東京高等裁判所 昭和54年(行ケ)138号 判決
本件審決にこれを取消すべき違法の点があるかどうかについて考える。
原告は、先ず、審決は引用商標の構成のうち、「Butter Ball」の欧文字部分は商品の普通名称を表示するとした点において判断を誤つた違法があると主張する。
しかしながら、片仮名文字で表示される「バターボール」という語がキヤンデーの一種として存することは、原告も認めるところであり、成立について争いのない乙第一号証の一ないし三によれば、バターボールは英語のbutterとballとを合成したいわば一種の和製英語で、バターやバニラを加えた飴玉を示す語として普通に使用されていることが認められる。しかして、引用商標における「Butter Ball」は、butterballと表示される右のバターボールを二語に分離し、各語頭のBを大文字で表示したにすぎないもので、なおバターボールなる商品の普通名称を示すものであるということができる。原告の主張は理由がない。
原告は、さらに、審決は引用商標の構成のうち、商品の出所を識別し得る部分は「テリヤ製菓」とあるうちの「テリヤ」にあるとしたが、「製菓」の文字部分を「テリヤ」の文字部分から切離して論ずることは誤りであると主張する。
しかしながら、審決は、引用商標のうち、商品の出所を識別し得る部分は、「Terrior」「テリヤ」、「犬の図形」の各部分にあるとし、引用商標からは「Terrior」の欧文字部分に相応し、「テリア」の称呼をも生ずるとして、その称呼と本件商標から生ずる「デリア」の称呼とを対比しているものであつて、引用商標中の「テリヤ製菓」の部分を「テリヤ」と「製菓」に分離したこと(その趣旨は、「製菓」の部分には識別力がないとしたものと認められるが)は、審決の結論に影響を及さない。原告の主張は理由がない。
原告は、また、引用商標の構成のうち、商品の出所を識別し得る部分は「Terrior」、「Butter Ball」、「テリヤ製菓」、「犬と思われる図形」の各部分であるところ、審決が商品の出所を識別し得る部分として、「Terrior」、「テリヤ」、「犬の図形」としたうえで、「Terrior」の欧文字部分から「『テリア』の称呼をも生ずる」と判断したのは、識別力のある部分の認定を誤つたうえ、引用商標の具体的構成、例えば「テリヤ製菓」の文字部分の存在、「Terrior」の造語であることなどを看過したものであり、従つて、審決が「本件商標より生ずる『デリア』と引用商標より生ずる『テリア』との称呼上の類否について比較検討」したのは誤つていると主張する。
しかしながら、引用商標中「Butter Ball」の欧文字部分は、指定商品の普通名称を表示する部分であることは前説明のとおりであつて、特段の事由のないかぎり、自他商品の識別力をもたないことは審決のいうとおりであり、引用商標においてそれが自他商品の識別力を有するとする特段の事由の存在は認められない。
引用商標の登録出願人(会社であるか個人であるかは証拠上分明ではないが)の商号はテリヤ製菓であると推認されるが、右出願人が引用商標中に犬と思われる図形、その下に「Terrior」の文字、なお他二か所に「Terrior」の文字を表示することを選んだのは右商号に関連させてのことであると推測できることは、引用商標の構成から明らかである。もつとも、犬の一種であるテリヤ(又はテリア)は、原告もいうように、英語ではterrierと表示され、terriorではないが、出願人は、誤つてか又は故意にか、テリヤ(又はテリア)犬を表示するためにTerrierとしないでTerriorとしたものと推測される。しかして、例えばPianoが日本語では、現在通常はピアノと表記されているが、ピヤノと表記されても間違いとはいえないと同様にTerriorも日本文字では「テリヤ」とも(「Terrior」が「テリヤ」と表記されるべきことは原告も結局これを認めている。)、「テリア」とも表記され得、この場合「テリヤ」と「テリア」の音声上の差異はほとんどないといえる。従つて審決が、引用商標からは「『Terrior』の欧文字部分に相応し、『テリア』の称呼をも生ずる」としたのは相当であつて、なんら違法とするに足りない。
原告は、審決は引用商標から、「テリヤ」のほか「テリア」の称呼をも生ずるとした点において判断を誤つた違法があると主張する。
しかし、審決は、引用商標の「Terrior」の欧文字部分から「テリア」の称呼が生ずるとしたものであつて、その審決の判断が是認できることは、前説明のとおりである。引用商標中に「テリヤ製菓」の文字があるからといつて、そのことから「Terrior」は「テリヤ」の称呼しか生ぜしめないとすることはできない。また、「Terrior」が、英語、独語、仏語にもない造語であるからといつて「Terrior」はローマ字式に「テリオール」と発音され、又は「テリヤ」と発音されて「テリア」と発音されることはないということはない。原告が、称呼上の比較の対象は、「デリア」と「テリヤセイカ」でなければならないとするのは、「Terrior」の欧文字部分から「テリア」の称呼が生じないとすることを前提とするものであつて、その採り得ないものであることは前説明のところから自ら明らかである。
原告は、仮に引用商標から「テリア」の称呼が生ずることがあつても、本件商標の「デリア」とは、語頭音が清音、濁音と相違し、取引者、需要者は通常の注意力をもつて十分にその差異を認めることができると主張し、その区別のできる場合の例を種々挙げている。
しかしながら、商標の類否の判断をなすに当つては、直接両商標を対照比較してすべきでなく、いわゆる離隔的観察、すなわち、時と所とを異にした場合に、商標に接する者が商標を間違えるかどうかという前提に立つて観察すべきものであるところ、本件商標と引用商標とは、対比観察によれば、語頭音の差異から区別が必ずしも不可能ではないが(ただし、原告が例を挙げるものは、いずれも両方の語が意味をもつ場合で適切ではない。)、離隔的観察によれば、審決のいうごとく互いに聞き誤まるおそれがあるものといわなければならない。原告の主張は理由がない。
審決は、引用商標からは愛玩用の小犬であるテリアの観念が出、それからテリアの称呼が生ずるとしたものではないから、原告の(七)の主張も理由がない。
以上のとおりであつて、原告の主張はいずれも理由がなく、本件商標と引用商標とは称呼において類似し、かつ、本件商標の指定商品は、引用商標の指定商品を包含するものであるから、本件商標は商標法第四条第一項第一一号により登録を受けることができないとした審決に違法の点はない。
〔編註〕本件に関する商標は左のとおりである。
別紙一
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別紙二 登録第八六〇八九〇号商標
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