大判例

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東京高等裁判所 昭和54年(ラ)771号 決定

以下は、判例タイムズに掲載された記事をそのまま収録しています。オリジナルの判決文ではありません。

【説明】

最近、大都会及びその周辺地域ではマンション形式の高層合同住宅の建築が漸増の傾向がみられる。旧建物の入居者と交渉して、その退去明渡しを求めるとともに、その跡地に新築予定の建物の一部に入居させることを約定したうえ、旧建物からの退去、旧建物の取りこわし、建設予定建物の完成、右約定に基づく入居が行われて、新装マンションでの生活が始まることとなる。ところが入居を約束していた地主が土地を譲渡してしまつた場合、旧建物から退去した要約者は、法律上どういう保護を受けられるであろうか。賃貸借契約が要物契約であるかぎり、前記約定の当事者は借家法に基づく保護を受けられない。それゆえに、建物の建て替えに協力する借家人としては建物退去に先だち如何なる法的手段を選択するべきかという古くて新しい問題がある。

本件の事案はこうである。旧建物の賃借人X1X2は地主Aとの間に建築予定建物への入居を予約し、Yは建築予定建物へのX1X2の入居権ないし賃借権設定を保証した。旧建物の敷地は土地区画整理法に基づく区画整理事業の対象地であり、仮換地の指定が行われていた。しかるに、旧建物からX1X2が退去し、その取りこわしが終つた後、敷地の地主Aは、根抵当権実行の競売で右敷地所有権を失い、結局Yが右敷地の承継取得者となり、その仮換地上にビル新築を企てたので、X1X2はYを相手どり建築禁止の仮処分申請に及んだが一審は右申請を却下し、抗告審もまた抗告棄却の結論であつた。

星野・借地・借家法六〇八頁は、「土地区画整理、土地収用などにより換地が指定された場合、一部改造して移築した場合や全く別の家屋を新築した場合には、やや大胆だが、これらの場合にも取毀新築のための正当事由のある解約申入のなされない限り、換地上の建物について賃貸借契約が存続していると解すべきではなかろうか」と説くが、本件の抗告理由もこれと同旨の主張を展開し、法制上の根拠としては土地区画整理法一〇四条二項を準用すべきものとして立論した。しかし決定理由の説くように、旧建物はその場で取りこわされ除却されたのであるから、やや大胆な右学説によつても賃貸借の存続を基礎づけるには由なく、旧建物の賃借権が消滅した以上、土地区画整理法一〇四条二項の準用もその前提を欠くと判断されても、やむを得ないところというべきであろう。

「やや大胆な」学説に依拠する前に、「細心で先見性のある」契約の構成に心を砕くことの肝要さが、痛感される。

【判旨】

1 抗告人らは、旧建物は現実に取毀され、物理的には存在しないのであるが、本件区画整理事業の経緯に照らせば、社会通念上旧建物は本件仮換地上に存続しているものとみなされるべきであると主張する。

しかし、本件土地上に所在した旧建物は鉄筋コンクリート造地下一階付九階建の建物であつて、旧建物を本件仮換地上に移転させることは物理的に不可能であつたため、旧建物はその場において取毀され、除却されたのであるから、抗告人らの旧建物の各賃借部分に対する賃借権は、旧建物の取毀し(除却)によつて消滅したものというほかない。抗告人らは、抗告人らの三井土地に対する各賃借部分の賃借権は正当事由による解除権の行使がなされない限り消滅しないと主張するが、失当である。更に、抗告人らは、土地区画整理法第一〇四条第二項の規定が借地権者を保護している法意に照らせば、同じ区画整理事業の対象者とされる借家権者を保護しないことは著しく公平を欠くものであると主張するが、すでに抗告人らの各賃借部分の賃借権が旧建物の取毀しによつて消滅したものであつて見れば、抗告人らの右の主張は当を得たものでないというべきである。そして、三井土地は、本件仮換地上に建築予定建物を建築せず、既に本件土地は競売に付されて競落され、現に相手方の所有に帰しているのであつて、相手方は、本件仮換地上に三井土地の建築予定建物と別異の店舗兼事務所の建築を計画しているのであるから、旧建物が本件仮換地上に存続しているものとみなすべきであるという根拠は何ら存在しないものというほかなく、抗告人らの前記主張は失当である。

抗告人らは、三井土地との間に、三井土地が本件仮換地上に建築する建築予定建物の各一部につき右建築完成後速やかに賃貸借契約を結び、これを抗告人らに賃貸する旨約定したのであるが、右の約定に基づく抗告人らの賃借権はいまだ発生するに至つていないものであるから、抗告人らがその主張の借家権をもつて相手方に対抗することができるという抗告人らの主張も失当である。

(杉田洋一 長久保武 加藤一隆)

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