東京高等裁判所 昭和54年(行ケ)155号 判決
審決にこれを取り消すべき事由があるかどうかについて検討する。
いずれもその成立に争いのない(中略)弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められる。すなわち、
原告は、一八四六年にヨハネス ヘンクストラによつて創業され、一九二一年(大正一〇年)に会社組織に変更されて現名称となり、主として各種電気関係機械器具の製造販売を業とし、「HENGSTLER」の文字及び原告商標を商標として使用して来たものであるが、戦後その業務は急速に発展し、昭和三八年以降欧米各国に子会社を設けて業務活動をし、わが国に対しても、昭和三六年ごろ、神戸市所在のシー ワインバーガ株式会社に対して製品を販売したのを始めとし、同会社を輸入総代理店として販売を続けていたが、昭和四一年二月には、被告を日本における総代理店と定めて、それ以後昭和四八年ごろまで被告を通じて、原告製品主として電磁カウンタを輸出して来たこと、電磁カウンタは、各種機械に組み込まれて、計数ないしは制御を行なうものであるが、昭和四〇年ごろ当時、国産のカウンタは、全体的にカウンタの生命ともいうべき正確性について必ずしも信頼できないものであつたのに対し、原告製品である電磁カウンタは、きわめて高い正確性を有していたため、これに対する需要は大きく、昭和四二、三年ごろには、被告による強力な宣伝・販売によることもあつて、右電磁カウンタの販売高は急速に増大し、比率としても、全輸入量の約九五パーセント、国産品を含む全販売量の約二〇パーセントを占めるに至つたこと、原告は、わが国における右販売においても、その製品は必ず原告商標を刻印又は印刷したものとし、カタログ、通信用紙にも原告商標を付し、新聞、見本市における宣伝等に関しても原告商標を掲げており、代理店との契約においても原告商標の使用を義務づけ、被告を含む代理店においても右と同様、原告商標を西独における原告会社の製品の商標として使用して来たものであり、その結果、遅くとも昭和四四年八月一九日の本件商標登録出願当時には、原告商標は、西独所在の電磁カウンタ等の製造会社である原告の製品を表示するものとして、当業界の取引者・需要者の間に広く知れ亘るに至つたこと、
以上の事実が認められ、右認定を覆すに足る証拠はない。そうすると、右に反する審決の認定は誤りといわなければならない。
ところで、被告は、電磁カウンタについては、その特性上、製品の売上げが伸びても、その商標ないしは名称が周知になることはない旨主張するが、被告主張の右特性についてはこれを確認するに足る証拠がないばかりでなく、被告の右主張は、カウンタを組み込んだ機械についての取引者・需要者とカウンタ自体のそれとを混同しているものであることが明らかであるから、これを採用することはできない。
また、被告は、原告が昭和四六年ごろ全世界的に原告商標をいわゆるH字形の商標に変えた旨主張するが、仮にそうであつても、それによつて、ただちに原告商標が著名でなかつたとみることはできず、またその著名性がたやすく消滅したものとすることはできないから、被告の右主張も失当である。
さらに、被告は、原告商標が著名となつたとしても、それは被告の宣伝等によるものであると主張するが、たとえそのとおりであつても、原告商標が原告の商標として著名となつたことに変りはないから、被告の右主張も理由がないものとしなければならない。
しかして、審決における前記認定の誤りが審決の結論に影響を及ぼすべきことは明らかであるから、審決は違法としてこれを取り消すべきものである。
よつて、審決の違法を理由にその取消を求める原告の本訴請求を正当として認容することとする。
〔編註その一〕本件における審決理由の要点は左のとおりである。
商標法第四条第一項第一〇号の規定に該当するものとして本件商標登録を無効にするためには、請求人(原告)において現在(本判決注 審決時)使用している別紙の(二)に表示する如き本件商標と同じ構成に係る標章中の中央縦長矩形枠内に「890」の数字を表わした商標(以下「原告商標」という。)が、本件商標の登録出願前にすでに取引者、需要者間に広く認識されていたものでなければならないのに、請求人提出の証拠のみをもつては、請求人(原告)が主として使用する商品「電気関係機器用計数器及びその応用電気機械器具」について、本件商標と類似する商標を使用していた事実を窺い知ることができるといつた程度のもので、請求人(原告)主張のように本件商標の登録を無効にするための前記事実があつたとすることはできない。そうとすれば、たとえ本件商標と請求人(原告)の使用する原告商標が外観において類似するものであるとしても、その故のみをもつてしては、本件商標が商標法第四条第一項第一〇号に違反して登録されたものとはいえないから、商標法第四六条第一項第一号により無効とされるべきものではない。
〔編註その二〕本件に関する商標は左のとおりである。
(一)
<省略>
(二)
<省略>