東京高等裁判所 昭和54年(行ケ)158号 判決
一 請求の原因1ないし3の事実については、当事者間に争いがない。
二 そこで、審決を取消すべき事由の存否について判断する。
(一) 原告はまず、引用例(成立について争いのない甲第七号証)記載の発明は実施不能のものであるから、そのようなものと本願発明とを比較してした審決の判断は誤つている旨主張し、引用例記載の発明が実施不能である理由として、<1>引用例において、ゲート孔4を開口させるに足るだけの熱を針9に与えるには、針を五〇〇度以上に保つておかなければならず、五〇〇度という高熱を保持した針を射出湯道部2に挿通すれば、その部分の原料樹脂はすべて熱分解し、かつ有毒ガスを発生する、<2>引用例において針9を含むヒーター11が成形機の異なるステーシヨンに対してどの位置に設置されるのか分らないということを挙げる。
しかしながら、引用例において、被告主張のとおり、針9を射出湯道部2に向け前進させる速度を大きくすることにより、原料樹脂が熱分解することを防ぎつつゲート孔4を開口させることができるものと認められ、また、引用例の記載自体からは針9を含むヒーター11が成形機の異なるステーシヨンに対してどの位置に設置されるのか分らないとしても、引用例の発明に係る成形機において、それを実施可能な位置に設置することができないとは認められないから、原告の実施不能の主張は理由がない。
(二) 次に、本願発明と引用例の発明との一致点及び相違点に関する審決の判断について検討する。
成立について争いのない甲第七号証によれば、引用例の発明は、射出成形操作完了後、射出湯道部2の後端部で射出湯道部2の中心線と一直線上になるように配設され、常にヒーター11によつて加熱されている針9を、射出湯道部2内に前進させ、射出湯道部2内の固化しつつある原料樹脂7を再び溶融させるとともに、射出湯道部内に進入した針の体積に相当する量の樹脂を外部に押出し、次に針を射出湯道部から引抜いて射出湯道部に、ゲート孔4を含むゲート部3を通じて、キヤビテイー5に至り得る小通路を形成し、この小通路から原料樹脂を射出して次の成形品を得るものであると認められる。
これに対して、成立について争いのない甲第一号証によれば、本願発明においては、引用例発明の射出湯道部2に相当するものと認められるランナー部3内の原料樹脂は、該ランナーの金型4に設けられた保温用の加熱装置によつて、冷却固化することなく、常に溶融状態を保つており、射出成形操作完了後冷却固化しているのは成形品及びゲート部(ゲートランド7´を含む)における樹脂のみであり、この固化したゲート部の樹脂は、次の射出成形操作の段階において、ゲート部の近傍に配設された発熱部8´によつて加熱溶融され、この加熱溶融によつて次段階の射出成形操作が可能にされるものであると認められる。
ところで、審決(成立について争いのない甲第六号証)は、本願発明と引用例の発明とは、「成形型に通じるゲート孔(ゲートランド部)内に加熱体を位置させ、射出成形の都度所望の設定時期に加熱体によりゲート部内の樹脂を加熱溶融し、ゲートを間歇的に開くようにした射出成形機におけるゲート部の間歇加熱方法である点」で一致しているとし、本願発明と引用例の発明と相違する点は、本願発明が「成形型に通じるゲートランド内に配された発熱体を有する間歇加熱体をタイマー機構の働きをもつて射出成形の都度所望の設定時間宛働かせるのに対し、」引用例の発明が「成形型に通じるゲート孔内に加熱された針を射出成形の都度所望の設定時間に位置させるようにした点」であるとする。
しかしながら、前に認定したように、本願発明は、審決のいうとおり、「射出成形の都度所望の設定時期に加熱体によりゲート部内の樹脂を加熱溶融し、ゲートを間歇的に開くように」するものではあるけれども、引用例の装置においては、「射出成形の都度所望の設定時期に加熱体によりゲート部内の樹脂が加熱溶融」されはするが、ゲートが開くのは、ゲート部内の樹脂の加熱溶融のみによるのではなく、その上、樹脂の加熱溶融後針9を射出湯道部2から後退させて該部に射出された原料樹脂が通り得る小通路13を形成することによつてであり、ゲート部に樹脂が残存していては小通路が形成されず、ゲートが開かない(なぜならば、針9の進入によつて射出湯道部の樹脂が溶融され、相当量の樹脂が外部に押出されても、針9を引いた場合ゲート孔4を含むゲート部3に溶融樹脂が残存していれば、右部分の樹脂は針9を引くと殆んど同時に、型1a並びに水路8の水の冷却作用により冷却され、固化してしまつて、ゲート部を通じてゲート孔4に至る小通路13が形成されないものと認められるからである。しかして、この小通路を形設することを引用例は、その特許請求の範囲の項で、「樹脂を再び溶融してキヤビテイーに『連通する』小通路を形設する」と表現している。)ものであり、本願発明と引用例の発明の技術には右のような相違があるにかかわらず、審決は右の点の相違に言及することなく、両者の一致点、相違点を認定し、本願発明は引用例の記載に基づいて当業者が容易に発明することができたものとしたのであつて、審決には結論に影響を及ぼすべき重大な判断の遺脱があり、違法であるといわなければならない。
三 よつて、他の争点についての判断を省略し、審決を違法としてその取消を求める原告の本訴請求を認容する。
〔編註その一〕 本願発明に関する事項は左のとおりである。
1 特許庁における手続の経緯
原告は、昭和四六年二月一七日、名称を「合成樹脂射出成形機におけるゲート部間歇加熱方法」とする発明(以下「本願発明」という。)につき特許出願(昭和四六年特許願第六九〇一号)したが、昭和五一年一月二一日拒絶査定を受けたので、同年三月二六日審判を請求し、昭和五一年審判第二八四六号事件として審理された結果、昭和五四年八月一七日、「本件審判の請求は成り立たない。」との審決がされ、その謄本は同月二九日、原告に送達された。
2 本願発明の要旨
成形型に通じるゲートランド内に配された発熱体を有する間歇加熱体を、タイマー機構の働きをもつて射出成形の都度所望の設定時間宛働かせ、ゲート部で冷却固化した樹脂を加熱溶融してゲートを間歇的に開くことができるようにした合成樹脂射出成形機におけるゲート部間歇加熱方法。
(本判決註 別紙図面(一)参照)
〔編註その二〕 本件に関する図面は左のとおりである。
別紙図面(一)
<省略>
別紙図面(二)
<省略>