東京高等裁判所 昭和54年(ラ)185号 決定 1979年7月10日
抗告人
横浜曳船株式会社
右代表者
田中利幸
右代理人
南俊司
相手方
山田有喜こと
山田定市
主文
本件抗告を棄却する。
抗告費用は抗告人の負担とする。
理由
一本件抗告の趣旨及び理由は別紙のとおりである。
二債権者の申立に基づき債権差押、転付命令が発せられ、その執行裁判所の書記官が右差押、転付命令の正本を第三債務者に対して郵便による送達をするため郵便物として郵政省に差し出した後に、右債権者の当該債務名義による強制執行を停止する旨の決定正本が執行裁判所に提出されたときは、その当時まだ右差押、転付命令が第三債務者に送達されていなかつたとしても、右執行停止決定は、差押、転付命令の送達を違法ならしめるものではないと解するのが相当である。
けだし、強制執行停止決定は、執行裁判所にその正本が提出された時以降当該債務名義等に基づく執行の開始又は続行を禁ずるにすぎないものであるところ、執行裁判所の書記官が差押、転付命令正本を郵便物として郵政省に差し出したことによつて執行裁判所としての執行行為は終了するものというべきであつて、強制執行停止決定は、爾後の郵政省による送達行為を除去すべきことまで要求するものではなく、また、その効力を否定するときには、第三債務者の地位を著しく不安定なものとするからである。
本件において、記録によると、相手方(債権者)と抗告人(債務者)間の横浜地方裁判所昭和五三年(手ワ)第四一五号小切手金請求事件につき昭和五四年一月三一日相手方の請求を認容する仮執行宣言付判決が言い渡され、相手方が右判決を債務名義としてした債権差押及び転付命令の申立(同裁判所昭和五四年(ル)第一二六号、同年(ヲ)第一四三号事件)に基づき、同裁判所は同年二月五日本件債権差押・転付命令を発し、右命令は、同月六日第三債務者たる株式会社東京都民銀行(以下「都民銀行」という。)に対し、同月七日抗告人に対し各送達されたこと、他方、抗告人は、前記判決に対し異議を申し立てるとともにこれに基づく強制執行の停止を求めたところ、同裁判所は同月五日右強制執行停止決定をし、右停止決定は同月七日相手方(債権者)代理人弁護士長田喜一及び第三債務者である都民銀行に各送達されたこと、抗告人は同月五日右停止決定正本を執行裁判所である同裁判所に提出したが、その時には既に本件債権差押、転付命令が発せられ、右執行裁判所の担当書記官が、右命令正本を第三債務者である都民銀行に対し、郵便による送達をなすべく、郵便物として郵政省に差し出した後であつたことが明らかである。
以上認定の事実関係のもとにおいては、本件差押、転付命令が違法でないことは、前段説示のとおりである。
よつて、本件抗告は理由がないから棄却することとし、抗告費用につき民訴法九五条、八九条を適用して、主文のとおり決定する。
(杉本良吉 三好達 柴田保幸)
〔抗告の理由〕
一、相手方(原告)と抗告人(被告)間の横浜地方裁判所昭和五三年(手ワ)第四一五号小切手金請求事件につき昭和五四年一月三一日相手方(原告)の請求を認容する仮執行宣言付判決が言渡された。
二、相手方は右執行力ある判決正本にもとづいて、債権差押及び転付命令の申立をなし、昭和五四年二月五日別紙のとおり債権差押及び転付命令が発せられ、債務者たる抗告人及び第三債務者たる株式会社東京都民銀行にいづれも翌二月六日送達された。
三、抗告人は第一項記載の判決に対し、判決を不服として、昭和五四年二月一日異議の申し立て(昭和五四年(ワ)第一六五号)同月五日右仮執行宣言付判決にもとづく強制執行を停止する旨の決定を求め同日右強制執行停止の保証として金二三五万円を、横浜地方法務局に対して供託し、同日右強制執行を停止する旨の決定昭和五四年(モ)第二八五号を得、同日右決定正本を横浜地方裁判所第三民事部債権執行係に提出し、右決定がなされた旨の通知は二月七日債権者たる相手方及び第三債務者たる東京都民銀行へそれぞれ送達された。
四、よつて相手方の申請にもとづく前記債権差押及び転付命令は送達によつてその効力を生ずる以前に、その執行を停止すべきことが命ぜられたものであつて、結局違法に送遠されたものであるからこれを取消すべきである。(参考判例・東京高裁昭和四九年(ラ)第二九三号、昭和五〇年三月一〇日決定判例時報七八〇号四四頁)