東京高等裁判所 昭和54年(ラ)975号 決定 1979年11月01日
抗告人 永山則夫
主文
原決定を取消す。
東京地方裁判所昭和五四年(ワ)第五九九九号損害賠償請求事件について、抗告人に対し訴訟上の救助を付与する。
理由
本件抗告の要旨は、要するに「抗告人は、現金一万四五二三円を所持しているが、一か月の経費として金一万数千円を要するところ、現在刑事被告人として勾留されているので収入の見込みがなく、右金員を本件の訴訟費用に充当することはできないし、別件の民事訴訟においては、訴訟救助申立が認められており、本案訴訟は勝訴の見込みがあるから、訴訟救助申立を却下した原決定を取消し、訴訟上の救助を与えられたい。」というのである。
記録によれば、抗告人は東京地方裁判所昭和五四年(ワ)第五九九九号損害賠償等請求事件(以下「本件訴訟」という。)の原告であり、かつ現在未決勾留中の刑事被告人であること、抗告人は同訴訟について郵便物の料金に充てるための費用として八五〇〇円相当の郵便切手を納付しているほか、昭和五四年七月六日現在一万四五二三円を所持していることが一応認められる。以上の事実によれば、抗告人には現在なんらの収入もないものと推認することができる。
ところで、未決勾留中の被告人が、飲食費、通信費その他の雑費として、毎月ある程度の金員を必要とすることは、社会通念に照らし認めうるところであるから、抗告人が前記の日に前記金員を所持していたとしても、抗告人は、本件訴訟の訴訟費用を支払う資力がない者にあたるものというべきである。
次に、本件訴訟は、株式会社新潮社社長である被告佐藤亮一及び同社発行の週刊誌「週刊新潮」の発行編集人である被告野平健一が、「週刊新潮」昭和五四年三月一五日号誌上において、『まだ生きていた「永山則夫」』と題する文を掲載し、強盗殺人等被告事件で第一審の公判審理を受けている抗告人(原告)に対し、「あれッ――ヤツはまだ生きていたのか」、「ヤツは第一級殺人犯」という文面により、又は、抗告人が死刑を求刑されたのち、再三にわたり弁護人を解任するなどした経過をわい曲したり、虚偽の事実を挙げて、あたかも抗告人が恣意的に弁護人を交代させて訴訟を引き延ばし、公正な審理を否定する無法を行なっているかのように書き立て、抗告人の名誉を著しく毀損したとして、前記被告らに対し、慰藉料の支払等を請求するものである。
そして、抗告人が主張するように、前記被告らが事実をわい曲したり、虚偽の事実を記載した文を前記「週刊新潮」誌上に掲載したとすれば、抗告人の名誉を毀損するものとされる場合があるから、本件訴訟は、抗告人に勝訴の見込がないわけではないというべきである。
よって、抗告人の本件訴訟救助申立は理由があるから、これを認容すべきであり、右申立を却下した原決定は不相当であるから、これを取消すこととし、主文のとおり決定する。
(裁判長裁判官 日野原昌 裁判官 山田忠治 佐藤栄一)