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東京高等裁判所 昭和54年(行ケ)157号 判決

一 請求の原因1ないし3の事実(特許庁における手続の経緯、本願発明の要旨および審決の理由の要点)は当事者間に争いがない。

二 そこで、審決に原告主張の違法の点が存するか否かについて検討する。

第一引用例および第二引用例にそれぞれ審決認定の技術事項が記載、示唆されていることは原告の認めて争わないところである。審決は、右の認定を前提として、本願発明と第一引用例の方法との構成上の相違点について、第二引用例の示唆する方法、すなわち、「水性分散状態にある水和アルミナに白金族金属を分散させた組成物を基体と接触させて水和アルミナと白金族金属を同時に基体に付着させる」方法における水和アルミナの代りに第一引用例において利用している活性な形のアルミナを採用することは、当業者が容易に推考できたものと認められるとし、原告は、右の審決の判断を争つているので(請求の原因4の(一))、まず、この点について検討する。

1 第一引用例の方法における活性アルミナの使用について第一引用例に審決認定の技術事項が記載されていることは、前記のとおり原告の認めて争わないものであるところ、成立に争いのない甲第三号証(第一引用例)によると、第一引用例には、審決認定の記載のほか、基体上に金属酸化物被膜を形成させる方法について、審決認定の、活性アルミナ粉末の使用に関する記載に先立つて、「一定形状の支持体上に金属酸化物の被膜を密着せしめる適当の一方法は支持体をアルミニウム(「アルミニウマ」とあるは誤記と認める)、マグネシウム又はベリリウム塩溶液の如き適当の塩類溶液中に浸漬し次に加熱して塩類を分解せしむるに在る、斯る条件に於ては活性アルミナ、ベリリア又はマグネシア(「ムグネシア」とあるは誤記と認める)の薄膜が陶磁器又は他の適当の支持体の表面上に固く密着する、此方法を使用する場合数回順次の浸漬分解を行い充分なる厚さの薄膜を形成する必要がある。」(三頁左欄六行~一四行)、「金属酸化物の薄膜を形成する他の適当の方法は適当形状の支持体を相当する金属酸化物の微粉末を含有する適当金属塩溶液中に浸漬し次に塩類を分解して酸化被膜を被着するに在る、此方法は一回の浸漬作業で充分なる厚さのフイルムを造り得る利点がある、……」(同一五行~二〇行)と記載され、続いて、活性アルミナ粉末を使用する方法に関して、「此方法によれば支持体を例えば微粉活性アルミナを含有する硝酸アルミニウム溶液中に浸漬し乾燥後之を加熱して硝酸アルミニウムを分解して活性アルミナにする、浸漬中沈積した微粉アルミナと共に触媒的活性を有するアルミナの密着被膜が形成される、此方法を使用すれば一回の浸漬及分解操作により適当の厚さ例えば〇・〇〇一インチ~〇・〇〇六インチの薄膜が生成される。」(同二〇行~二七行)との記載のあること、他方、第一引用例には、基体上に金属酸化物の被膜を形成する方法については、右記載のほかに、他の具体的方法を示すべき記載は存しないことが認められる。

右事実によると、第一引用例の方法は、<1>基体上に、先ず活性アルミナ等の金属酸化物の被膜を形成させた後、これに白金族金属等の活性金属を付着させる方法であり、基体上に、金属酸化物被膜を形成する工程と白金族金属等を付着する工程のいわば二段階の工程に分けられるものであること、<2>基体上に金属酸化物被膜を形成させる方法の第一段階として基体を金属塩溶液に浸漬する方法及び金属酸化物の微粉末を含有する金属塩溶液に浸漬させる方法があり、審決が前記判断において摘示する活性アルミナ粉末と硝酸アルミニウム溶液を使用する方法は右後者の方法に属するものであるが、いずれの方法においても、これによつて基体に付着した金属塩をその後の加熱、脱水により分解して活性化し(金属酸化物とし)、基体上にその被膜を形成させる点で共通するものであり、これによると、前者の方法が後者の方法の基本となつており、後者の方法をとるとしても、被膜を形成させるうえで、金属塩溶液(例えば硝酸アルミニウム溶液)の存在とその作用効果を軽視することはできないものであること、および<3>基体上に金属酸化物被膜を形成する第一段階の工程で金属塩溶液(例えば硝酸アルミニウム溶液)を使わずに金属酸化物(例えば活性アルミナ)の粉末を使用する方法は何ら示唆されていないことが認められる。

2 第二引用例の方法における水和アルミナの使用について第二引用例に審決認定の技術事項が記載されており、第二引用例の方法は、触媒の基体に金属酸化物と白金族金属を担持させる場合に、水性分散状態にある水和アルミナに白金族金属を分散させた組成物を基体と接触させて水和アルミナと白金族金属を同時に基体に付着させるという方法も利用できることを示唆していることは、原告の認めて争わないところである。

右事実及び成立に争いのない甲第四号証(第二引用例)によると、第二引用例の示唆する右の方法は、基体に触媒原料の水和アルミナと白金族金属を同時に付着させた後、加熱、脱水して、水和アルミナを活性化するとともに、その活性化したアルミナと白金族金属よりなる被膜を基体上に形成させるものであり、第一引用例の方法と比較すると、基体上に二つの触媒原料を同時に付着させ、かつその活性被膜を形成させる点で、これを順次段階的に行う第一引用例の方法と異なること及び使用される水和アルミナは、基体に付着させた後、これを加熱、脱水して活性化(ガンマアルミナ化)するものであり、加熱による化学変化(脱水または分解)で活性アルミナを含む被膜を形成するという点からいえば、触媒原料としては第一引用例の方法における前記硝酸アルミニウムに対応するものであることが認められる。

3 審決の判断について

審決は、前記のとおり、同種触媒の製造方法として、第一引用例の活性アルミナを使用する方法と第二引用例の示唆する水和アルミナと白金族金属を同時に使う方法があることを根拠として、右水和アルミナに代えて活性アルミナを採用することは当業者が容易に推考しうるものとしている。

水和アルミナが加熱、脱水することにより活性化するものであることは、前掲甲第三号証(二頁右欄四一行~四二行)に記載されているとおり一般に知られるところであり、また、同号証によれば、第二引用例の示唆する方法においても、当初基体に水和アルミナを付着させるものの、最終的にガスの酸化触媒としての作用効果を発揮するのは右のようにして活性化されたアルミナであることが明らかである。

ところで、本願発明、第一引用例の方法及び第二引用例の示唆する方法は、本願発明の要旨及び前掲甲第三、第四号証の各記載からも明らかなように、いずれも、単に触媒の原料や粒子を製造するに止まるものとは異なり、触媒を基体、すなわち、多くの貫通した妨害のない孔を有する単一体であることを特徴とする不活性耐火物基体の表面上に付着させ、その被膜を形成させるものであるから、各方法は、いずれも、右のように複雑で広い表面積を有する形状の基体の表面上に各触媒物質を如何にして均一にかつ有効な形で接着させてその被膜を形成させるかという重要な技術課題を有しているものと認めるのが技術常識に適うところであり、第一引用例の方法および第二引用例の示唆する方法において、いずれも、まず、基体に原料物質を溶液状態ないし水性分散状態で接触させることによりその付着を図つたうえ、この原料物質の活性化のための加熱、脱水工程をわざわざ設けていることも、右の技術課題解決の手段として採用されたものとみるのが相当である。

したがつて、第二引用例の示唆する方法における水和アルミナの使用についても、右の観点からその使用態様に着目してみなければならないものであり、この水和アルミナに代えて化学的性質の明らかに異なる活性アルミナ粉末を使用することは、それ相当の技術的根拠のない限り想到しうるところではないというべきであり、前記のような水和アルミナと活性アルミナとの関係や活性アルミナの触媒としての有効性に関する一般的知識によつて右の着想が生れるものと考えることはできないといわなければならない。

審決は、右の着想が容易であることの根拠として、第一引用例の方法において活性アルミナ粉末が用いられている点を指摘し、被告もこれに沿つた主張をしている。

しかしながら、前記のとおり、第一引用例の方法と第二引用例の示唆する方法とは、基体上に活性アルミナ等の酸化金属及び白金族金属を付着させる工程がそれぞれ、二段工程(第一引用例)と同時工程(第二引用例)である点において明らかに異なるものであり、第一引用例の方法における活性アルミナ粉末の使用と第二引用例が示唆する方法における水和アルミナの使用とは、わずかに、右両物質の間に前記の化学的性質及び触媒原料としての類縁性を認めうることを除くと、第一引用例と第二引用例の各方法の右の工程の相違に伴なつて使用段階を異にすることが明らかなものであるうえ、その使用態様についても、前記のように、第一引用例の方法における活性アルミナ粉末は、同種金属塩溶液である硝酸アルミニウム溶液と共に使用され、また、それ自体は、その後に特にこれを活性化する工程を必要としないものであるのに対し、第二引用例の示唆する方法における水性アルミナは、右のような同種金属塩溶液と共に使用されるものではなく、また、その後にそれ自体を活性化するための加熱、脱水工程を経るものである点で明らかに相違するものである。そして、右のように第一引用例の方法における活性アルミナ粉末の使用と第二引用例が示唆する方法における水和アルミナの使用との間に技術的な相違点が存することに鑑みると、前者の方法における活性アルミナ粉末の使用事実は、後者の方法における水和アルミナの使用に代えて活性アルミナ粉末を使用することを着想する合理的契機とはなりえないものといわざるをえず、他にこの判断を左右すべき資料はない。したがつて、これと異なる前記の審決の判断及びこれに沿う被告の主張は、いずれも技術的根拠を欠く理由のないものというべきである。

三 以上によると、審決は、本願発明と第一引用例の方法との相違点についての判断を誤つており、そのことは、本願発明は第一引用例及び第二引用例に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとする審決の結論に影響を及ぼすものであることが明らかである。したがつて、審決は、その余を論ずるまでもなく違法として取消を免れないものといわなければならない。

よつて、審決を違法としてその取消を求める原告の請求は理由があるからこれを認容することとする。

〔編註〕 本願発明の要旨は左のとおりである。

耐火性金属酸化物(以下「金属酸化物」という。)および白金族金属を担持した化学的に不活性な耐火物基体(以下「基体」という。)から成る触媒の製造法において、右金属酸化物をか(煆)焼した触媒的に活性な形で水中に分散させ、このような酸化物が水性分散状態にある間に、白金族金属を右金属酸化物に十分に分散させ、このように分散した組成物を基体と接触させ、このようにして被覆した基体をか焼して十分に分散した触媒的効果を示す量の白金族金属を含む活性金属酸化物の皮膜を有する基体を与え、しかも右基体が多くの貫通した妨害のない孔を有する単一体であることを特徴とする触媒の製造方法。

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