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東京高等裁判所 昭和54年(行ケ)112号 判決

一 請求の原因一ないし三の事実は当事者間に争いがない。

二 そこで、原告主張の審決取消事由について判断する。

1 取消事由(1)について

(一) 前示当事者間に争いのない本願発明の特許請求の範囲の記載と成立に争いのない甲第二号証の一・二によると、本願発明は、寸法の正確なコイルばねを製造するために、従来の線造りローラの回転数が固定的に調整されているばね製造機において生ずる線送りローラと素線との間のすべりに起因する寸法誤差を回避することを目的の一つとし、このための具体的構成として、特許請求の範囲aの構成を採用したことが認められる。

そして、成立に争いのない甲第九号証の一ないし三、第一二、第一三号証、第一七号証及び乙第五、第六号証によれば、コイルばね製造機の線送り機構において、線送りローラをいずれも駆動源に連結した一対又は数対のローラによつて構成すること、また、線送りローラの素線を挟んで相対する一対のローラのうち一方を駆動源に連結し他方を駆動源に連結しない押えローラとすることのいずれの構成も、本願出願前に周知の技術であつたことが認められる。右事実によれば、本願発明における「線送りローラ」は、右の二つの構成を含むものとして理解されなければならない。もつとも、本願明細書(前掲甲第二号証の一・二)の発明の詳細な説明及び図面には、線送りローラとして各ローラがいずれも駆動源に連結されている構造のものが実施例として説明されているが、特許請求の範囲に本願発明における線送りローラを右実施例のものに限定する記載はなく、本願明細書上このように限定することを是認すべき根拠は見当らない。

一方、引用例の第三図において、線送りローラを構成する一対のローラのうち下部ローラは駆動源に連結されているものとして図示されているが、上部ローラは駆動源に連結されているものとして図示されていないことは、当事者間に争いがない。右事実と前叙のとおりコイルばね製造機の線送りローラを構成する一対のローラのうち一方を駆動ローラとし他方を非駆動の押えローラとする構成は本願出願前周知の技術であつたこと、成立に争いのない乙第一号証の三、第三号証、第八、第九号証によれば右のような構成は長尺物の送りローラの構成として慣用の技術であると認められることの各事実によれば、引用例の第三図に示されている線送りローラの構成は、その図示のとおり、一対のローラのうちの一方のみを駆動源に連結したものと見るのが相当である。原告は右ローラはいずれも駆動ローラと見るべきであると主張する(請求の原因四1(三))が、右認定の事実に照らし、その主張は理由がない。

そうとすれば、線送りローラの構成において、本願発明は引用例のものと一致するところがあるといわなければならない。

(二) 本願発明の特許請求の範囲の構成aによれば、本願発明において、検出ローラを線送りローラと別個に設ける構成としたことが認められる。そして、本願明細書(前掲甲第二号証の一・二)の発明の詳細な説明の記載によれば、本願発明における検出ローラは、素線に転接するように設けられ、素線が送り出されるに従つて摩擦によつて回転する非駆動のローラであることが明らかである。このようなローラを検出ローラとすることによつて、本願発明においては、「検出ローラと素線との間のすべりは極めて小さくする事が出来るので、実際に送り出された素線の長さに対応した数のパルスを送る事が出来る。従つて、制御装置に動作の正確な素子を選べば、線送りローラと素線との間のすべりに拘らず、極めて寸法の正確なコイルばねを製造することが出来る。」(甲第二号証の一本願特許公報七欄八ないし一四行)という作用効果を奏するものと認められる。

一方、成立に争いのない甲第三号証と右(一)において認定した事実によれば、引用例の第三図には、線送りローラを構成する一対のローラのうち非駆動のローラをもつて検出ローラとしたコイルばね製造機が開示されていることが認められる。この非駆動のローラは、駆動ローラの回転によつて素線を送り込むことができるように、素線に転接するように設けられ、駆動ローラに対して押圧されるものであつて、素線が送り出されるに従つて摩擦により回転し、したがつて、素線との間のすべりが極めて小さいものであることは、右の構成から明らかである。この非駆動ローラを検出ローラとした場合、その奏する作用効果が本願発明の検出ローラが有する作用効果と異なる点は、本件証拠上これを認めることができない。

(三) 右(一)、(二)の事実によれば、線送りローラと検出ローラの構成において、本願発明と引用例のものは、共に非駆動のローラをもつて検出ローラとする構成であり、この構成により検出ローラと素線の間のすべりを極めて小さくし、検出ローラは実際に送り出された素線の長さに正確に対応した回転を示すことができるという作用効果を奏する点において一致し、相違する点は、本願発明において検出ローラが線送りローラと別個に設けられている点にあるにすぎないと認められる。そして、成立に争いのない乙第一号証の一ないし三によれば、長尺物の送り装置において、送りローラと別個に非駆動のローラを設けこれを検出ローラとすることは本願出願前広く知られていた周知の技術と認められるから、右の相違点は、当業者が任意に選択できる単なる設計事項の範囲を出ないと認められる。

以上に述べたとおり、本願発明と引用例のものは共に線送りローラにより素線を送り込み、この送り込まれる素線に転接する非駆動ローラを検出ローラとする点で一致し、作用効果上の差異も認められないのであるから、審決が引用例に、「線送りローラによつて送り込まれる素線に転接するローラの回転を利用して」との記載があると認定したうえ、本願発明と引用例との相違点(1)について「技術内容上の実質的差異が存するとは認められない。」と判断したことは正当である。原告の取消事由(1)の主張は採用することができない。

2 取消事由(2)について

前記本願発明の特許請求の範囲によれば、本願発明は、成形されているコイルばねのピツチを変更するピツチ変更機構を制御するためのピツチ制御装置を有し、その構成を特許請求の範囲eの構成としたものであることが認められる。

右構成と本願明細書(甲第二号証の一・二)の発明の詳細な説明と図面の記載によれば、右構成eにおけるピツチ変更用クラツチとピツチ出し工具制動用ブレーキは、ピツチ変更機構とその駆動源との間に設けられていて、装置操作中連続運転される駆動源とこれにより駆動されるピツチ変更機構のピツチ出し工具の移動と停止を、指令信号形成回路からのピツチ変更指令出力に基づいて行うものであることが認められる。そして、成立に争いのない乙第二号証の一ないし四によれば、駆動源とこれにより駆動される機械的機構との間に電気的信号によつて作動する電磁クラツチと電磁ブレーキを設け、これにより駆動源の動力を機械的機構に断続的に伝達する手段は本願出願前普通に知られた技術であることが認められる。右事実によれば、本願発明におけるピツチ制御装置は、右の普通に知られた技術をコイルばね製造装置に適用したものにすぎず、本願発明のピツチ制御装置にそれ以上の特段の技術内容が存することは、本件証拠上これを認めることができない。

一方、前掲甲第三号証によれば、引用例のものは、検出ローラによつて送り込まれる素線の長さを検出し、この検出結果に従つてトランスレータを介してピツチアクチユエータを制御しているものであることが認められる。この引用例のトランスレータによりピツチアクチユエータを制御する手段が本願発明における指令信号形成回路によりピツチ変更機構をピツチ制御装置で制御する手段に対応することは、以上の事実に照らし明らかである。

そうとすると、引用例には、そのピツチアクチユエータの具体的構成が開示されていないとしても、前叙の普通に知られた電磁クラツチと電磁ブレーキの技術を引用例のものに適用して本願発明の構成とすることは、当業者が容易になしうる単なる設計上の事項にすぎないと認められる。審決が本願発明と引用例との相違点(5)について判断しているところは右の趣旨と異なるところはないと認められる。原告の取消事由(2)の主張は理由がない。

3 以上のとおりであるから、審決の認定判断に誤りはなく、審決にこれを取り消すに足りる違法の点は見当らない。

三 よつて、原告の本訴請求を失当として棄却することとする。

〔編註〕 本件における特許請求の範囲は左のとおりである。

コイル成形機構に対して素線を線送りローラによつて送り込むことによりコイルばねを成形するコイルばね製造機において、

a 上記線送りローラによつて送り込まれる素線に転接する検出ローラの回転を利用して、単位長の素線が送り込まれる毎に電気的パルスを発生する回転変換器構成のパルス発生手段と、

b 上記パルス発生手段のパルス出力を受けるカウンタを有し、そのカウント内容に基づき、上記コイル成形機構において成形されているコイルばねが予定の全展開長と等しい長さになつた時線送り停止指令出力を送出すると共に、当該全展開長内の予定の展開長位置でピツチ変更指令出力を送出する指令信号形成回路と、

c 上記線送りローラの駆動機構とその駆動源との間に設けられた線送りローラ駆動用クラツチと線送りローラ制動用ブレーキとを有し、上記指令信号形成回路からの線送り停止指令出力に基づいて上記線送りローラ駆動用クラツチを解放動作をさせると共に、上記線送りローラ制動用ブレーキを制動動作をさせる線送りローラ駆動制御装置と、

d 上記コイル成形機構に設けたピツチ出し工具を移動させて成形されているコイルばねのピツチを変更するピツチ変更機構と、

e 上記ピツチ変更機構とその駆動源との間に設けられたピツチ変更用クラツチとピツチ出し工具制動用ブレーキとを有し、上記指令信号形成回路からのピツチ変更指令出力に基づいて、ピツチを変更すべき予定の展開長位置において上記ピツチ出し工具制動用ブレーキに解放動作をさせると共にピツチ変更用クラツチを連結動作をさせ、ピツチを一定とすべき予定の展開長位置において上記ピツチ変更用クラツチに解放動作をさせると共に上記ピツチ出し工具制動用ブレーキに制動動作をさせるピツチ制御装置と

を具え、上記コイル成形機構において成形されているコイルばねの全展開長が予定の大きさになつたとき、上記線送りローラを停止させると共に、当該展開長の途中の予定位置において、ピツチを変更する様にしてなるコイルばね製造機。

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