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東京高等裁判所 昭和54年(行ケ)146号 判決

一 請求の原因一ないし三の事実は、当事者間に争いがない。

二 そこで、審決取消事由の存否について判断する。

1 成立について争いのない甲第六号証(本願発明の特許出願公告公報)によれば、本願発明の明細書における特許請求の範囲の記載は、事実摘示第二、二記載のとおりであることが認められ、これによれば、本願発明に係るテレビジヨン・カメラの偏向系の遠隔制御装置は、主偏向信号発生器、ラスタ修正信号発生器、制御装置及び偏向手段からなり、制御装置は主偏向信号発生器及びラスタ修正信号発生器の双方から離隔して配置され、制御装置からラスタ修正信号発生器に供給される制御信号は直流信号であり、ラスタ修正信号発生器の発生するラスタ修正信号は主偏向信号発生器の発生する主偏向信号と結合されて偏向手段に供給されるものであり、本願発明は右のことをその構成要件とするものであると認められる。

一方、成立について争いのない甲第二号証のうち、別紙添附図面(二)によれば、フイリツプス社製プランビコンカラーTVスタジオカメラの水平偏向制御装置中には、「HORIZONTAL OUTPUT」、「LINEARITY CONTROL」と表示されている回路及び遠隔制御回路並びに偏向コイルが存在していることが示され、そのうち「HORIZONTAL OUTPUT」と表示されている回路は主偏向信号を発生する回路であり、「LINEARITY CONTROL」と表示されている回路はラスタ修正信号の一つである直線性修正信号を発生する装置であること、遠隔制御回路は「HORIZOTAL OUTPUT」及び「LINEARITY CONTROL」の双方から離隔して配置され、遠隔制御回路から「LINEARITY CONTROL」に供給される制御信号は直流信号であること、「HORIZONTAL OUTPUT」で発生する主偏向信号は撮像管の電子ビームを偏向させる手段である偏向コイルの一端に供給されており、また、「LINEARITY CONTROL」で発生する直線性修正信号は、右偏向コイルの他端に供給されており、右両信号の共同作用によつて偏向コイルに修正された偏向電流が流れることが示されているものと認められる。

そうすると、甲第二号証マニアルに記載されている回路技術には、本願発明における主偏向信号発生器、ラスタ修正信号発生器、制御装置及び偏向手段にそれぞれ相当するものが悉く含まれているとした審決の認定に誤りとすべき点はない。

原告は、本願発明の明細書の特許請求の範囲に記載されている「主偏向信号発生器」「ラスタ修正信号発生器」、「偏向手段」等の用語は、その内容が一義的に明確なものとして一般に慣用されているものではなく、明細書の発明の詳細な説明の欄に記載した発明の構成素子を簡潔に表現したものであるから、これらの用語の意味するところは、発明の詳細な説明の項の記載によつて限定され、確定されなければならないところ、右の「主偏向信号発生器」、「ラスタ修正信号発生器」及び「偏向手段」とは、それぞれ発明の詳細な説明の項に記載された、「水平のこぎり波発振器19」、「水平直線性制御回路30」及び「水平偏向増幅器60」と「偏向コイル63」からなる「偏向装置」をいうものであり、そうすると甲第二号証マニアルには、本願発明でいう主偏向信号発生器、ラスタ修正信号発生器、制御装置及び偏向手段にそれぞれ相当するものが悉く記載されているとした審決の認定は誤つている旨主張する。

しかしながら、仮りに本願発明の明細書の特許請求の範囲に記載されている「主偏向信号発生器」、「ラスタ修正信号発生器」、「偏向手段」等の用語の内容が一義的に明確なものとして一般に慣用されているものではないとしても、本願明細書及び図面の記載全体から、右の「主偏向信号発生器」とは、主たる偏向信号を発生する装置のことであり、「ラスタ修正信号発生器」とは文字どおりラスタ修正信号を発生する装置であり、更に「偏向手段」とは、それがテレビジヨンカメラの偏向系の構成要素であることに照らし、撮像管の電子ビームを偏向させる手段であつて、そのそれぞれの用語の意味する技術内容は明瞭であつて、原告主張のように、それらの語を明細書の発明の詳細な説明に記載されているところにしたがつて限定的に解釈しなければ、その意味するところを確定しえないというものではないから、明細書の特許請求の範囲に記載されている右の語を限定的に解釈すべきであるとし、これを前提に審決の認定を非難する原告の主張は理由がない。

原告は、本願発明の「ラスタ修正信号発生器」は、その発生する「ラスタ修正信号」を「主偏向信号」と結合して「偏向手段」に供給するものであるのに対し、甲第二号証マニアルにおける、審決でいう「直線性調整回路」(註 別紙図面(二)にLINEARITY CONTROLと表示されている回路をいう)は、その出力を偏向コイルに直接供給するものであるから、本願発明と甲第二号証マニアルの装置とは異る旨主張する。

しかしながら、原告の右主張は、本願発明における「偏向手段」は明細書の発明の詳細な説明の項に記載されている「水平偏向増幅器60」と「偏向コイル63」からなる「偏向装置」をいうものであるとする原告の主張を前提とするものであると解されるところ、本願発明における「偏向手段」を右のように限定的に解すべき根拠はなく、前説明のとおり、甲第二号証マニアルの装置においても、主偏向信号を発生する「HORINONTAL OUTPUT」の出力信号は撮像管の電子ビームを偏向させる手段である偏向コイルの一端に供給され、ラスタ修正信号の一つである直線性修正信号を発する「LINEARITY CONTROL」の出力信号は右偏向コイルの他端に供給され、右両出力信号の共同作用により偏向コイルに修正された偏向電流が流されるのであるから、その点において本願発明と甲第二号証マニアルの装置とで異なるところはない。

2 原告の、本願発明は甲第二号証マニアルの装置に比し顕著な作用効果を有するとの主張は、本願発明における「偏向手段」は増幅器をも含むものであるということをその前提とするものであるところ、その前提の採りえないものであることは前説明のとおりであるから、原告の作用効果についての主張も理由がない。

三 右のとおりであり、本件審決には、これを違法とすべき点はないから、その取消を求める原告の本訴請求を失当として棄却することとする。

〔編註その一〕 本願発明に関する事項は左のとおりである。

一 特許庁における手続の経緯

原告は、名称を「テレビジヨン・カメラの偏向系の遠隔制御装置」とする発明(以下「本願発明」という。)につき、一九六八年一〇月一七日アメリカ合衆国においてした特許出願に基づく優先権を主張して、昭和四四年一〇月一六日特許出願をしたところ、昭和四八年二月二四日出願公告(特許出願公告昭四八―六二八六号)されたが、特許異議の申立があり、昭和五一年三月六日拒絶査定を受けたので、同年八月九日これに対する審判を請求し、昭和五一年審判第八五六〇号事件として審理され、昭和五四年四月一九日右審判の請求は成り立たない旨の審決があり、その審決の謄本は同年五月一六日原告に送達された(なお、出訴期間として三か月が附加された。)。

二 本願発明の要旨

少なくとも一個の主偏向信号発生器と、制御可能なラスタ修正信号発生器と、前記ラスタ修正信号発生器に制御信号を供給する制御装置と、偏向手段とを具備し、特徴として前記制御装置は前記主偏向信号発生器及びラスタ修正信号発生器の双方から離隔して配置されており、前記制御装置から前記ラスタ修正信号発生器に供給される制御信号は直流信号であり、また前記直流信号の制御のもとに発生される前記ラスタ修正信号は前記主偏向信号と結合されて前記偏向手段に供給されるように構成されているテレビジヨン・カメラの偏向系の遠隔制御装置。(別紙図面(一)参照)

〔編註その二〕 本件に関する図面は左のとおりである。

別紙図面(一)

<省略>

<省略>

別紙画面(二)

<省略>

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