大判例

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東京高等裁判所 昭和54年(行ケ)114号 判決

一 請求原因一ないし同三の事実は当事者間に争いがない。

二 そこで、原告の主張する審決取消事由の存否について検討する。

1 取消事由1の主張について

原告は、審決の「引用例には、珪素に水素と塩化水素との混合ガス(H2/HC1比は2又は10)を三〇〇~七〇〇度Cの温度で反応させて、主としてSiHC13とSiC14とからなる反応生成物を得、これらを凝縮して分離したこと、及びその際の凝縮物中のSiHC13の割合は八五%以上であつたことが記載されている。」との認定は、温度が三〇〇度Cから五〇〇度C付近までの範囲については正しいが、七〇〇度C以上の範囲については誤りである、と主張する。

しかしながら、当事者間に争いのない本願発明の要旨によれば、本願発明の反応温度は三五〇度Cないし一二〇〇度Cの範囲を要件とするものであり、右三〇〇度Cから五〇〇度C付近までのうち、三五〇度Cから五〇〇度C付近までの反応温度は、本願発明の右反応温度の範囲に含まれるものである。そして、成立に争いのない甲第二号証の二(明細書及び図面(〔編註〕省略))における発明の詳細な説明、殊にその中の各実施例と添付の第2図面及び第3図面(〔編註〕省略)によれば、本願発明が要件とする右三五〇度Cないし一二〇〇度Cの反応温度は、必ずしも反応中にこの範囲内で温度を変化させながら反応を行うことを意味するものではなく、この範囲内の一定の温度で反応を行つてよいことを意味するものと解される。

そうすれば、仮に、審決の認定の一部に原告主張のような誤りがあるとしても、本願発明が要件とする反応温度の範囲に含まれる三五〇度Cないし五〇〇度C付近の範囲についての認定に誤りがない以上、右の誤りは審決の結論に影響を及ぼすものではないから、原告の右主張は審決の取消事由としては理由がない。

2 取消事由2の主張について

原告は、本願発明は、高温においてSiHC13の良好な収率を維持するためにはいかなる技術的手段が採られるべきであるかとの課題を審決認定の差異点(1)(2)によつて解決したものであり、これにより引用例のものよりも飛躍的に優れた作用効果を奏するものであるから、低温範囲で反応させた収率に一部重複するところがあつても、引用例のものとは質的に異なる発明であるというべく、したがつて、これを引用例の記載から容易に発明をすることができたものであるとするのは誤りである、と主張する。

しかしながら、原告の自認するように、本願発明はいわゆる低温範囲の反応を排除しているものではない。

そして、前掲甲第二号証の二の第九頁及び第一〇頁の表と成立に争いのない甲第八号証(引用例)の第五〇頁の第4図によれば、ハロゲン化水素/水素の分圧比が1:10の場合(すなわち引用例におけるαが10の場合)のSiHC13の収率は、

引用例のものでは、三〇〇度Cで約九七%(重量%、以下同じ。)、四二五度Cで約九五%、五五〇度Cで約八八%であるのに対し、

本願発明では、四〇〇度Cで九四・九%、五〇〇度Cで九二・〇%、六〇〇度Cで七六・六%であることが認められるから、少なくとも三五〇度Cないし五〇〇度C付近の低温範囲の反応については両者の間に格別の差異があるとは認められない。

他方、本願発明における三五〇度Cないし一二〇〇度Cという反応温度の要件が、この範囲内の一定の温度で反応を行つてもよいことを意味するものと解せられることは既述のとおりであり、また、前掲甲第二号証の二の記載(例えば、第一一頁下から五行~第一二頁下から七行)によれば、本願発明におけるハロゲン化水素/水素の分圧比1:1~1:50の要件は、その発明の要旨の範囲内の条件で、反応中に変化させることなく右範囲内の一定の分圧比で反応を行うことをも包含しているものと解せられ、かつ、化学反応において未反応原料及び反応に有用な副生物を再循環利用することは常套手段というべきものである。

そうすれば、本願発明が、その要件とする三五〇度Cないし一二〇〇度Cの反応温度のうちの高温範囲の反応については仮に原告主張のような顕著な作用効果を奏するものであるとしても、その反応温度の一部である少なくとも三五〇度Cないし五〇〇度C付近までの反応条件については、引用例の記載から当業者が容易に発明をすることができたものということができるのであるから、右の範囲の低温範囲の反応が除外されていない以上、本願発明は、結局、引用例の記載から当業者が容易に発明をすることができたものといわなければならない。

原告の主張は理由がない。

三 以上の次第で、審決の取消を求める原告の主張はすべて理由がないので、本訴請求は失当として棄却することとする。

〔編註〕 本願発明の要旨は左のとおりである。

珪素及び(又は)珪素含有物質をハロゲン化水素と温度三五〇~一二〇〇度C及び高水素分圧で反応させることによりハロゲン化シラン、殊に珪素クロロホルムを製造する方法において、生じた水素とハロゲン化シランとの混合物から少なくともハロゲン化シランの一部分を分離し、残部を、形成した水素の再循環速度を調節することにより配量した量と一緒に、ハロゲン化水素/水素の分圧比1:1~1:50の範囲内で反応温度が増すにつれて増大する反応中に戻すことを特徴とするハロゲン化シランの製造方法。

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