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東京高等裁判所 昭和54年(行ケ)14号 判決

審決にこれを取り消すべき違法の点があるかどうかについて検討する。

右争いのない本願発明の要旨に表わされる本願発明と成立に争いのない甲第三号証により審決認定のとおりのものと認められる引用発明とを対比すると、両者は、「固定子側に位相制御回路を有する多相誘導電導機において、直流制動回路を形成する固定子巻線に補助制御素子を並列に接続し、制動時に、直流制動回路を形成する主制御素子及び上記補助制御素子を電源電圧の各半サイクルごとに交互点弧させ、上記補助制御素子を接続した固定子巻線に直流電流を断続することなく流し続けるようにして、上記補助制御素子のないものに比し、直流制動の効果を高めようとする」技術思想において一致していることは明らかであり、ただ、本願発明が直流制動回路を形成する二相の固定子巻線のうち、一相の固定子巻線のみに補助制御素子を並列に接続するのに対し、引用発明が当該固定子各相巻線(したがつて、直流制動回路を形成する二相の固定子巻線)に補助制御素子を並列に接続する点で、一応両者は相違しているものと認められる。

しかし、直流制動効果を高めるための補助制御素子を引用発明のように二相の固定子巻線のそれぞれに接続する代りに本願発明のように一相の固定子巻線のみに接続すれば、使用する補助制御素子を二個から一個に減らしうる代りに制動効果も当然それだけ減少することとなるのは明らかであり(原告は、本願発明でも、制動時における主制御素子の点弧角を制御することによつて引用発明と同程度の制動効果が得られると主張するが、両者を同一条件の下で比較した場合、引用発明に比べて本願発明の制動効果が低いことは、両発明の構成からみても否定できないところである。)、また、一般に、多相誘導電動機の直流制動を行なう際に直流励磁を行なう固定子巻線の数を変えることにより制動効果の程度を選択することは、成立に争いのない甲第六号証に示されているところからみても、当該技術分野において普通に採用される設計事項であると認められるから、上記補助制御素子を直流制動回路を形成する二相の固定子巻線のそれぞれに接続するか、これを一相の固定子巻線のみに接続するかは、その電動機に要求される制動効果の程度に応じて当業者が任意に選択しうることにすぎないとみるのが相当である。

ところで、原告は、右の補助制御素子を本願発明のように一相の固定子巻線のみに接続することによつて、制動運転、駆動運転のステツプ変化時の過渡状態において電源短絡の可能性を除くことができ、これは引用発明にみられない格別の効果であると主張するので、この点について検討する。

成立に争いのない乙第一号証の記載とくに交流電動機を正転駆動から逆転制動に切り換える際、正転用及び逆転用サイリスタが同時導通して電源短絡するのを防止するための一定時間を設定するために遅延回路を設ける旨の記載並びに本件口頭弁論の全趣旨によつても認められるとおり、一般に、サイリスタ(本願発明の主制御素子及び補助制御素子がこれにあたることは、本願発明の構成から明らかである。)を用いた電動機制御装置において、サイリスタの同時導通により電源短絡を生ずることは、当業者が設計にあたり常に留意しなければならないことであり、本願発明の対象とする多相誘導電動機の制動装置においても、前記補助制御素子の接続される固定子巻線を一相とするか二相とするかを決定するに際し、これを二相とすれば制動効果はそれだけ高くなるが前記のサイリスタの同時導通(すなわち主制御素子と補助制御素子との同時導通)による電源短絡のおそれがあり、一方、一相のみとすればかかる電源短絡のおそれはない代りに制動効果が二相のものより低下するということは、当業者において当然に予期すべき自明の事項にすぎないから、その電動機に要求される制動特性の程度を勘案して、一相のみのものとするか、あるいは電源短絡防止は他の手段(例えば、前記乙第一号証に示されるような遅延回路を附加する手段)にゆだねて、さらに制動効果の高い二相のものとするかは、設計にあたり、当業者が任意に選択しうることと認められる。

そして、本願発明の明細書(成立に争いのない甲第二号証)の記載をみても、そこには、本願発明の効果としては、一個の補助制御素子の付加によつて電動機の制動特性を実用性ある範囲で改善させることができる旨の説明が記載されているにとどまり、それ以外に、原告主張の電源短絡防止等の作用効果の説明記載はみられないから、本願発明は、要するに、前記補助制御素子の付加によつて電動機の制動特性を向上させた点で引用発明と軌を一にするものであり、単にその補助制御素子を一個設けるだけで、それがないものに比し、制動効果を実用性ある範囲において改善させた程度のものに帰すると考えられるので、電源短絡防止の点で格別の効果ありとして引用発明と別個の発明を構成するものとすることはできず、したがつて、本願発明が先願にかかる引用発明と実質的に同一であるという理由により本願を拒絶すべきものとした審決は、原告主張のような違法の点はなく、正当といわなければならない。

よつて、審決の違法を理由にその取消を求める原告の本訴請求を失当として棄却することとする。

〔編註その一〕 本願発明の要旨は左のとおりである。

固定子側に位相制御回路を有する多相誘導電動機において、直流制動回路を形成すべき二相の固定子巻線の内一相の固定子巻線にサイリスタ等の一個の補助制御素子を並列に接続し、制動時にこの固定子巻線とこれに相隣る固定子巻線に対し直列に挿入されたサイリスタ等の主制御素子及び上記並列接続の補助制御素子を電源電圧の各半サイクル毎に交互点弧させるようにしたことを特徴とする多相誘導電導機の制動装置。(別紙図面(一)参照)

〔編註その二〕 本件に関する図面は左のとおりである。

別紙図面(一)

<省略>

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