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東京高等裁判所 昭和54年(行ケ)11号 判決 1984年4月26日

東京都中央区日本橋一丁目一三番一号

原告

テイーデイーケイ株式会社

(前商号 東京電気化学工業株式会社)

右代表者代表取締役

素野福次郎

右訴訟代理人弁護士

中村稔

熊倉禎男

同 弁理士

大塚文昭

東京都千代田区霞が関三丁目四番三号

被告

特許庁長官

若杉和夫

右指定代理人

三瀬和徳

加藤恭介

川又澄雄

関本芳夫

右当事者間の審決取消請求事件について、当裁判所は、次のとおり判決する。

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は、原告の負担とする。

事実

第一  当事者の求めた裁判

原告は、「特許庁が同庁昭和五二年審判第七九〇九号事件について昭和五三年一二月一一日にした審決を取消す。訴訟費用は、被告の負担とする。」との判決を求め、被告は、主文同旨の判決を求めた。

第二  請求の原因

一  特許庁における手続の経緯

原告は、名称を「マイクロ波加熱装置」とする発明(以下、「本願発明」という。)につき、昭和四四年六月二六日特許出願をしたところ、昭和五〇年一月二二日出願公告(特許出願公告昭五〇-一九二八号)されたが、特許異議申立があり、昭和五一年一二月一三日付手続補正書を提出したが、昭和五二年二月二八日、補正の却下の決定とともに拒絶査定を受けたので、同年六月二二日これに対する審判を請求し、特許庁昭和五二年審判第七九〇九号事件として審理され、昭和五三年一二月一一日右審判の請求は成り立たない旨の審決があり、その謄本は昭和五四年一月一〇日原告に送達された。

二  本願発明の要旨

(昭和五一年一二月一三日付手続補正による補正前のもの)

1 一般式MFe2O4(ただし、MはMn、Cu、Ni、Mg、Co、Znのうちの少くとも一つの金属を表わす)を有するフエライト焼結体を、電波吸収部材として、マイクロ波加熱装置の本体と扉の間の、電波の漏洩する通路に配置したことを特徴とするマイクロ波加熱装置。

2 一般式MFe2O4(ただし、MはMn、Cu、Ni、Mg、Co、Znのうちの少くとも一つの金属を表わす)を有するフエライトの粉末と有機高分子化合物との混合物を、電波吸収部材として、マイクロ波加熱装置の本体と扉の間の、電波の漏洩する通路に配置したことを特徴とするマイクロ波加熱装置。

3 一般式ATiO3(ただし、AはBa、Sr、Ca、Mgのうちの少くとも一つの金属を表わす)を有するアルカリ土金属のチタン酸塩の焼結体を、電波吸収部材として、マイクロ波加熱装置の本体と扉の間の、電波の漏洩する通路に配置したことを特徴とするマイクロ波加熱装置。

4 一般式ATiO3(ただし、AはBa、Sr、Ca、Mgのうちの少くとも一つの金属を表わす)を有するアルカリ土金属のチタン酸塩の粉末と有機高分子化合物との混合物を、電波吸収部材として、マイクロ波加熱装置の本体と扉の間の、電波の漏洩する通路に配置したことを特徴とするマイクロ波加熱装置。

5 一般式MFe2O4(ただし、MはMn、Cu、Ni、Mg、Co、Znのうちの少くとも一つの金属を表わす)を有するフエライトの粉末、一般式ATiO3`(ただし、AはBa、Sr、Ca、Mgのうちの少くとも一つの金属を表わす)を有するアルカリ土金属のチタン酸塩の粉末及び有機高分子化合物の混合物を、電波吸収部材として、マイクロ波加熱装置の本体と扉の間の、電波の漏洩する通路に配置したことを特徴とするマイクロ波加熱装置。

いずれも別紙図面(一)参照

(昭和五一年一二月一三日付手続補正による補正後のもの)

右のうち、1、2及び5紀載のもの。

三  本件審決の理由の要点

本願発明の要旨は、前項1ないし5記載のとおりと認められる。

なお、昭和五一年一二月一三日付の手続補正は、これにより補正された特許請求の範囲第一項記載の発明が、補正前の特許請求の範囲第一項記載の発明(前記二の1記載の発明。以下、「本願特定発明」という。)と全く同一であり、両発明とも後に説明するごとく第一引用例及び第二引用例に記載されたものから当業者が容易に発明をすることができたものと認められるから、前記補正は、特許法第六四条第二項の規定により準用する同法第一二六条第三項の規定に違反するものであり、同法第五四条第一項の規定によつて却下すべきものであつて、審査官のした補正却下の決定は相当であり、したがつて、本願発明の要旨は、右補正前の前項1ないし5のとおり認定すべきものである。

ところで、本願出願前に日本国内において頒布された刊行物である内藤喜之外二名著、一九六八年六月二六日電子通信学会発行「各種フエライト(焼結形)の電波吸収特性」第一頁ないし第一二頁(以下、「第一引用例」という。)には、強磁性材料のフエライトを用いてVHF帯及びUHF帯での電波吸収を行うことが記載され、また、同じく特許出願公告昭三九-二六三七三号公報(以下、「第二引用例」という。)には、マイクロ波加熱装置から電波が漏洩するのを防止するために、マイクロ波加熱装置の本体の開口周縁部と扉の周縁部との間の電波が漏洩する通路に、電波の進行方向に平行にある程度の厚さと幅を有する電波吸収部材を配置したことが記載されている(別紙図面(二)参照)。

そこで、補正前の明細書の特許請求の範囲第一項記載の発明(以下「本願特定発明」という。)と第二引用例に記載された技術内容とを比較すると、電波吸収部材をマイクロ波加熱装置の本体の開口周縁部と扉の周縁部との間の電波が漏洩する通路に配置したマイクロ波加熱装置である点に関しては両者に相違は認められない。

ただ、本願特許定発明が一般式MFe2O4(ただし、MはMn、Cu、Ni、Mg、Co、Znのうち少くとも一つの金属を表わす)を有するフエライト焼結体を電波吸収部材としているのに対して、第二引用例のものは、前記のようなフエライト焼結体を使用していない点に相違が認められる。

そこで、前記相違点を検討するに、本願特定発明におけるフエライト焼結体は、周知のものであり、この周知のフエライト焼結体を用いることにより、VHF帯及びUHF帯の電波を吸収することができるという記載が第一引用例にある以上、第一引用例のフエライト焼結体を第二引用例のようなマイクロ波加熱装置の電波漏洩防止用に使用することは容易に推考し得ることである。

請求人(原告)は、第一引用例の電波吸収部材は、フエライト表面及び導電体板表面での両反射波を整合相殺して、フエライト表面からの総合反射波を少くするものであるのに対し、本願特定発明の電波吸収部材は、到来電波のエネルギーをフエライト内で熱エネルギーに変えて消耗してしまうもので、両者は相違するものであると主張する。

しかし、たとえ第一引用例のものが、反射波を整合相殺することによりこれを少くするという作用を有するとしても、これは一種の電波吸収作用であることには変りがないばかりでなく、第一引用例記載のものが本願特定発明と同じ電波吸収部材としてのフエライト焼結体内に電波を通過させている以上、当然フエライト内で電波が熱エネルギーとなつて吸収されるという作用もあるものと認められる。

したがつて、本願特定発明は、第一引用例及び第二引用例に記載された技術内容に基づいて容易に発明し得るものと認められるから、特許法第二九条第二項の規定により特許を受けることができない。

四  審決を取消すべき事由

第一引用例に、強磁性材料のフエライトを用いてVHF帯及びUHF帯での電波吸収を行うことが記載されていること並びに本願特定発明で用いるフエライト焼結体が本願出願前周知であることは争わないが、第一引用例は、整合(無反射)電波吸収壁というきわめて特殊な用途における電波吸収にフエライトを用いる技術を記載したものであり、その記載された技術内容を、第二引用例のような全く用途の異なる技術分野に転用することは、当業者において到底容易に推考し得るものではない。審決は、本願特定発明の進歩性についての判断を誤つている。

1  第一引用例は、フエライト焼結体を利用した整合による電波吸収壁という特殊な利用技術についての研究報告書である。

審決は、第一引用例に開示された整合による電波吸収による無反射壁という特殊な利用技術から、VHF帯及びUHF帯の電波を吸収できるというフエライト焼結体の一般的性質を認定したにすぎない。

しかしながら、審決の認定は、第一引用例に開示された、第一次反射波と媒質内部を減衰しながら往復する第二次以降の反射波のベクトルが媒質表面において相殺され、見掛上反射電波が当初の到来電波の〇・八%以下になる状態をいう整合を、「一種の電波吸収作用である」という一般的・抽象的あるいは上位概念により把握し、これをもう一つの特殊な利用技術である本願特定発明の電波吸収(集束作用と透過減衰による吸収)の上位概念と関連させたものである点で誤つている。また、第一引用例は、「一種の電波吸収作用」としての整合による電波吸収壁にフエライト焼結体が利用されるという一般的性質を超えて、フエライト焼結体が本願特定発明のようなマイクロ波加熱装置の扉と本体との空隙を通る電波の漏洩防止手段に利用できることに関しては何らの開示をも行つていない。すなわち、第一引用例には、フエライト焼結体が、(a)第一引用例が対象としているテレビジヨン放送用の到来電波の約五〇万倍から四億倍という強力な(マイクロ波加熱装置の)到来電波を人体に無害な程度まで吸収できるか否か、(b)装置の用途上及び製造上不可避的に生ずる扉と本体との空隙の存在にもかかわらす吸収が充分に達成できるか、等の本願特定発明に固有の技術的課題又はこれについての作用効果を示唆する記載は全く存在しない。

2  第二引用例のものにおける電波吸収部材は、誘電体中に導電体である黒鉛粉末を分散させたもので、これは全体的に導電体としての性質を有するものである。したがつて、その電波吸収のメカニズムは導電体の電気的抵抗による損失、すなわちオーム損失を利用して電波のエネルギーを熱エネルギーに変えて吸収するものであり、この点において、右部材は本願明細書に従来技術として記載されている電導性ゴム(カーボンブラツクをゴムに配合したもの)と変るところはない。そして、その電波漏洩防止効果を実質的に達成するためには、本体、扉、電波吸収部材が電気的に封鎖されている必要がある。

これに対して、本願特定発明は、電波に対して空気と同様に絶縁物であるフエライト焼結体を扉と本体の間に配置し、電気的封鎖を要しない構成において、フエライト焼結体の集束作用と磁気損失とを利用して電波を吸収するものである。すなわち、第二引用例のものと本願特定発明とでは、電波吸収という機能に共通性があるにすぎず、電気回路としての構成ないし電気的装置の設計思想を著しく異にする。

したがつて、第一引用例と第二引用例を併せて考察しても容易に本願特定発明の構成に想到しうるものではない。

3  本願特定発明は、マイクロ波加熱装置の電波漏洩防止において、顕著な作用効果を奏するものである。

すなわち、ゴムフエライトを用いた本願特定発明の実施例における電波漏洩量は、〇・〇二mW/cm2ないし〇・〇四mW/cm2にすぎないところ、昭和四五年六月にわが国で採用された電子レンジの安全基準(漏洩許容限度)は右の値より遥かに大きい一mW/cm2(製造時)及び五mW/cm2(使用時)であつたにもかかわらず、従来の漏洩防止手段を講じていたわが国の各メーカーの製品はいずれも右安全基準に達せず、そのため同年には一斉に製造中止あるいは生産縮少をせざるをえず、その後、本願特定発明に係るフエライトを利用した漏洩防止手段に変更することにより、ようやく右安全基準に合格する製品を販売することができたのである。

特に、扉と本体の間に多少の間隙が生じても電波漏洩を防止できるという本願特定発明の効果は非常に重要である。すなわち、扉と本体の間の間隙からの電波漏洩は、加工技術上不可避である構造的な空隙のほかに、使用による汚れや凹凸に基因するきわめて微細な空隙、さらに開扉と連動して電源スイツチを切る構造のものでは扉を開いた瞬間における空隙からも、発生するものであつて、従来かかる電波漏洩の防止のために多くの試みがあり、特許も数多いが、必ずしも充分なものではなかつたのである。したがつて、これを防止しうる効果はきわめて顕著なもので、フエライトの集束作用と磁気損失作用をそれぞれ別個に利用することが公知であつても、なお、容易に予測しうるものではない。

第三  被告の陳述

一  請求の原因一ないし三の事実は、いずれも認める。

二  同四の審決取消事由の主張は争う。審決に原告主張のような誤りはない。

本願特定発明は、マイクロ波加熱装置の本体と扉の間の微小間隙から強い電波が漏洩するのを防止するために、それらの間の微小間隙、すなわち電波漏洩通路にフエライト焼結体を配置したものにほかならない。

しかし、フエライト焼結体が電波吸収部材であることは、第一引用例並びに乙第一号証(川上正光外二名著「フエライトとその応用」昭和三二年二月五日発行)、乙第二号証(特公昭三一-二二八五号公報)によつても明らかなように本願出願前において当業者に周知である。すなわち、フエライトには、電波が空気中よりも通過しやすいこと、電波がフエライト中を透過すると熱損失となることなどの電波吸収特性があることは、周知である。

マイクロ波加熱装置は、マイクロ波通信技術の研究中に発明されたものであることからも明らかなように、本質的にマイクロ波通信技術の応用技術でもあるが故に、マイクロ波通信用諸機器において使用されている諸部材、例えば電波漏洩箇所等に配置されている電波吸収部材をマイクロ波加熱装置の同様箇所に転用することは常套技法化されているところであるといわなければならない。

したがつて、マイクロ波加熱装置の本体と扉の間の電波漏洩通路にフエライト焼結体を配置してなる構成は、従来のマイクロ波加熱装置における従来の電波吸収部材を周知のフエライト焼結体で置換しただけの構成にすぎないのである。

そうであれば、第二引用例記載のマイクロ波加熱装置における従来の電波吸收部材(「第二封鎖枠」)を除去し、代りにフエライト焼結体を配設した場合の減衰効果は、当業者が当然に予測し得たところであるといわなければならず、別言すれば、本願特定発明の減衰効果なるものは、いわゆる結合による効果ではなくて、フエライト焼結体自体の効果にすぎないものである。

第四  証拠関係

記録中の該当欄記載のとおりであるから、ここにこれを引用する。

理由

一  請求の原因一ないし三の事実は、当事者間に争いがない。

二  そこで、審決にこれを取消すべき違法の点があるかどうかについて判断する。

本願特定発明で用いるフエライト焼結体が本願出願前周知であることは、当事者間に争いがなく、第一引用例には、この周知のフエライト焼結体を用いてVHF帯及びUHF帯での電波吸収を行うことが記載されていることは、原告の明らかに争わないところであり、鑑定人清水康敬の鑑定の結果に弁論の全趣旨を綜合すればマイクロ波加熱装置で用いる電波は二・四五GHzであり、VHF帯の電波は三〇MHzないし三〇〇MHz、UHF帯のそれは三〇〇MHzないし三GHzであることが認められる。

原告は、審決は、第一引用例に開示された、第一次反射波と媒質内部を減衰しながら往復する第二次以降の反射波のベクトルが媒質表面において相殺され、見掛上反射電波が当初の到来電波の〇・八%以下になる状態をいう「整合」を、「一種の電波吸収作用である」という一般的・抽象的あるいは上位概念により把握し、これをもう一つの特殊な利用技術である本願特定発明の電波吸収(集束作用と透過減衰による吸収)の上位概念と関連させたものである点で誤つていると主張する。

そこで考えるに、成立について争いのない甲第三号証に鑑定人清水康敬の鑑定の結果を綜合すると、第一引用例は、入射するVHF帯及びUHF帯の電波を、各種の組成のフエライト焼結体で、その焼結体の厚さを種々に調節したものの、入射電波の反対側に金属板を宛てて入射電波が透過しないようにすると、入射電波のうちで特定の周波数のもの及び焼結体のうちで特定の厚さのものの中で入射電波がフエライト焼結体に吸収されて、反射波が零になつてしまうことがあること、この場合の電波の周波数を整合周波数といい、またこの場合のフエライト焼結体の厚さを整合厚と称して、種々の組成のフエライト焼結体における整合周波数、整合厚を調ベたものの報告書であること、整合というのは、この場合のみならず、すべて入射した電波の反射波が零になることをいうものであること、入射した電波が全部フエライト焼結体を透過してしまつて、その結果入射面での反射が零という場合(この場合も整合といつてよい)は別として、入射面で反射がない、すなわち反射零という場合は、入射電波はフエライト焼結体を透過するもの以外はすべてフエライト焼結体に吸収されていると考えられること、第一引用例は、その標題も示しているように、フエライト焼結体がこのように電波を吸収する性質を有することをも示したものであり、この引用例を当業者が読めば、フエライト焼結体は、特にVHF帯、UHF帯の電波を吸収する性質を有するものであることを容易に理解することができるものであると認められる。

本願特定発明は、「フエライト焼結体を電波吸収部材として配置」することを要件とするものであり、その電波吸収の原理が原告の主張するようなフエライトの集束作用と透過減衰によるものであるか、あるいはそのほかのものであるかは、本願発明の要件とするところとは何の関わりもないものである。

そうすると、審決が第一引用例に開示された知見を抽象的な上位概念で把握し、これを本願特定発明の集束作用と透過減衰による電波吸収の上位概念と関連させたとの原告の非難は当を得ないものである。

原告は、また、第一引用例は、「一種の電波吸収作用」としての整合による電波吸収壁にフエライト焼結体が利用されるという一般的性質を超えて、フエライト焼結体が本願特定発明のようなマイクロ波加熱装置の扉と本体との空隙を通る電波の漏洩防止手段に利用できることに関しては何らの開示を行つていないから、審決が本願特定発明に関して第一引用例を引用したのは誤つている旨主張する。

しかしながら、マイクロ波加熱装置で用いられる電波は二・四五GHzであつて、その周波数は第一引用例に示されたUHF帯の電波の周波数に含まれるところであり、マイクロ波加熱装置において電波の漏洩防止のため、その扉と本体の間に電波吸収部材を配置することが審決のいうとおり、第二引用例(成立について争いのない甲第四号証)に示されている以上、本願特定発明は第一引用例と第二引用例に記載された技術内容に基づいて容易に発明することができたものとした審決の判断に誤りはない。原告の主張は理由がない。

原告は、本願特定発明がフエライト焼結体の集束作用と磁気損失を利用して電波を吸収させるものであるのに対し、第二引用例のものはオーム損失を利用して電波のエネルギーを熱エネルギーに変えて吸収するものであり、したがつて、両者は電気回路としての構成ないし電気的装置の設計思想を著しく異にするから、第一引用例と第二引用例とを併せ考察しても容易に本願特定発明の構成に想到しうるものではない旨主張する。

しかしながら、本願特定発明と第二引用例は、マイクロ波加熱装置の本体と扉との間の電波の漏洩する通路に電波吸収部材を配置したという構成において差異はないから、その第二引用例記載のマイクロ波加熱装置の電波吸収部材に代えるに第一引用例記載のフエライト焼結体をもつてして本願特定発明のようにすることは、容易に推考できるものとすべきであり、そのように認定した審決の判断に誤りなく、原告の主張は理由がない。

原告は、更に、本願特定発明はマイクロ波加熱装置の電波漏洩防止において従来のものに比べて顕著な作用効果を奏するものであり、その作用効果の顕著さは予測しえないものであるから、本願特定発明は第一引用例及び第二引用例からは谷易に想到しえないものであるとの趣旨を主張する。

しかしながら、本願特定発明の構成が第一引用例及び第二引用例記載のものから容易に想到しうるものであること審決認定のとおりである以上、仮に本願発明に係るマイクロ波加熱装置の電波漏洩防止の効果が原告主張のように従来品に比してまさるところがあるとしても、そのような効果があることをもつて本願特定発明が第一、第二引用例の記載から容易に発明し得たものでないとすることはできない。

三  以上のとおりであつて、原告の主張はいずれも理由がなく、審決にはこれを取消すべき違法の点はないから、その取消を求める原告の本訴請求を失当として棄却することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法第七条、民事訴訟法第八九条の規定を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 高林克巳 裁判官 杉山伸顕 裁判官 八田秀夫)

別紙図面 (一)

<省略>

別紙図面 (二)

<省略>

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