東京高等裁判所 昭和54年(ラ)931号 決定 1979年11月08日
抗告人(債権者)
戸村春男
右訴訟代理人
潁原徹郎
相手方(債務者)
土屋保
第三債務者
株式会社八十二銀行
右代表者
小林春男
主文
本件抗告を棄却する。
抗告費用は、抗告人の負担とする。
理由
一本件抗告の趣旨は、「1 原決定を取り消す。2 抗告人(債権者)の相手方(債務者)に対する別紙請求債権目録記載の債権の執行を保全するため、相手方(債務者)の第三債務者に対する別紙差押債権目録記載の債権は、これを仮に差し押える。3 第三債務者は、相手方(債務者)に対し、差押えにかかる債務の支払いをしてはならない。」との裁判を求めるというにあり、その理由は、別紙「抗告の理由」記載のとおりである。
二そこで検討するのに、疎明によれば、抗告人(債権者)がもと本件土地を有していたこと、本件土地上に本件建物が存すること、抗告人(債権者)と相手方(債務者)とは、昭和五一年一〇月ころ、テニス民宿の共同経営を企画し、(イ)その用地として抗告人(債権者)が本件土地を含む全土地を提供するほか土地造成費として一五〇〇万円を出費する、(ロ)右経営に必要なその他の一切の施設(宿泊施設、テニスコート等)は相手方(債務者)がその費用で建築、整備する、(ハ)事実上の経営は相手方(債務者)が行い、利益は両者で分配する、(ニ)将来出資比率を抗告人(債権者)六、相手方(債務者)四とする会社を設立し、右会社がその経営にあたるものとする旨の合意をしたこと、相手方(債務者)は、右合意に基づき、同年一二月ころ右各工事に着手し、翌五二年七月ころ宿泊施設としての本件建物やテニスコート等を完成し、直ちに営業を開始したこと、ところが、その間に、経営から排除されることを懸念した相手方(債務者)が前記出資比率の変更を要求するなどしたため、両者間に不信感が高まり、遂に同年一二月下旬ころ両者の話合いは決裂し、会社の設立は不可能となつたこと、そこで、抗告人(債権者)は、右テニス民宿の共同経営を断念し、そのころ相手方(債務者)に対し本件土地の返還を請求したこと、しかし、相手方(債務者)は、その後も引き続き右施設を使用してテニス民宿の経営にあたつていること、なお、相手方(債務者)は昭和五二年度の収支については抗告人(債権者)に対し決算報告をしていること、以上の事実を一応認めることができる。
右認定の事実によれば、抗告人(債権者)と相手方(債務者)とは、抗告人(債権者)が本件土地等を、相手方(債務者)が本件建物等をそれぞれ出資して、将来会社組織に切り換えて経営する予定で、テニス民宿の共同経営を始めたものであつて、その法律関係は民法上の組合の性質を有するものと解するのが相当と思われる(なお、共同事業に伴う損益の分配は、特約のない限り、出資の価額に応じてすることになるから(民法六七四条一項)、損益分配の割合について合意がないからといつて、組合契約ではないということはできない。)。そうとすれば、本件土地及び建物は、いずれも右出資によつて組合財産を構成し、組合員である抗告人(債権者)と相手方(債務者)との共有に属するに至つたものというべく、その後、前記認定のように、抗告人(債権者)と相手方(債務者)との会社設立の話合いが決裂し、抗告人(債権者)が、テニス民宿の共同経営を断念し、相手方(債務者)に対して本件土地の返還を請求したことが、仮に民法六八三条所定の「巳ムコトヲ得ザル事由」に基づく組合の解散請求にあたり、これにより組合が解散されたものとみるべきであるとしても、組合員である抗告人(債権者)と相手方(債務者)との合意により又は清算の結果残余財産の分配として本件土地及び建物がそれぞれその出資者である抗告人(債権者)及び相手方(債務者)が所有すべきものと決定されたことについて疎明のない本件においては、右土地及び建物は、なお組合財産として右両者の共有に属するものといわなければならない。したがつて、本件仮差押申請は、その被保全権利の疎明を欠くものというべく、また、保証を立てさせてこれを命ずることも相当でない。
よつて、本件仮差押申請を却下した原決定は結局相当であつて、本件抗告は理由がないから、これを棄却することとし、抗告費用の負担について民事訴訟法九五条、八九条を適用して、主文のとおり決定する。
(林信一 高野耕一 石井健吾)
請求債権目録、差押債権目録、抗告の理由<省略>