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東京高等裁判所 昭和54年(ラ)220号 決定 1979年4月23日

抗告人 韓得洙

主文

本件抗告を棄却する。

理由

一  抗告人は、原決定の取消を求め、その抗告の理由の要旨は、「抗告人は、本件競売不動産につき東京地方法務局練馬出張所昭和五三年三月三日受付第一一、二七八号をもって賃借権設定登記を経由しており、右賃借権は同年八月三日の本件競売開始前に登記されたものであるから、抵当権者に対抗することができるものであるのに、本件競売公告には賃貸借関係がないものとして公示されたので、本件競売は違法であり、したがって、本件競落は許されないものである。」というにある。

二  競落許可決定に対する利害関係人の抗告は、競売法三二条二項により準用される民訴法六八〇条一項、六八一条二項、六七二条の規定によるから、抗告人は同決定に対し抗告しうるためには、同法六七二条所定の事由のほか同決定により損害を被る場合に該当することを要するものといわなければならない。

記録によれば、本件競売手続において、抗告人主張のように、競売不動産に賃貸借関係がないものとして公告されたこと、本件競落物件たる建物についての抗告人主張の賃借権設定登記は正確には期間を三年とする短期賃借権設定の仮登記であることが認められる。ところで、競売公告に賃貸借に関する事項を掲載させる趣旨は、競買申出人に、競落人に対抗できる賃貸借の存否とその内容を知らせ、競買申出を決するための資料を供するにとどまり、たとえ、抗告人主張のような賃借権があるのにそれがないものとして競売されても、真実右不動産につき抵当権に対抗しうる賃借権があるのであれば、不動産の競落人に対抗することができるのであるから、抗告人が競落許可決定により損失を被るものとはいえない。その他、右決定によって抗告人が特に損失を被るべき事情も認められないから、抗告人は右決定に対し抗告を申立てることはできない。

三  よって、抗告人の本件抗告は理由がないから棄却することとし、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 渡辺忠之 裁判官 鈴木重信 糟谷忠男)

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