大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京高等裁判所 昭和54年(行ケ)201号 判決

原告主張の審決取消事由の存否について判断する。

1(本願意匠の要旨の認定について)

(一) 審決は、本願意匠の刃身部について、「剣先状刃身部」とするが、これは、別紙図面(一)に示されたとおりの、先端に向つて先細状としたいわゆる「剣先」のような態様を指すものであることが、成立に争いのない甲第一号証(審決)により、明らかであるから、必ずしも文言により一々詳細に表現がされていないとしても、その意味する内容ないし趣旨において、原告の主張するところと何ら径庭はなく、審決の認定を誤りということはできない。

(二) 原告主張の1の(二)の(1)ないし(5)の各点を検討しても、以下に述べるとおり、審決が本願意匠の柄部及び突条輪の形状における特徴を看過したものということはできない。

(1) 原告は、本願意匠について、「ビスと輪状部端部とを結ぶ柄部の中心線は、ビスより端部に至るに従つて中央水平線に対する離反率が漸減しつつ伸び、ついには端部において中央水平線に収れんする方向を向く。」と主張するが、右は、補助線を用い説明を受けて、はじめて理解される程度のきわめて微弱なものであり、そのままでは、視覚的に認識しがたいものである。この点が本願意匠の特徴をなすということはできない。

(2) 本願意匠の柄部の形状がその中心線に対して非対称であるとの原告の主張は、結局、独立の半身体自体の形状にかかるものであるが、意匠にかかる物品「はさみ」についての本件意匠は、全体的なまとまりとして看者に訴えるものであるから、半身体自体の形状は二義的なものである。のみならず、本願意匠の柄部の形状がその中心線に対して非対称であることは、視覚的に直ちに認めうるほどのものではない。原告主張の右の点は、本願意匠の特徴とはいえない。

(3) 本願意匠の柄部中央幅狭部の形状について、審決は、「左端より中央付近に向つて漸次幅狭状に表わし、中央幅狭部を形成し、その部分より右端に向つて漸次幅広状に拡大して」としているが、これに誤りはない。原告は、中央幅狭部の幅が、枢着部の幅の八〇%以上あり、また突条輪のビス側に接する部分の幅の六〇%以上ある、とすべきであると主張するが、「八〇%以上」あるいは「六〇%以上」というのも、引用意匠との対比上、視覚的には特段の差異とは認められない。審決がこの点に関し本願意匠の特徴を看過したものともいうことはできない。

(4) 本願意匠の突出部の形状について、審決は、「輪状部の圧接部付近を、わずかに山形状に突出させて突出部を表わした」としているが、これに誤りはない。審決は、本願意匠の特徴として、別紙図面(一)に示されるような右突出部の存在をあげているのであるから、特に、突出部の形状に関し、原告の主張する「相当幅の平坦頂面を有する山形状」とまで表現することが不可欠であるとはいえない。審決がこの点に関し本願意匠の特徴を看過したものということはできない。

(5) 本願意匠の突条輪の形状について、審決は、「輪状部には、周辺に縁取状に余地を残して、わずかに横長な楕円形状透孔部を表わし、透孔部には、正背面に、わずかに突出した突条輪を縁取状に嵌着したように表わし」としているが、これに誤りはない。右の楕円形状について、審決は、「わずかに横長な楕円形状透孔部」としているのであつて、これで足り、原告の主張する「楕円形の長軸がほぼ水平に配されている」との点は、視覚的にはとらえにくく、特徴とはいいがたいものである。

(三) 原告主張の1の(三)の(1)及び(2)の各点を検討しても、以下に述べるとおり、審決が本願意匠の全体形状における特徴を看過したものということはできない。

(1) 原告の主張する上下柄部の各外側端と刃部先端とを結ぶ三角形内に占める占有面積は、視覚的にとらえにくいばかりでなく、本願意匠において、右面積が大であるということは、当然に他の意匠のそれとの対比が予定されているわけであるが、このような面積の大小は、引用意匠との関係において、これを子細に対比検討しても、差異があるか否かを、にわかに決しがたいほどのものであり、これを全体形状における特徴ということはできない。

(2) 本願意匠において、上下突出部が、はさみ全体の後端にきわめて近接した位置で当接し、かつ、相当の幅にわたつて線接触しているとの点は、部分的な点に関するものであつて、本願意匠の全体形状における特徴ということはできない。

2(本願意匠と引用意匠との対比判断について)

(一) 意匠は、その各構成部分を総合した全体的なまとまりとして、視覚的に看者に印象づけるものであり、ある部分が看者の注意を特にひく部分かどうかについても、その部分が全体に対しどれだけ影響力を及ぼしているかを全体的に考究すべきものであることにかんがみると、意匠の類否判断にあたつて、公知ないし周知の構成部分をたやすく除外して類否の判断をするのは、相当ではない。原告の2の(一)の主張は、結局において、類否の判断にあたり、意匠を各構成部分に分解したうえ、公知ないし周知のものの除外を求めるに帰するものであつて、採用することができない。

審決が、両意匠は基本的形態について共通しており、かつ、この点は全体的まとまりとしての意匠的特徴を最もよく表わしている、としたことに誤りはない。

(二) 柄部中央の幅狭部について、原告は、引用意匠においては前記幅狭部が明確に表われているのに対し、本願意匠においては前記幅狭部は明瞭に表われていないと主張するが、本願意匠においても、柄部中央に幅狭部が形成されていることは明瞭であり、本願意匠と引用意匠とで、前記幅狭部の広狭について若干の差異があるものの、その広狭によつて、柄部の形態の基調ないしは全体の基調が変るものとは認められない。この点に関する審決の判断に誤りはない。

(三) 本願意匠の突出部が幅をもつ平坦頂面を有する山形状を呈していることは、認められるが、このため、輪状部全体の形状を楕円形状とは把握できない程度にまで変形せしめているとまでいうことはできない。本願意匠における右突出部の態様についての差異も、輪状部の一部における微差にすぎないものであり、透孔部及び突条輪にみられる両意匠の共通点の態様の方が顕著であつて、その態様自体に変化を与えるものではないため、輪状部全体に別異感を与えるほどのものとは認められない。この点に関する審決の判断に誤りはない。

(四) 原告は、本願意匠について、柄部の幅やそのストツパー部における形状、角丸三角形状のはさみ全体の形状等から、安定感、重厚感を有し、剛直感の中にもマイルド感があるとし、引用意匠がもつスマート感、シヤープ感、流麗感とは異なる旨主張するが、以上に説示したところにかんがみ、両意匠を全体的に対比するに、両者は、審決のいう基本形態ないし主要部を共通にしており、柄部の中央幅狭部の広狭、輪状部の突出部の形状その他の差異は、すべて支配的な差異とはみられず、部分的な差異にとどまり、意匠全体として受ける感じも、両者を別異の意匠とするほど顕著なものがあるとは認められない。結局、両意匠は、類似の意匠とするのが相当であり、審決の判断に誤りはない。

よつて、本件審決の違法を理由にその取消を求める原告の本訴請求を失当として棄却することとする。

〔編註その一〕 本件における請求原因は左のとおりである。

一 特許庁における手続の経緯

原告は、昭和五一年五月六日、別紙図面(一)のとおりの意匠(以下、「本願意匠」という。)につき、意匠に係る物品を「はさみ」として、意匠登録出願をしたところ、昭和五四年一月一七日拒絶査定を受けたので、昭和五四年三月二九日審判を請求し、特許庁昭和五四年審判第三四七四号事件として審理され、昭和五四年一〇月四日右審判の請求は成り立たない旨の審決があり、その審決の謄本は同年一〇月三一日原告に送達された。

二 本件審決の理由の要点

本願意匠の構成、意匠に係る物品、意匠登録出願日は、前項記載のとおりである。

本願意匠の要旨は、「剣先状刃身部(ビスより左方の部分)に連続して一体に柄部(ビスより右方の部分)を設けて半身体とし、刃身部の長さを、柄部の長さより、やや短くし、全体を厚板状に表わし、刃身部を、上側辺にそつて、斜状に表わして刃部とし、柄部全体を大きく上方に湾曲させ、左端より中央付近に向つて漸次幅狭状に表わし、中央幅狭部を形成し、その部分より右端に向つて漸次幅広状に拡大して、右端に輪状部を形成し、輪状部には、周辺に縁取状に余地を残して、わずかに横長な楕円形状透孔部を表わし、透孔部には、正背面に、わずかに突出した突条輪を縁取状に嵌着したように表わし、このような半身体と同一形をなす半身体を、刃身部のみを重合合致させて、刃身部右端において、ビスで軸着し、輪状部を圧接させた状態において、柄部間に、両凸レンズ(断面形)形状の間隙部を形成してなる基本形態において、輪状部の圧接部付近を、わずかに山形状に突出させて突出部を表わした態様のもの」である。

これに対し、本願意匠の先願である意匠に係る物品を「洋ばさみ」とする昭和四八年意匠登録願第三二六四〇号意匠(昭和四八年八月二一日意匠登録出願。以下、「引用意匠」という。別紙図面(二)参照。)の要旨は、「剣先状刃身部(ビスより左方の部分)に連続して一体に柄部(ビスより右方の部分)を設けて半身体とし、刃身部の長さを、柄部の長さより、やや短くし、全体を厚板状に表わし、刃身部を、上側辺にそつて、斜状に表わして刃部とし、柄部全体を大きく上方に湾曲させ、左端より中央付近に向つて漸次幅狭状に表わし、中央幅狭部を形成し、その部分より右端に向つて漸次幅広状に拡大して、右端に輪状部を形成し、輪状部には、周辺に縁取状に余地を残して、わずかに横長な楕円形状透孔部を表わし、透孔部には、正背面に、わずかに突出した突条輪を縁取状に嵌着したように表わし、このような半身体と同一形をなす半身体を、刃身部のみを重合合致させて、刃身部右端においてビスで軸着し、輪状部を圧接させた状態において、柄部間に、両凸レンズ(断面形)形状の間隙部を形成してなる基本形態において、柄部の幅狭部を、柄部の全体的基調を変えることなく、かなり、狭く表わした態様のもの」である。

両意匠を対比すると、両者は基本形態について共通しており、かつ、この点は、全体的まとまりとしての意匠的特徴を最もよく表わしている点というべきであるから、類否判断を支配する主要部である。これに対して、両者は、柄部中央の幅狭部の広狭及び輪状部の突出部の有無について差異があるが、前者は、その広狭によつて柄部の形態の基調ないしは全体的基調を変えるものではなく、また、後者も、その差異点が輪状部の一部の態様にすぎず、透孔部及び突条輪にみられる共通点の態様が顕著であり、かつ、その態様自体に変化を与えるものではないため、輪状部全体に別異感を与えるまでには至らず、部分的な差異にとどまる。

したがつて、両意匠を全体として観察した場合においては、主要部において共通している以上、部分的な点について差異があるとしても、類似しているものというほかはない。本願意匠は、先願にかかる引用意匠に類似しているというべきであるから、意匠法第九条第一項の規定により登録を受けることができない。

〔編註その二〕 本件に関する意匠は左のとおりである。

別紙図面(一)

<省略>

別紙図面(二)

<省略>

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!