大判例

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東京高等裁判所 昭和54年(行ケ)186号 判決

一 請求の原因一ないし三の事実は、当事者間に争いがない。

二 そこで、審決にこれを取消すべき違法の事由があるかどうかについて判断する。

1 原告は、審決は引用例には、「熱可塑性有機重合体物質の水性分散液による未硬化合成物質からなる粘液の層」が記載されているとしているが、「熱可塑性有機重合体物質」は「未硬化合成物質」とはいえず、引用例の水性分散液は完全に重合された硬化合成物質(重合体)が水中に分散したものであり、さらに使用される水性分散液が粘液であるとの記載は引用例に見当らないし、かつ自明の事項でもないから、審決における引用例の技術内容の認定は誤つている旨主張する。

成立について争いのない甲第四号証によれば、引用例におけるコーテイング材は熱可塑性有機重合体物質の水性分散液であるところ、このものは本願第一発明でいう重合あるいは交鎖結合によつて硬化する以前の状態にある「未硬化合成物質」ではないから、審決が引用例における熱可塑性有機重合体物質の水性分散液を「未硬化合成物質」としたのは表現において正確を欠くものといわなければならない。

しかしながら、審決はそれに続く本願第一発明と引用例との相違点について、主体の表面の被覆に供せられるものが、本願第一発明においては、重合あるいは交鎖結合によつて硬化しうる未硬化合成物質からなる強粘液のものであるのに対し、引用例のものは熱可塑性有機重合体状物質の安定な水性分散液からなる粘性のものとした点にあると正当に判断しているのであつて、前記審決の不正確な表現は右の判断になんらの影響も及ぼしていない。

また、有機重合体物質の水性エマルジヨンの一種である水性塗料や木工用ボンドが粘性を有することが広く知られているように、熱可塑性有機重合体物質の水性分散液が粘性を有することは周知であるから、審決が引用例の熱可塑性有機重合体の水性分散液を「粘液」と認定したことに誤りはない。

次に、原告は、引用例の被覆層は熱可塑性有機重合体からなるものであり、加熱等により「硬化」してフイルムを形成するものではなく、これは「乾燥」又は「水の除去」による被膜の形成とすべきであつて、審決がこれを「硬化」としたのは誤つている旨主張する。

たしかに引用例のものは、シート状材料の表面に供給された熱可塑性有機重合体物質の水性分散液の被覆層を「乾燥処理」して水を除去するものであるが(前掲甲第四号証)、塗料及び塗装に関する技術分野においては、塗布した塗料が固化して皮膜を形成する過程を指して俗に「硬化」と称しているから(本願明細書中にも同趣旨の説明がある――成立について争いのない甲第二号証の二第二頁第一五行)、審決が引用例のものについて「硬化」といつても、必ずしも誤つているとはいえない。

2 原告は、審決は本願第一発明と引用例との相違点を看過していると主張し、(一)本願第一発明では基材について限定がないのに対し、引用例の基材は紙、厚紙又は同様のシート状材料のウエブである点、(二)本願第一発明では被覆層を重合もしくは交鎖結合させることによつて硬化しているのに対し、引用例では単に溶剤である水を乾燥蒸発により除去して塗膜を形成する点を挙げる。

なるほど、基材について、本願第一発明が「ある主体」としていて限定がないのに対し、引用例が紙、厚紙、又は同様のシート状材料のウエブとしている(前掲甲第四号証)ことは、原告主張のとおりであるが、本願第一発明の基材である「ある主体」に引用例の紙、厚紙又は同様のシート状材料のウエブが含まれることは明らかであるから、右(一)の点を本願第一発明と引用例との相違点であるということはできない。

また、基材の表面を被覆する物質が異なれば、その被膜形成過程に差異のあることは当然であつて、両者の相違点として被覆する物質のほかに被膜形成過程を挙げる必要はない。

3 原告は、審決が、重合あるいは交鎖結合によつて硬化しうる未硬化合成物質からなる強粘液を被覆のために使用することは本願出願前普通に知られていることであり、このような物質を用いたことによる効果も格別顕著であると認められないとした点を非難するが、成立について争いのない乙第一号証、第三号証によれば、重合あるいは交鎖結合によつて硬化しうる未硬化物質の無溶剤液を塗材として用いることは、本願出願前周知であつたということができ、塗料に溶剤型塗料と無溶剤型塗料とがあることも広く知られ、それぞれが目的及び条件に応じて適宜選択使用されていたことが認められるから、被覆層形成のため、引用例の溶剤型塗料の代りに本願第一発明のように無溶剤型塗料を選択採用することは、当業者にとつて容易というべきである。しかして、被覆層形成のため、無溶剤型塗料を選択採用すれば、作用及び効果として無溶剤型塗料それ自体の特性が表われるのは当然であつて、それをもつて格別顕著な作用効果とすることはできないし、本願明細書を検討しても、格別顕著といえる効果の記載は見当らない。審決の認定に誤りはない。

原告はまた、審決が、仮頂面物質の接触表面に対する鏡像仕上げの点について、引用例においてもその効果は得られている旨認定した点を非難するが、本願第一発明における「鏡像仕上げ」(「仮頂面物質の表面に対する鏡像の如く仕上げる」こと)については、特別の限定はないから、仮頂面物質による光沢のある表面仕上げもこれに含まれると解すべきであるところ、前掲甲第四号証によれば、引用例のものは基体に高光沢仕上げを施すことを目的とし、仮頂面物質によりそのような効果を奏するものであることが認められるから、この点についての審決の認定に誤りはない。

三 以上のとおりであり、審決にはこれを取消すべき違法の点はなく、審決の取消を求める原告の本訴請求は失当であるからこれを棄却することとする。

〔編註その一〕 本願発明の要旨は左のとおりである。

1 ある主体の表面の全部又は選択された部分に重合あるいは交鎖結合によつて硬化しうる未硬化合成物質からなる強粘液の層を被覆し、前記被覆層の表面をそれが硬化しても接着しない物質の表面に一時的に近接・接触させ、前記被覆層を重合もしくは交鎖結合させることにより硬化し、前記仮頂面層物質を剥離することにより前記被覆層を前記主体の表面上において所定の厚さとし、かつその表面をそれが接触していた前記仮頂面物質の表面に対する鏡像の如く仕上げることを特徴とする表面被覆を有する新規物質を形成する方法。

2 前記1に記載した方法において、前記被覆層の表面と仮頂上層材料との間にモールド離型材料を配置したことを特徴とする所望の及び特定の機械的、化学的、電気及び又は光学的特質を持つ表面被覆を有する新規物質を形成する方法。(別紙図面(一)参照)

〔編註その二〕 本件に関する図面は左のとおりである。

別紙図面(一)

<省略>

別紙図面(二)

<省略>

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