東京高等裁判所 昭和54年(ラ)283号 決定
(一) 原決定別紙物件目録記載一の建物(工場)及び二の建物(託児所)並びに同決定別紙工場抵当法第三条による機械器具目録記載の機械器具(本件機械器具)は、もと株式会社エサキの所有であったが、静岡県信用保証協会は、昭和四七年四月七日右工場建物及び託児所につき根抵当権設定登記を経由し、右登記申請の際、工場抵当法第三条の規定により、右工場建物に備え付けられていた本件機械器具について「工場抵当法第三条による機械器具目録」を提出した。
(二) ところが、本件機械器具は、債権者日本樹脂株式会社・債務者株式会社エサキ間の右昭和四七年(執イ)第四三七号有体動産差押事件において競売に付され、抗告人は、昭和四七年一一月二五日最高価競買価額四二五万八五〇〇円をもって本件機械器具を競落し、同日右代金を支払って、競落物の引渡しを受けた。
(三) 債務者株式会社日本エレクトロ・コーポレーションは、株式会社エサキから右工場建物及び託児所を買い受け、昭和四九年二月六日右各建物につき所有権移転登記を経由し、債権者浜松信用金庫は、同年八月一六日右工場建物及び託児所につき抵当権設定登記を経由したが、右登記申請の際、工場抵当法第三条の規定により、本件機械器具の目録((一)の機械器具目録と同一記載内容のもの)を提出した。
(四) そして、浜松信用金庫は、静岡県信用保証協会との間で、右(一)の根抵当権と右(三)の抵当権の順位を変更することを合意し、昭和四九年八月一七日その旨の順位変更登記を経由した上、昭和五〇年八月一四日原裁判所に対し右工場建物及び託児所並びに本件機械器具につき右抵当権の実行による競売の申立てをした。
原裁判所は、同月二三日右工場建物及び託児所並びに本件機械器具につき不動産競売手続開始決定をした。
(五) 抗告人は、昭和五〇年五月一三日右工場建物及び託児所につき抵当権設定登記及び所有権移転請求権仮登記を経由していたが、同年九月二日ころ右不動産競売手続開始決定の通知を受けたので、昭和五一年一月二三日ころ浜松信用金庫に対し、「本件機械器具は抗告人の所有に属するものであるから、右物件に対する競売申立てを取り下げられたい。」旨の通知をした。
そこで、浜松信用金庫は、右通知に係る事実の調査をした後、同年四月二一日到達の内容証明郵便をもって株式会社日本エレクトロ・コーポレーションに対し、「右(三)の抵当権のうち本件機械器具に対する抵当権の設定を解除する。」旨通知した上、同月三〇日原裁判所に対し、「同月二一日本件機械器具について抵当権の設定を解除したので、右機械器具全部について競売の申立てを取り下げる。」旨記載した取下書を提出した。
(六) しかし、原裁判所は、右工場建物及び託児所並びに本件機械器具につき競売手続を続行し、右両建物は一括競売とし、次のように売却方法を定めて本件機械器具とともに競売に付した。
(1) 競買の申出をしようとする者は、建物と機械器具の二区分により各物件の競買価額を定めた上、その合計額をもって全物件につき一括して競買の申出をしなければならない。この場合、各物件の競買価額は、当該物件の最低競売価額を下ることができない。
(2) 各物件の競買価額が他の競買申出人の申し出た価額を下らず、かつ、その合計額が最高価額となる者を最高価競買人とする。
そして、原裁判所は、昭和五四年三月二日最高価競買人株式会社親和製作所に対する競落許可決定を言い渡した。
ところで、工場抵当法第七条第二項によれば、本件機械器具は前記工場建物とともにするのでなければ差押え等の目的とすることができなかったものであるから、前記(二)の動産差押事件において本件機械器具のみに対し差押えがなされたものとすれば、右差押えは違法であったと見るほかないが、違法な差押えであったとしても競売手続が続行され、競落人が右物件を競落して右手続が完結するに至れば、競落人は右物件の所有権を取得し、右物件は右工場建物から分離されて、右工場抵当権者は右物件に対する抵当権を喪失するに至るものと解すべきであるから、抗告人は、右動産差押事件において本件機械器具を競落したことによりその所有権を取得したものというべきである。してみれば、前記(三)の浜松信用金庫・株式会社日本エレクトロ・コーポレーション間の抵当権設定契約において本件機械器具が抵当権の目的とされ、右物件につき工場抵当法第三条の目録が提出されたとしても、右設定契約当時右物件は他人である抗告人の所有に属していたものであるから、右抵当権の効力は右物件にまで及ぶものでなかったと見るべきである。しかも、競売申立人が競売期日において適法な最高価競買申込人の出現する前であれば任意に競売申立てを取り下げることができることに照らせば、前記(五)の浜松信用金庫がした本件機械器具に対する競売申立ての取下げは有効であり、右物件については競売手続を続行することが許されなかったものというべきである。
してみれば、原決定は、右競売申立ての取下げがあったことを看過して競売を実施した結果なされたものであり、本件機械器具が前記工場建物及び託児所とともに前記認定の売却方法に従って競売に付されたことに照らせば、原決定中右物件に関する部分のみを違法とし、他の部分を適法とするのは相当でなく、その全部が違法であるというべきである。
(貞家 長久保 加藤)