東京高等裁判所 昭和54年(ネ)658号 判決
(二) 次に、控訴人が右求償権の満足をうるため訴外金庫に代位して本件根抵当権により優先弁済を主張しうる被担保債権の額について考えるに、民法五〇一条但書五号は、保証人と自己の財産をもって他人の債務の担保に供した者(以下「物上保証人」という。)との間の代位の関係について、その頭数に応じてのみ債権者に代位する旨を規定しており、右によれば、控訴人は本件根抵当権の被担保債権として、訴外金庫から代位取得した訴外会社に対する貸付金債権のうち控訴人と訴外本多の二人でこれを二分した一しか主張しえないことになる(≪証拠≫によれば、訴外本多は訴外会社の本件借受金債務につき物上保証すると同時に連帯保証もしていることが認められるが、同一人が同時に物上保証人と連帯保証人とを兼ねる場合、民法五〇一条但書五号の適用についてはこれを一人として数えるのが相当である。)。しかしながら、民法五〇一条但書五号の規定は、保証人と物上保証人との間で、弁済による代位に関し別段の定めがない場合に、右両者の負担部分の割合が同一であるとして、その間の利益の調整を図ることを目的とした任意規定であり、右両者の間で、負担部分の割合につき右と異なる約定をし、代位の関係についてもその割合によるべき旨の約定をすることは何ら妨げられるものではなく、右のような約定がなされた場合には、右両者の関係はこれに従って定まると解するのが相当である。
これを本件についてみるに、≪証拠≫によれば、昭和四九年五月一日控訴人と訴外本多との間で、本件(イ)の特約、すなわち控訴人が訴外金庫に対し本件借受金債務を代位弁済した場合には、訴外本多は訴外会社と連帯して、控訴人に対し控訴人の代位弁済額全額及びこれに対する代位弁済の日の翌日から完済まで年一八・二五パーセントの割合による遅延損害金を支払う旨の合意並びに本件(ロ)の特約、すなわち控訴人が右代位弁済をした場合には、控訴人は訴外本多が訴外金庫に設定した本件根抵当権の全部につき訴外金庫に代位し、控訴人の取得する求償権の範囲内で訴外金庫の有していた一切の権利を行使できる旨及び訴外本多が訴外金庫に対し保証債務を履行し、又は訴外本多が訴外金庫に設定した根抵当権が実行された場合でも、訴外本多は控訴人に対し何らの求償をしない旨の合意がなされた事実を認めることができ、右認定に反する証拠はない。右によれば、控訴人と訴外本多とは、右各特約により、訴外会社が訴外金庫に対して負担する本件借受金債務につき、物上保証人としての訴外本多と保証人としての控訴人の負担部分の割合につき訴外本多のそれを全部とし、控訴人のそれを零とする旨定めると同時に、控訴人が訴外金庫に代位して訴外本多に対し本件根抵当権を行使する場合の両者の関係について、右負担部分の割合に応じ、控訴人において訴外金庫から代位取得した貸付金債権の全部を被担保債権として主張できることとする旨の約定をしたというべきである。してみると、先に説示したところにより、控訴人は、本件根抵当権を代位行使するにあたり、少なくとも訴外本多に対する関係においては、民法五〇一条但書五号の規定にかかわらず、訴外金庫から代位取得した訴外会社に対する貸付金債権全部について、本件根抵当権の極度額の範囲内において優先弁済を主張しうることとなる。
(三) ところで、≪証拠≫によれば被控訴人岡島商店は昭和四九年一二月四日、被控訴人遠藤は昭和五〇年三月二八日本件建物につき根抵当権設定登記を経由した、訴外金庫の後順位抵当権者であることが認められる。そこで、このような後順位抵当権者の存在する配当手続においても、控訴人が、右(一)認定の求償権の範囲につきなされた民法四五九条二項、四四二条二項の規定と異なる遅延損害金の約定及び右(二)認定の物上保証人・保証人間の代位の関係につきなされた民法五〇一条但書五号の規定と異なる内容の約定に従って、本件根抵当権を代位行使しうるかを検討しなければならないところ、主債務者に代わって弁済をした保証人が求償権の満足を図るべく債権者の有していた根抵当権を代位行使する場合、その被担保債権として優先弁済を主張しうるのは、債権者から代位取得した主債務者に対する債権についてであって(求償権は右根抵当権及び債権を代位行使しうる上限を画するものである。)、弁済による代位の性質上、右被担保債権の額は、求償権の範囲や代位の関係についてどのような約定がなされたとしても、右代位取得された債権額を超えることはありえず、しかも右根抵当権の極度額の範囲内に限られるすじあいである。一方、債権者の有していた先順位の根抵当権の存在及びその極度額は登記簿上公示されているのであるから、後順位抵当権者は、右先順位の根抵当権者によって当該根抵当権の被担保債権全部について極度額の範囲内において優先弁済を主張されることを甘受すべき立場にあるものというべく、このような立場にある後順位抵当権者との関係で前記各約定の効果を肯定し、これに従って代位弁済者による根抵当権の代位行使を認めても、それによってもたらされる結果は、後順位抵当権者にとっては自己の容喙することのできない他人間の法律関係によって事実上、反射的にもたらされるものにすぎないというほかない。
したがって、本件のような事実関係のもとにおいては、控訴人は、後順位抵当権者たる被控訴人らの存在にかかわらず、本件任意競売事件において、求償権の範囲及び代位の関係が前記各約定(本件(イ)、(ロ)の特約)に従って定められるべきものとして、本件根抵当権を代位行使して配当を受けうるものというべきである。
被控訴人らは、以上の判断と見解を異にし、本件(イ)、(ロ)の特約は第三者である被控訴人らに対してはその効力が及ばないと主張するのであるが、一般に、甲乙間で、ある合意がなされ、その間の法律関係が右合意によって定まる結果、右合意の成立に何ら関与していない丙が法律上保護に値する利益を侵害され、不測の損害を被るに至るときには、甲又は乙と丙の利益の比較衡量の見地から、右合意の効果を何らの公示方法なくして丙との関係においてまで認めることはできないものとすべき場合がありうるとしても、本件においては、前叙のとおり後順位抵当権者である被控訴人らとしては、公示された先順位根抵当権の極度額の範囲内においては他から優先弁済を主張されてこれを甘受すべき立場にあると解されるのであるから、それ自体としては公示されていない本件(イ)、(ロ)の特約の効果を被控訴人らとの関係において認めても、被控訴人らが不測の損害を被るとは到底いえず、控訴人と被控訴人らの利益の比較衡量上不当な結果が生じるとまではいえないのであって、本件は右のような場合には該当しないと解すべきである。また、右の点に関連して被控訴人遠藤は、民法五〇一条但書五号等の規定は、それが任意規定であるにせよ、法律の規定なのであり、また右規定と異なる特約のなされない場合がほとんどであるから、第三者としては特約の公示がない以上、右規定の適用があることを予期して法律行為を行うものであるとも主張するが、本件に即していえば、後順位抵当権者が右規定の適用があることを予期して抵当権の設定を受けるものであるとは必ずしもいいがたく、右規定があくまでも任意規定にとどまる以上、自らが当事者でない他人間の法律関係についてその適用があることを予期することをもって、当然に法律上保護されるべき期待にあたるとすることはできないというほかない。
(小林 浦野 河本)