東京高等裁判所 昭和54年(行ケ)188号 判決
審決に、これを取消すべき違法の点があるかどうかについて考える。
成立について争いのない甲第二号証の一、二、第三号証の一四、一五及び同号証の一七を綜合すると、本件実用新案登録出願について出願公告をすべき旨の決定が原告に送達された当時の本件考案の明細書の実用新案登録請求の範囲の記載は、事実摘示第二、二、1のとおりであり、その後同第二、二、2のとおり補正されたものであることが認められる。
ところで、審決は、右補正後の実用新案登録請求の範囲は「側壁を二重に作り、その側壁間に手動把手と共軸一体に設けられた手動把手の回転半径よりも小さい半径の伝動輪を設置させた」点で補正前の実用新案登録請求の範囲よりも減縮されているが、この減縮した補正は、減速駆動機構を用い手動で車輪付きの書架を軌条に沿つて移動し得るようにしたことのみを目的とした出願当初の具体的な目的と異なる新たな構成要件を付加するものであるから、実用新案登録請求の範囲を実質上変更したものである旨判断している。
本件補正後の実用新案登録請求の範囲が、少なくとも前記審決の挙げた点で、補正前のそれを減縮するものであることは審決のいうとおりである。しかしながら、前掲甲第二号証の一によれば、補正前の本件考案の明細書の考案の詳細な説明の項には既に「伝動鎖による駆動機構部は二重に作られた書架の側壁内に格納するような方法によつて体裁を良くすると共に、書架の棚板7の懸架を邪魔にならぬようにすることが望ましい。」(甲第二号証の一、第二欄第一五行ないし第一九行)、「上記伝動系を書架の薄い二重側壁内に組入れることができて便利である。」(同欄第二四行ないし第二六行)との記載があることが認められるところ、この記載に基づいて実用新案登録請求の範囲を前記のように減縮することは、なんら実用新案登録請求の範囲を実質上変更するものではない。
被告らは、本件考案の出願公告決定送達時の明細書の「考案の詳細な説明」及び図面には「書架の側壁が二重に作られている」構成及び「二重に作られた側壁間に手動把手と共軸一体の伝動輪を配設する」構成について、当業者がそれを容易に実施できる程度に開示がなされていないのにかかわらず、これを「実用新案登録請求の範囲」に新たに付加することは、実用新案登録請求の範囲を実質上変更したことになる旨主張する。
しかしながら、補正前の明細書には前認定のような記載があり、この記載によれば、書架の側壁を二重にし、その側壁間に手動把手と共軸一体の伝動輪を配設することは、当業者が容易に実施することができるものと認められるから、被告の主張は理由がない。
被告らは、また、出願公告決定送達時の明細書において、右の事項が技術的に充分開示されていると認められるとしても、その構成を「実用新案登録請求の範囲」に付加する補正が許容されるのは、出願公告決定前のみであり、出願公告決定後は許されない旨主張する。しかしながら、前記補正は、実用新案登録請求の範囲を減縮するものであり、実用新案法第一三条、特許法第六四条により出願公告決定送達後においても許されること、前説明のとおりである。被告の主張は理由がない。
被告らは、更に、「並列的に設けたフランジ付車輪が車輪軸をもつて共軸一体に繋がれている」ことは、本件考案の出願公告決定送達時の明細書及び図面には全く見出すことができないのに、これを本件考案の構成に欠くことができない事項として実用新案登録請求の範囲に加え、また、フランジ付車輪を用いることによる特異の効果を明細書に加えることは、本件考案の実用新案登録請求の範囲を実質上変更するものである旨主張する。
しかしながら、実用新案登録請求の範囲において、軌条上を転動する「車輪」を「フランジ付」のものに限定することは、実用新案登録請求の範囲の減縮であるのみならず、そのように減縮することは当業者にとつて何らの考案力も要しないものであり、またそのように減縮したことによる効果も減縮したことにより生ずる通常のもの以上を出ないものと認められるから、車輪をフランジ付とすることが明細書又は図面に記載されていなくても、実用新案登録請求の範囲を右のように補正することは許される。被告の主張は理由がない。
右のとおりであつて、原告の昭和五一年八月二五日付け及び昭和五二年三月二日付けの補正は、補正前の実用新案登録請求の範囲を実質上変更するものであるから、その補正がされなかつた実用新案登録出願について登録がされたものとみなされることを前提とする審決の判断は、その余の点についての判断をするまでもなくその前提において誤つており、違法である。よつて、その取消を求める原告の請求を認容する。