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東京高等裁判所 昭和54年(ネ)2970号 判決 1980年9月29日

控訴人

名取今朝男

控訴人

林今朝夫

右両名訴訟代理人

毛利正道

被控訴人

田中一弘

主文

原判決を次のとおり変更する。

控訴人らは各自被控訴人に対し金六〇万七五〇〇円及びうち

二三万七五〇〇円に対する昭和五四年六月一日から

九万五〇〇〇円に対する昭和五一年一〇月二一日から

九万五〇〇〇円に対する同年四月二一日から

九万円に対する同年五月二一日から

九万円に対する同年五月二六日から

各完済まで年五分の割合による金員を支払え。

被控訴人のその余の請求を棄却する。

原審の訴訟費用は二分し、その一を被控訴人の、その余を控訴人らの各負担とし、控訴費用は控訴人らの負担とする。

本判決は被控訴人勝訴部分に限り仮に執行することができる。

事実

一  申立て<省略>

二  主張

1  被控訴人の請求原因

(一)  宮下昭七は昭和五〇年一二月二四日被控訴人に対し、朝倉とめ子が被控訴人あて現在負担し及び将来負担すべき貸金債務等について期間を七年とし債務極度額を三〇〇万円として連帯保証する旨を約した。

(二)  控訴人ら及び浅川数男は昭和五一年四月八日被控訴人に対し、宮下昭七が被控訴人あて現在負担し、或は将来負担する一切の貸金等債務について、期間を一〇年とし、債権極度額を五〇〇万円として連帯保証する旨約した。

(三)  被控訴人は昭和五一年中の左記貸付月日欄の月日に朝倉とめ子に対し、左記貸付金額欄記載の現金を貸付け、同人から右貸付元本及び弁済期迄の利息の支払いのため、左記小切手金額欄記載の金額を金額とし、同年中の左記振出月日欄記載の月日を振出日とする小切手の振出交付を受け、被控訴人が右振出日以降これを支払いのため呈示した日をもつて右貸付金の弁済期となす旨約させ、被控訴人は同年中の左記呈示月日欄記載の月日に支払いのため右小切手を呈示したところ、支払いを拒絶された。

番号

貸付月日

貸付金額

振出月日

小切手金額

呈示月日

証拠(甲第一号証の)

(1)

二・二〇

九万五〇〇〇円

三・二〇

一〇万円

四・六

一の一、二

(2)

二・二二

九万五〇〇〇円

三・二二

一〇万円

四・六

二の一、二

(3)

二・二四

四万七五〇〇円

三・二四

五万円

四・六

三の一、二

(4)

三・七

九万五〇〇〇円

四・七

一〇万円

四・七

四の一、二

(5)

三・二〇

九万五〇〇〇円

四・二〇

一〇万円

四・二〇

五の一、二

(6)

三・二〇

九万円

五・二〇

一〇万円

五・二〇

七の一、二

(7)

三・一八

一〇万円

五・二五

一〇万円

五・二五

九の一、二

(注) 以下右各債務を(1)の債務(以下これに準ずる。)と称する。

(四)  よつて被控訴人は控訴人らに対し各自右保証債務元本のうち計六一万七五〇〇円及びうち(1)ないし(3)の各債務の合計二三万七五〇〇円に対する弁済期の翌日たる昭和五一年四月七日から、うち(4)の債務九万五〇〇〇円に対する同じく同年同月八日から、うち(5)の債務九万五〇〇〇円に対する同じく同年同月二一日から、うち(6)の債務九万円に対する同じく同年五月二一日から、うち(7)の債務一〇万円に対する同じく同年同月二六日から各完済まで年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める。<以下、事実省略>

理由

一被控訴人主張の連帯根保証債務の成立

1  <証拠>によると、被控訴人の請求原因(一)の事実を認めることができる。

2  <証拠>によると、被控訴人の請求原因(二)の事実を認めることができる。

3  <証拠>によると、被控訴人の請求原因(三)の事実(但し(7)の債務の貸付金額は九万円とする。)を認めることができ<る。>

二控訴人ら主張の抗弁の成否

1  控訴人ら主張の要素の錯誤及び詐欺の抗弁事実に副う<証拠>は、<証拠>に照らし採用できず、その他右主張事実を肯認できる証拠はない。

2  <証拠>によると、控訴人らは右連帯根保証契約において、宮下昭七自身が控訴人に対し負担する貸金債務のみならず、宮下昭七が第三者のために負担する保証債務についても連帯根保証する旨約したことが明らかである。

右約定による第三者すなわち主債務者の負担する債務の中に別の第三者のための保証債務も含むとすれば、かような契約を順次重ねることにより連帯根保証人の実質上の主債務者は連鎖的に無限に拡大する可能性を含むことに論理上ならざるを得ない。しかし、控訴人ら尋問の結果によれば、控訴人らは宮下昭七の委託を受けて連帯根保証契約を結んでいることが認められる。かような人的担保にあつては、主債務者と連帯根保証人との間の人的関係が重要と考えられ、これを無視して実質上の主債務者の無制限な拡大を許すことは、双方当事者の合理的な意思に即しないというべきである。従つて、右連帯根保証契約の主債務は宮下昭七が第三者のために負担する保証債務を含むことは、契約上明白であるが、明示の合意が認められない関係上、その宮下昭七の保証債務の主債務即ち第三者の債務には、その第三者が別の第三者のために負担する保証債務を含まないと解すべきである。

この結果として、控訴人らは、朝倉とめ子の負担する貸金債務担保のために宮下昭七が負担した保証債務をさらに保証したというべきであるが、朝倉とめ子が羽山千萬三の債務のために負担する保証債務を担保する宮下昭七の保証債務までを保証したとはいえない。

右連帯根保証契約において期間一〇年、債権極度額五〇〇万円と定められているが、控訴人らが一介の労働者であるとしても、この条項が直ちに不当であると考えるべき事情は認められない。

<証拠>によると、被控訴人は右連帯根保証契約を締結した後の昭和五一年四月二二日控訴人ら及び浅川数男との間で控訴人ら及び浅川数男が右連帯根保証契約を履行しなかつた時の損害賠償額を五〇〇万円と約定したことが認められるが、この条項は不履行の場合の措置に関しており、右連帯根保証契約の本質的要素をなすものではないから、これがたとえ利息制限法に違反し、又は公序良俗に反する事項を目的とするとしても、当該部分のみを無効とすれば足り、保証債務自体の履行を求める本訴は右条項の効力如何により影響を受けないと解せられる。

<証拠>によると、控訴人らが右連帯根保証契約上の弁済による代位に基き、被控訴人から取得した権利は、被控訴人と宮下昭七との取引継続中被控訴人の同意なくして行使されないものとし、被控訴人の請求があれば、控訴人らは被控訴人に無償で右権利を譲渡する旨定められていることが明らかである。

右条項は右連帯根保証契約の本質的要素をなすものではないから、それが違法であるとしても、その条項のみを無効とすれば足り、その効力は本訴に影響を及ぼさないと解すべきである。

控訴人らの無思慮無経験に乗じて右連帯根保証契約が貸金回収のため結ばれたとの事実は、これを認めるに足りる確証がない。

以上説明のとおりであるから、右連帯根保証契約は、実質上の主債務者の範囲を前記のように制限的に解すれば、その期間を一〇年、債権極度額を五〇〇万円とする事項の存在及び被控訴人が、多数の者と同様の契約を結んでいる事実などを考慮しても、なお公序良俗に反する事項を目的とするとまでは断じ難い。

3  前記認定の諸事情を考慮すれば、本件請求をもつて権利の濫用であるとはいえず、その他、控訴人らの主張を考慮しても、これを権利の濫用と判断すべき事情は認められない。

4  過失相殺の法理は民法四一八条の明文上債務不履行による損害賠償に適用され、本件のような連帯根保証契約に基づく保証債務元本請求について適用されないことは勿論、その履行遅滞により生じた法定利率による遅延損害金請求についても、民法四一九条の法意にかんがみ適用されないと解するのを相当とする。このことは保証契約が主たる債務の不履行の場合の担保の役割を果たしていることを考慮してもかわらない。

のみならず、被控訴人は控訴人らに対し右契約締結に当りその内容につき説明をしなかつたことは争いがないが、前記認定事実に徴すれば、控訴人らは右契約内容を了知して右契約を締結したものというべく、被控訴人が説明をしなかつたことが過失にあたるとしても、これと控訴人らが右債務を負担したこととの間には因果関係を欠くというのほかはない。

よつて控訴人らの過失相殺の主張は採用しない。<以下、省略>

(沖野威 奥村長生 佐藤邦夫)

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