避けて無事に本件交差点の西側部分を通過しているのであるから、大沢車の右一時停車の際、危険防止のために警音器を鳴らさなければならないほどの緊急やむをえない事情があつたとは認められない。なお、控訴人らは、被控訴人大沢の右右折及び一時停車については、道路交通法第二五条、第二五条の二、第五五条、第七〇条等に違反する過失があつた旨主張するが、そのような主張の採用することができないことは、以上に述べたところから、明らかである。
そうすると、本件交通事故の発生については、被控訴人大沢には何ら故意、過失がなかつたし、また、右事故発生の当時、大沢車には構造上の欠陥ないし機能の障害もなかつたというべきであり、更に、右事故の発生について、大沢車の保有者である被控訴人渡辺に故意、過失のなかつたことは、前記認定のとおりである。
却つて、前記認定の事実関係、とくに宮階車が大沢車に激突した際の宮階車の速度、右激突の部位及びその激突の結果生じた右両車の状況、程度、本件現場の路面上には右両車のスリップ痕や車轍痕などが認められなかつたこと、並びに宮階車の先行車はいずれも大沢車を避けて無事に本件交差点の西側部分を通過していることなどからすると、右事故は、専ら訴外宮階清の過失によつて発生したものといわざるをえない。(なお、控訴人らは、本件現場は深夜には事実上高速道路化していたこと、当時本件現場は漆黒の世界であつたこと、暗夜には尾灯を見ただけでは遠近感が判然としないことなどを主張しているが、もしそうであるとすれば、当時訴外宮階清には一層高度の前方注視義務等が課されていたものと解すべきである。)
3 以上に検討、考察したところからすれば、本件交通事故の発生については、被控訴人らには、民法上も、また、自動車損害賠償保障法上も帰責原因が存在しないものというべきであり、従つて、被控訴人らは、控訴人らに対し、右事故によつて生じた損害の賠償義務を負わないものというべきである。
(鰍澤健三 沖野威 奥村長生)