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東京高等裁判所 昭和54年(行ケ)172号 判決

原告の主張する審決取消事由の存否について検討する。

1 その1の主張について

原告は、本願考案については、被告のいう「基準」それ自体を必要としない、と主張する。

成立に争いのない甲第六号証(昭和五四年六月二七日付手続補正書)によれば、本願考案のシヤワー付き風呂釜は、全体として外形が長方形状のケースに納まり、その長手方向の一端側がシヤワー用熱交換器、他方端側が風呂釜熱交換器から成り、両者が隣接して配置されていること、本願考案の明細書では、右構成の風呂釜において、シヤワー用熱交換器を配置した側の部分を「前部」とし、風呂釜熱交換器を配置した側の部分を「後部」としていることが認められる。

ところで、右甲第六号証には、「従来、風呂釜用熱交換器とシヤワー用熱交換器を左右横方向に並べて設置してあるのが存在しているが、公知のものは、左右横方向に厚くなつているために、設置場所を広くとる。……この考案は、前記した従来の欠点を除去するもので、……それぞれ左右の横幅を狭くするため、前部側にシヤワー用熱交換器、後部に風呂釜用熱交換器を並べて左右横幅を薄型とした点に特徴をもたせたものである。」(第二頁第一四行~第三頁第八行)との記載があることが認められるから、前記のような各熱交換器の配置によつて形成される本願考案のシヤワー付き風呂釜の作用効果は、「広い設置場所を要しない」ことにあると解される。

しかしながら、本願考案のシヤワー付き風呂釜は、その明細書を子細にみても、

<1> 左右側の横幅を狭く形成することにより、何故に設置場所を広くとらないことになるのか、

<2> 左右側の横幅を狭くするために、何故にシヤワー用熱交換器が前部で、風呂釜熱交換器が後部に配置されなければならないのか、

<3> シヤワー付き風呂釜の「前部」、「後部」とは風呂釜のどこを指していうのか、

が不明瞭である。

そして、以上の不明瞭な点を明瞭にするためには、その前提として、本願考案の風呂釜とその外部関連構造(例えば、バーナーの挿入口とか吸排気管又はガスコツク等の取付位置、浴槽との連通水管あるいは風呂釜の浴室内外の設置位置と各熱交換器の配置)との関係等が明らかにされなければならない。

審決が「基準が示されていない。」としているのは、このことを指しているものと解せられるのであつて、「基準」それ自体を要しないという原告の主張は理由がない。

2 その2の主張について

原告は、仮に「基準」が必要であるとしても、本願考案にその基準がないとはいえない、と主張する。

(イ) 原告は、「左右の横幅」「左右側の横幅」等というときは、ある目的物に面したときの表現方法であり、これら表現方法に対して「前部、後部」と表現し、また、奥行方向に長い形態をとらえて「縦方向」あるいは「長手方向」と表現しているから「基準」がないとはいえない、というけれども、このような表現は、目的物に面する位置が変れば―例えば、九〇度移動した場合には、左右横方向が前後縦方向と表現されるように―表現が変るものであるから、その目的物に面する位置の特定がない限り、「基準」があるとはいえないのであつて、その主張は採用できない。

(ロ) 次に、原告は、本願考案はシヤワー付き風呂釜であるから、かかる風呂釜が浴室内に「風呂」(浴槽)と共に配置されることは容易に認められ、かつ、技術的にも当然であるとして、本願考案の明細書に「前部」とあるのは風呂設備の洗い場に面した側を指し、したがつて、「基準」がないとはいえない、というけれども、前掲甲第六号証によれば、本願考案のシヤワー付き風呂釜は、循環式風呂釜を含むものと認められるところ(第二頁第七行)、循環式風呂釜は「風呂」(浴槽)とは別体になつたものであり、成立に争いのない乙第一号証によれば、この種風呂釜は、本来的に前部、後部等の方向性を備えているものばかりとはいえず、パイプで連結さえすれば「風呂」(浴槽)の位置、方向に拘制されることなく、任意の場所に任意の方向で設置することができるものであることが認められるから、浴室内の洗い場に面する側のみから本願考案の風呂釜の「前部」「後部」を決定しうるものとすることはできない。

(ハ) 更に、原告は、本願考案の明細書にいう「前部」とは焚き口(種火の点火部や点火操作用つまみのある個所)側をいうものである旨主張するけれども、本願考案の明細書中にそのように解する依拠としうべき記載はない。なお、本願考案はガス風呂用の釜であることが前掲甲第六号証によつて認められるから、「焚き口」とはガスバーナーの挿入口を指すものと解するとしても、成立に争いのない乙第二号証、第三号証によれば、循環式ガス風呂釜には、バーナー挿入口の位置を適宜に変更することのできるものもあつて、「焚き口」が必ずしも釜の前部を意味しないことが認められるから、「焚き口」側を根拠に本願考案の「前部」「後部」を決定することはできない。

以上の次第で、審決の取消を求める原告の主張はすべて理由がないので、本訴請求は失当として棄却する。

〔編註〕 本願考案の実用新案登録請求の範囲および審決理由の要点は左のとおりである。

本願考案の実用新案登録請求の範囲

左右側の横幅を狭くするためシヤワー用熱交換器を前部に、風呂釜熱交換器を後部にいずれも長手方向にして並べて配置し、その各下部には風呂用バーナーとシヤワー用バーナーを配置すると共に風呂用バーナーの側部にシヤワー用バーナーに連結できる種火バーナーを配し、種火バーナーに近接した熱電対で励磁される電磁石と、この電磁石で開放状態を保つ主開閉弁及びその上部に切替元栓を設けたガス安全装置を設け、このガス安全装置は前記風呂用バーナーとの間に開閉弁を介在したガス管で連結させ、更に他方のシヤワー用バーナーは前記シヤワー用熱交換器に連結する水道管の間に介在した給水水圧で作動する水圧自動開閉弁を介して前記ガス安全装置と開閉弁の間の分岐管に導管を介して連結し、更に種火バーナーはガス安全装置内の切替元栓と連結するようにしたシヤワー付き風呂釜。

審決の理由の要点

本願考案は、

1 実用新案登録請求の範囲の記載では、どちらからみて前後方向なのか、どちらからみて横幅なのか、不明瞭である。

2 明細書本文(考案の詳細な説明の項)の記載では、風呂釜とシヤワー用熱交換器を、どちらからみて縦方向に並べたのか、不明瞭である。

ところで、風呂や風呂釜には種々な型式のものがあり、風呂釜における位置関係を単に前後、縦横、左右と表現しても、どちらからみてなのか、これら位置関係を表現している基準が前提にない限り、これら表現は、構成の表現として不明瞭である。

よつて、本願考案の明細書は実用新案法第五条第三項及び第四項に規定する要件を満たしていないものである。

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