東京高等裁判所 昭和54年(ラ)344号 決定 1979年6月06日
抗告人 長田伸治
相手方 長田貫太郎 外二七名
主文
本件抗告を棄却する。
抗告費用は抗告人の負担とする。
理由
一、本件抗告の趣旨は、「原審判を取り消し、本件を千葉家庭裁判所一宮支部に差し戻す。」というにあり、その理由の要旨は、抗告人は亡長田実の子であり、亡長田実は被相続人長田源兵衛の弟であるが、本件相続開始後、亡長田実及び抗告人は、相続財産全部の固定資産税、土地改良費を支払い、その一部である建物及び畑を管理してその費用を負担し、更に、被相続人の妻亡長田みねの医療費を支払つたところ、原審判は何らこの点の考慮をしていないからその取消を求めるというにある。
二、相続財産に関する固定資産税、土地改良費、管理費等は、民法八八五条一項、二五九条一項により第一次的には相続財産の負担に帰し遺産分割の際考慮の対象とすべきであると解される。
ところで、家庭裁判所は職権により事実を調査する義務があるが、それには当事者の協力が不可欠である。しかしながら、抗告人は、同人及び亡長田実が右費用を負担したと抽象的に主張するのみで、具体的に誰が、いつ、いくら支出したか等抗告人のみが知つている事実につき後日立証すると述べたまゝ何ら証拠を提出しない。従つて、原審判において右の点が考慮されなかつたのもやむを得ないというべきである。
抗告人が立替払をしたと主張する被相続人の妻亡長田みねの医療費は、同人の相続債務となり、同人の共同相続人が負担すべきものであるから、本件遺産分割において考慮すべき事項ではない。
右のいずれの点からするも原審判は相当であり、その他原審判を取り消すべき違法の点は見当らない。
よつて本件抗告は理由がないからこれを棄却し、抗告費用は抗告人の負担すべきものとして主文のとおり決定する。
(裁判長裁判官 沖野威 裁判官 奥村長生 谷澤忠弘)