東京高等裁判所 昭和54年(行ケ)143号 判決
原告の主張する審決取消事由の存否について検討する。
1 その1の主張について
原告は、引用例のものは、本願発明が構成要素とする「第二の帯域で反応混合物に剪断混合を受けさせる段階」を具備していないと主張する。
引用例に、「多軸スクリユー押出機」の使用が示されていることは原告の自認するところである。
そこで、まず、引用例の「多軸スクリユー押出機」の使用に関する記載に基づいて、それが本願発明における三つの帯域の区分のあるものの使用と解することができるか否かについて検討する。(なお、この判断の基準時は、本願発明の特許出願についての優先権主張日である昭和四四年一二月三日の時点と解するのが相当である。蓋し、発明の出願審査に当り、引用例に如何なる技術事項が開示されていると解すべきかは、当該特許出願時点までに普及された当業者の技術常識を前提として判断すべきものだからである。)成立に争いのない(中略)によれば、右出願日の昭和四四年一二月三日以前において、ウエルデイング・エンジニアーズ社の二軸スクリユー押出機、ワーナー・アンド・プフアイデラー社のZSK二軸スクリユー押出機、クラウスーマツフイー社の二軸スクリユー押出機等、種々のメーカーの多軸スクリユー押出機が市販されており、これら多軸スクリユー押出機は当業者間に周知のものといつて差支えないものであつて、これらの押出機にはいずれも原料供給帯域と押出成形帯域との間に中間の帯域が存在し、この中間帯域に相当する部分において混練が行なわれ、その際剪断力が作用するものとされていたことが認められる(乙第一号証の二、第九〇頁~第九三頁、乙第二号証の二、第七三二頁~第七三六頁)。
そうすれば、引用例の多軸スクリユー押出機は「中間に剪断力が作用する帯域」を備えた多軸スクリユー押出機であると解することができるのであるから、原告の主張は理由がない。
2 その2の主張について
原告は、引用例のものは本願発明が構成要素としている「高剪断混合」の要件を具備していないと主張する。
引用例のものが、「中間に剪断力が作用する帯域」を備えた多軸スクリユー押出機を用いるものと解しうることは前記認定のとおりである(なお、引用例の押出機においても、「一般に剪断を受ける段階」があることは原告も自認しているところである。)。
ところで、「高剪断」といつても、単に「剪断」に対する相対的な意味内容を表現するにすぎないものであることを免れず、技術思想上、客観的具体的な剪断の程度を確定すべきものでないことは明らかである。そして、「低剪断」といい、「高剪断」といつても、共に「剪断」の概念に含まれるものであるから、本願発明の場合、明細書全体の記載から、特に引用例のものにおける剪断とは客観的に異なるものとすることのできる根拠のない限り、両者を区別することはできないというべきである。
この点につき、原告は、引用例のものの「剪断」と本願発明における「高剪断」とが異なるものである根拠として
<1> 本願発明においては、中間帯域の装置部材を「スクリユー」という表現ではなく「混合要素」という特別の表現を用いているのに対し、引用例のものにおいては、「スクリユー」相互の「かみ合い」作用で足りること、
<2> 本願発明においては、反応系に触媒を用いることを必須条件としており、かつ、反応混合物の混合帯域滞溜時間が、最大でも二分二〇秒、好ましくは約一二秒~三〇秒であるのに対し、引用例のものにおいては、触媒を使用する場合であつても三分~六〇分の長時間であること、を指摘する。
そこで、まず、右の<1>の点について考えるに、成立に争いのない甲第二号証(第九頁~第一〇頁)によれば、本願発明の明細書には、反応混合物に効果的な混合が行なわれないと部分的過熱を惹き起すので、混合帯域では高剪断混合が好ましいこと、この種の混合装置は商業的に入手可能であること、高剪断混合のためには円筒状のバーレルに縦に配置された軸上に一連の広いエツジのある混合要素を用いること、最も普通に用いられる装置では二連の混合要素が互にかみ合つて設けられていること、これらの混合要素は実質的に三角形又は楕円形のものであること、の説明記載が存することが認められる。これらの記載によれば、本願発明においては商業的に入手できる通常の押出機が使用できること、換言すれば、本願発明において使用する押出機には格別の特徴のないことを示しているものといわざるをえない。その上、押出機の一部を構成する混合要素についても、その構造に関する具体的限定ないし規定は何もなく、単に「混合要素」という表現以外に特徴的なものは見出せない。
右のように、本願発明において使用する押出機及び混合要素については、その構造上何らの特徴を見出すことができないのであるから、剪断混合作用に関し、その混合要素をもつて引用例の多軸スクリユー押出機の中間帯域とは異別のものとすることはできないといわざるをえない。
次に、前記<2>の点について考えてみるに、本願発明の明細書(甲第二号証)を検討しても、反応混合物の滞溜時間と剪断との関係について記載されているところはないばかりでなく、右の滞溜時間と剪断の程度の高低に直接的な関連があるとすることは相当でない。反応混合物の滞溜時間は、必要な反応時間と密接な関係を有するものであり、必要な反応時間は、反応成分の組合せ、反応温度、触媒の種類・量等の諸条件によつて直接的な影響を受けるものであるからである。
したがつて、右のような性質の滞溜時間の長短によつて、本願発明における剪断の程度が具体的に規定されると解することは到底できない。
以上のとおりで、原告の前記<1><2>の指摘はいずれも理由がない。
よつて、本件審決の違法を理由にその取消を求める原告の本訴請求を失当として棄却することとする。
〔編註〕 本願発明の要旨は左のとおりである。
熱可塑性非セル状ポリウレタンをワンシヨツト法で製造するための連続法において、
(a) 第一の帯域で、有機ジイソシアネート、重合体ジオール、二官能性鎖伸長剤および触媒を上記反応体の活性水素基に対するイソシアネートの全比率が約〇・九対一ないし約一・二対一の範囲で、二官能性鎖伸長剤に対する重合体ジオールのモル比が約〇・一対一ないし約一〇対一の範囲内で液状で混合する段階、
(b) 反応混合物を上記第一の帯域から、この帯域と相互に連結している第二の帯域に連続的に通し、この第二の帯域で反応混合物に高剪断混合を受けさせる段階、
(c) 反応混合物を上記第二の帯域から、この帯域と相互に連結している第三の成形帯域に連続的に通し、この成形帯域で上記混合物を押出により成形する段階、および
(d) 上記反応混合物の粘度が上記第二の帯域および第三の帯域を通して実質的に一定であり、約一〇〇、〇〇〇センチポイズないし約一、〇〇〇、〇〇〇センチポイズの範囲にあるように、反応成分が第一の帯域に導入される温度が約八五度F~約二六〇度Fの範囲であり、成形帯域から出る温度が約三五〇度F~約四八〇度Fであり、第一の帯域の入口から成形帯域の出口までの温度勾配が実質的に直線であるように反応混合物の温度を制御する段階からなることを特徴とする方法。