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東京高等裁判所 昭和54年(行ケ)125号 判決

本件審決にこれを取消すべき違法の点があるかどうかについて考える。

(一) 原告は、第二引用例(成立に争いのない甲第五号証)は印刷フイールド板に販売店識別板、顧客用クレジツトカードを装着しその上に送り状用紙を載置したうえで、印刷記録装置の開口部に手操作で挿入し、全挿入された後に、印刷フイールド板の前端のハンドルを押下げると、ローラの後方位置から前方位置への運動により送り状用紙に印刷が行なわれる形式のものであり、印刷フイールド板の手動押入及びそれにひきつづく前端の押下という操作を基本とする印刷記録装置であり、その形式は本件1の発明とは全く異なると主張する。

しかしながら、本件1の発明と第二引用例とは、具体的な構成では相違するところがあるが、印刷すべき用紙が保持される床上にそつて往復動するローラが、その一方の移動行程において、クレジツト・カードのような浮出し板の情報及び印刷輪の設定された数字等を、前記用紙に印刷する形式の印刷機である点で、同種の印刷機に属するものと認められるから、原告の主張は理由がない。

(二) 原告は、第二引用例においては、ローラの後方位置から前方位置への運動により印刷作動が行なわれた後、印字記録装置から印刷フイールド板が引抜かれ、それとともに数字印字ホイールの売上金額がゼロに復帰したときにピン368をみぞ108に突出させて印字記録装置への印字フイールド板の再挿入を阻止するものであるから、ピン368が第一位置を占めたときにはローラはすでに作動位置(前方位置)への運動をすませており、ピン368がローラの作動位置への移動を阻止することはありえないと言い、また、審決は第二引用例に「印刷フイールド板が印刷位置に挿入できないように前記ローラ組立体が作動位置へ移動するのを妨げるために前記ローラ組立体を係止する第一位置及び前記ローラ組立体が作動位置へ移動するのを許容する第二位置への移動自在の阻止部材」が記載されていると認定しているが、第二引用例にそのようなものは記載されていないから、その認定は誤りであると主張し、さらに、本件発明におけるプラテン移送台の「作動位置」という用語は「基準位置」という用語に対するものであり、プラテン移送台が一つの印刷を遂行した位置を意味するものであると主張して、本件出願の原出願であるという米国特許出願第五七九四五八号明細書の一部(甲第七号証)を引用する。

そこで、本件発明でいう「作動位置」について考えてみるに、本件特許公報(成立に争いのない甲第二号証)の特許請求の範囲には、「基準位置から作動位置へ及び作動位置から基準位置へ移動自在なプラテン移送台」なる記載があることからすれば、「作動位置」は、原告主張のとおり「基準位置」に対するものとして用いられていることは明らかであるが、「作動位置」が必らずしも、原告主張のように、プラテン移送台が一つの印刷を遂行した位置を意味するものとは解せられない。

前記本件特許公報及び成立に争いのない甲第三号証(昭和五〇年五月一九日附手続補正書)によれば、本件1の発明の特許請求の範囲には、「該移送台が該作動位置へ移動するのを妨げるように前記移送台を係止する第一位置及び該移送台が該作動位置へ移動するのを許容する第二位置へ移動自在の阻止手段」との記載があることが認められ、これと本件明細書中の発明の詳細な説明の、「プラテン移送台が機械の台上で基準位置から印刷動作を行なう作動位置へと移動しうる」(特許公報第四欄第九行、第一〇行)、「ローラプラテン移送台が印刷行路を経て第一及び三図から分るように左から右に作動位置へと移動すると」(同第八欄第三七行ないし第三九号)、「ローラプラテン移送台14が更に右に移動すると印刷行程は完了する。」(同第一〇欄第一一行ないし第一三行)との記載を綜合すると、「作動位置」とは、プラテン移送台が基準位置から、印刷可能な位置へ移動しようとする行程において、阻止手段によつて、その移動が阻止されうる位置から、その移動が許容される位置に移動するように作動したときには、プラテン移送台が右移動が阻止されうる位置から印刷行程に移動して印刷が完了されうるまでの位置、すなわち、阻止手段の第一位置によつてプラテン移送台の移動が阻止されうる位置から、阻止手段の第二位置によつてその移動が許容され印刷が完了されうるまでの位置をいうものであると解される。

そして、本件1の発明において、阻止手段が第一位置に位置づけられるのは、プラテン移送台が印刷を完了して作動位置から基準位置へ戻るときであり――本件公報第一二欄第三八行ないし第四二行には、「ローラプラテン移送台14が基準位置へ戻るとき、揺れ腕68は反時計方向に枢動し、ピン65を阻止部材の下側から引戻し、阻止部材を第五図に示した有効な阻止位置に引戻す。」との記載がある――、第二引用例においても阻止手段(ピン368)が第一位置に位置づけられるのは、本件1の発明のプラテン移送台に相当するローラ組立体が印刷を完了した後であることが認められるから、その点において本件1の発明と第二引用例とではなんら異なるところがない。

右のとおりであるから、原告の前記主張はいずれも理由がない。

(三) 原告は、また、第二引用例のものはピン368のみぞ108への突出は数字印字ホイールの売上金額をゼロに復帰させることに応動して行なわれるものであつて、ローラの印刷サイクルに応動するものではない旨主張するが、しかし、第二引用例記載のものも、印刷フイールド板の引抜き動作はローラ組立体と関連して印刷サイクルの一部となることが明らかであるから、原告の主張は理由がない。

(四) 原告は、さらに、第二引用例のローラ組立体が本件1の発明のプラテン移送台に相当するとの審決の判断は正しくない旨の主張をする。しかし、両者はその具体的な構成において差異があつても、いずれもその往復動によつて用紙への印刷が行なわれるものであるから、第二引用例のローラ組立体は本件1の発明のプラテン移送台に相当するものということができる。原告の主張は理由がない。

(五) 原告は、審決は引用例との対比において本件発明が作用効果に格別なものは何も生じないと認定しているが、その理由を示していないから、審決には理由不備の違法がある旨主張するけれども、審決は本件1の発明と第一引用例とを比較し、本件1の発明のうち第一引用例に記載のない点は第二引用例に記載されているとし、本件1の発明は第一引用例に第二引用例による公知技術の附加ないしは設計変更にすぎず、全体として本件1の発明は作用効果に格別のものを生じないと認定しているのであり、右認定はこれを是認しうるところであるから、審決には理由不備の違法があるものとすることはできない。

(六) 原告は、また、審決には原告が審判請求理由補充書の第三項及び第四項で述べた主張に対する判断を明瞭には示されていないから、審決には審理不尽の違法がある旨主張するが、審決の全趣旨によりその判断が示されているものということができるから、審決には審理不尽の違法はない。

以上のとおり、原告の主張はいずれも理由がなく、本件1の発明は、第一、第二引用例に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであると認定した審決に違法の点はないから、その取消を求める原告の本訴請求を棄却することとする。

〔編註〕 本件における特許請求の範囲および審決理由の要旨は左のとおりである。

本件発明の特許請求の範囲

1 印刷すべき用紙を保持する床、印刷サイクルの実施のため該床にそつて基準位置から作動位置へ及び作動位置から基準位置へ移動自在なプラテン移送台、該移送台に回転自在に支持されたローラプラテン、該プラテンと協働して印刷を行なうに適するように該床内に位置づけた設定自在の複数個の印刷輪、各印刷輪を所望の設定位置へ設定する位置づけ手段、該移送台が該作動位置へ移動するのを妨げるように前記移送台を係止する第一位置及び該移送台が該作動位置へ移動するのを許容する第二位置への移動自在の阻止手段、該阻止手段を該第一位置へ移動させるためにプラテン移送台の印刷サイクルに応動する手段、及び該阻止部材を該第二位置へ移動させるために手動的に作動しうる手段から成るデータレコーダ。

2 印刷すべき用紙を保持する床、印刷サイクルの実施のため該床にそつて基準位置から作動位置へ及び作動位置から基準位置へ移動自在なプラテン移送台、該移送台に回転自在に支持されたローラプラテン、該プラテンと協働して印刷を行なうに適するように該床内に位置づけた設定自在の複数個の印刷輪、各印刷輪を所望の設定位置へ設定する位置づけ手段、該移送台が該作動位置へ移動するのを妨げるように前記移送台を係止する第一位置及び該移送台が該作動位置へ移動するのを許容する第二位置への移動自在の阻止手段、及び該阻止部材を該第一位置へ移動させるためにプラテン移送台の印刷サイクルに応動する手段、及び該阻止部材を該第二位置へ移動させるために該位置づけ手段の一つの運動に応動する手段、及び該印刷輪が設定位置に正しく設定されない場合には印刷サイクルへの該移送台の移動を阻止する手段から成るデータレコーダ。

審決の理由の要旨

本件発明の要旨は、前項記載のとおりであると認める。

ところで、昭和三七年九月二一日出頭公告された特公昭三七―一四六五九号公報(以下「第一引用例」という。)には、印刷用紙を保持する床、該床上の印刷位置に回動できるように床に枢着された印刷ヘツド、該印刷ヘツドには印刷サイクルの実施のため前記床にそつて基準位置から作動位置へ及び作動位置から基準位置へ移動自在なプラテン移送台、該プラテン移送台に回転自在に支持されたローラプラテン、該プラテンと協働して印刷を行なうに適するように前記床に位置づけた設定自在の複数個の印刷輪、該各印刷輪を所望の設定位置へ設定するキー手段から成る印刷機(データレコーダ)が記載され、また、昭和三八年七月三一日特許庁資料館受入れの米国特許第三〇八三六四一号明細書(以下「第二引用例」という。)には、クレジツトカードのような情報カードなどと印刷用紙を載置した印刷フイールド板を器体開口に挿入することによりローラ組立体をそのばね付勢に抗して作動位置に移動させ、前記挿入の最終段階、すなわち所定の印刷位置に達した時にベース板への印刷フイールド板の押下げ動作により前記ローラ組立体を外して前記ばねによるローラ組立体の復帰運動によつて印刷を行なう印刷記録器において、前記ローラ組立体と協働して印刷を行なうに適するように前記ベース板内に位置づけた設定自在の複数個の印刷捧、該各印刷捧を所望の設定位置へ設定する数字輪、前記印刷フイールド板を印刷終了後の引抜き動作により前記数字輪を帰零する手段、該帰零手段と応動して前記ローラ組立体の走行路内にピンが突出し、印刷フイールド板が印刷位置に挿入できないように前記ローラ組立体が作動位置へ移動するのを妨げるために前記ローラ組立体を係止する第一位置及び前記ローラ組立体が作動位置へ移動するのを許容する第二位置への移動自在の阻止部材及び該阻止部材(ピン)を前記第二位置へ移動させるために前記番号輪の設定作動に応動する手動的に作動しうる手段から成るものが記載されている。

そこで、本件特許請求の範囲第一番目の発明(以下「本件1の発明」という。)の構成と第一引用例記載のものとを比較検討するに、本件1の発明の、(1)プラテン移送台が作動位置へ移動するのを妨げるように係止する第一位置及び該移送台が作動位置へ移動するのを許容する第二位置への移動自在の阻止手段(阻止部材)、(2)該阻止手段を第一位置へ移動させるためにプラテン移送台の印刷サイクルに応動する手段、(3)該阻止部材を第二位置へ移動させるために手動的に作動しうる手段を第一引用例のものが具えていない点で両者相違し、その他の構成では両者一致している。

ところで、前記相違点(1)及び(3)の構成については、第二引用例のものにおけるローラ組立体が本件1の発明のプラテン移送台に相当するので、前記の点の構成は第二引用例記載のとおり本件出願前に公知の技術であるから、本件1の発明は右公知事実を付加したにすぎないものであり、また、相違点(2)の構成については、次の印刷に際し番号輪を再び設定しない場合に、ピン(阻止部材)をローラ組立体が作動位置へ移動させるのを妨げる第一位置に移動させるために、印刷上必要な部材の移動に応動する手動手段を具えていることが同じく第二引用例記載のとおり本件出願前に公知の技術であつて、ただ第二引用例のものでは印刷上必要な部材の移動としては、ローラ組立体の復動による印刷の後の印刷フイールド板の引抜き動作に応動していることで、本件1の発明におけるプラテン移送台の印刷サイクルの運動に応動するものとは差異があるが、第二引用例における印刷フイールド板の引抜き動作も一連の印刷サイクルに関連するものと認められるから、阻止部材を前記第一位置へ移動させる応動部材としての印刷上必要な移動部材を、本件1の発明のようなプラテン移送台のみであるか否かに応じてどれを用いるかは、前記公知技術から当業者が適宜なしうる単なる設計的事項にすぎないものであり、全体として本件1の発明の前記相違点の構成により作用効果に格別なものは何も生じない。

従つて、本件1の発明は、第一、第二引用例に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第二九条第二項の規定により特許を受けることができない。

以上のとおり、本件出願は、その特許請求の範囲第二番目の発明について判断するまでもなく、拒絶すべきものとする。

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