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東京高等裁判所 昭和54年(ラ)320号 決定 1979年8月02日

昭和五四年(ラ)第三〇三号事件抗告人

源田明一

昭和五四年(ラ)第三二〇号事件抗告人

徳永一男

右代理人

赤澤俊一

榎本峰夫

相手方

有限会社ツル・エンタープライズ

右代表者

関口宏

右代理人

平野智嘉義

横山由紘

主文

一  原決定を取消す。

二  本件競落は、これを許さない。

理由

一抗告人らは、いずれも原決定を取消すとの裁判を求めたが、抗告人源田明一の抗告の理由は別紙一記載のとおりであり、抗告人徳永一男の抗告理由は別紙二記載のとおりである。

抗告理由に対する相手方の反論は別紙三記載のとおりである。

二前文掲記の不動産任意競売事件記録によれば、原決定の対象となつた建物即ち前文掲記の不動産任意競売事件における不動産競売手続開始決定の別紙物件目録(一)の第三記載の建物(以下「本件建物」という。)は、これと共に競売申立のなされた右物件目録(一)の第一記載の宅地(以下「本件第一の宅地」という。)及び右物件目録(一)の第二記載の宅地(以下「本件第二の宅地」という。)の上に在ること、本件の場合本件建物を本件第一、第二の各宅地と共に一括して競売することの妨げとなるような事情はなにもないこと、しかるに原審競売裁判所は本件競売手続を進めるにあたり、先ず本件建物のみにつき、その最低競売価額を一〇一三万九〇〇〇円と定めて競売期日公告をしたものであることが認められるところ、抗告人徳永一男は、本件建物についての右最低競売価額は、本件建物競売の場合本件第一、第二の各宅地に設定したものと看なされる法定地上権の価額を過少評価したことに基因して不当に低廉であつて違法であつたと主張する(別紙二の二)ので、これについて判断する。

前記競売事件記録によれば、原審競売裁判所が本件建物の最低競売価額を一〇一三万九〇〇〇円と定めて競売期日公告をしたのは、同裁判所から本件第一、第二の各宅地及び本件建物の評価を命ぜられた鑑定人酒井秀夫から、昭和五三年九月二九日現在における本件第一の宅地の評価額は五九六万九〇〇〇円、本件第二の宅地の評価額は五五万五〇〇〇円、本件建物の評価額は一〇一三万九〇〇〇円である旨記載のある鑑定評価書の提出があつたので、本件建物の右評価額をその最低競売価額として採用したことによつたものと認められる。ところで前記競売事件記録及び相手方が当審で提出した不動産登記簿謄本三通並びに抗告人ら両名審尋の結果によれば、前記競売事件の債務者兼所有者即ち抗告人徳永一男(以下「抗告人徳永」という。)は、昭和四八年八月一〇日三鷹市新川一丁目六四四番五一宅地94.57平方メートル(以下「分筆前六四四番五一の宅地」という。)、同所六四四番三〇宅地113.68平方メートル(以下「六四四番三〇の宅地」という。)及び分筆前六四四番五一の宅地の大部分と六四四番三〇の宅地の一部を敷地として存していた、昭和三七年八月三〇日の新築にかかる木造瓦葺平家建居宅一棟床面積45.44平方メートル(以下「旧建物」という。)とを他から買受けて、同年同月一四日自己名義に各所有権移転登記を経由したこと、その後、分筆前六四四番五一の宅地、六四四番三〇の宅地及び旧建物を共同担保として、債権者芝信用金庫のために第一順位の根抵当権を設定し昭和四八年八月一四日その設定登記を経由し、次いで抗告人源田明一のために第二順位の根抵当権を設定し、昭和五〇年五月三一日その設定登記を経由したこと、その後、旧建物を取毀わして、その敷地に、昭和五一年六月二三日本件建物を新築したこと、同年七月二日分筆前六四四番五一の宅地のうち、本件建物の敷地になつていない部分を分筆したが、右分筆の際の据置地が本件第一の宅地であること、また右同日六四四番三〇の宅地から、本件建物の敷地となつている部分を分筆したが右分筆によつて新らたに生じた土地が本件第二の宅地であること、その後抗告人徳永は、本件第一、第二の各宅地及び本件建物につき、これらを共同担保とする件外住宅金融公庫のための抵当権(本件第一、第二の各宅地についてのものは第三順位のもの、本件建物についてのものは第一順位のもの)、本件建物につき、これと本件第一、第二の各宅地を共同担保とする、債権者芝信用金庫のための第二順位の根抵当権、同じく抗告人源田明一のための第三順位の根抵当権をそれぞれ設定し、昭和五一年一一月二四日それぞれの設定登記を経由したが、同日関係者間の順位変更の合意により、本件第一、第二の各宅地についての、住宅金融公庫の第三順位の抵当権は第一順位に、債権者芝信用金庫の第一順位の根抵当権は第二順位に、抗告人源田明一の第二順位の根抵当権は第三順位にそれぞれ改められ(その結果、本件第一、第二の各宅地及び本件建物を共同担保とする抵当権、根抵当権は、同一人が同一順位のものを有するようになつた。)同日その旨の順位変更登記を経由したことが認められる。右の事実関係によれば、本件建物の競落人は、本件第一、第二の各宅地につき法定地上権を取得するし、他方本件第一、第二の各宅地の競落人も法定地上権の負担についたものとしての本件第一、第二の各宅地の所有権を取得することになるものと認められるので、本件第一、第二の各宅地の評価額を算定するには、右各宅地の更地価格から右法定地上権の価格を控除する方法により、本件建物の評価額を算定するには本件建物自体の価格に右法定地上権の価格を加算する方法によるのが相当であるが、抗告人徳永が当審に提出した、三鷹市北野一の一の四二明治設計不動産取引主任者沼田良三作成の物件価格評価報告書の記載及び東京都の特別区内及びその周辺における宅地の借地権価格は少くとも更地価格の六割以上であるという当裁判所に顕著な事実によれば、本件の場合法定地上権の評価額は更地価格の七割とみるのが相当と認められる。ところで前記鑑定人酒井秀夫が原審競売裁判所に提出した前記鑑定評価書の記載によると、同鑑定人は、本件第一、第二の各宅地及び本件建物の各評価額を算定するにあたり、評価方法としては前叙のとおりの方法を採用したが、右法定地上権の価格を本件第一、第二の宅地の更地価格の五〇パーセントとしてそれぞれにつき前記のような評価額を算定したものであることが認められる。しかし同鑑定人が法定地上権の価格と本件第一、第二の宅地の更地価格の五〇パーセントとしたのは、前判示したところによつて明らかなとおり、右法定地上権の価額を不当に低く評価したものであり、延いては本件建物の価額を不当に低く評価することになつたものといわざるを得ない。

この点に関し、相手方は、本件建物の競落によつて発生した法定地上権は旧建物の存続する範囲内において認められるもののところ、旧建物は昭和三七年八月三〇日の新築にかかるものであつたから、右鑑定人が本件宅地上権を更地価格の五〇パーセントと評価したのは妥当であると主張する。成る程、前判示の事実関係によれば、本件建物の競落人が本件第一、第二の各宅地について取得する法定地上権は、後日に現われることあるべき本件第一、第二の各宅地の競落人ないしその承継人に対する関係では、原則として、その存続期間を、旧建物が取毀されなかつたと仮定した場合のその残存すべかりしときまでのものとしてしか対抗し得ないものと言えようが、仮令その点を考慮に入れても前判示の事実関係のもとにおいては、前記鑑定人の法定地上権の評価が妥当なものとは認め難いので前段判示の判断はかわらない。

以上のとおりであるから、原審競売裁判所が本件競売期日公告をなすにあたり、前記鑑定人の評価額を採用して本件建物の最低競売価額を一〇一三万九〇〇〇円としたのは、不当に、低廉な価額を最低競売価額として掲げたものというべく、従つて競売期日公告に適法な最低競売価額の記載を欠いたものといわざるを得ないから、原審競売裁判所としては、競売法第三二条、民事訴訟法第六七四条二項、第六七二条四号により、本件競落を許さないものとすべきであつたといわなければならない。

三よつて原決定を取消したうえ、競売法第三二条、民事訴訟法第六八二条三項、第六七四条二項、第六七二条第四号によつて本件競落はこれを許さないものとする。

よつて主文のとおり決定する。

(宮崎富哉 高野耕一 石井健吾)

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