大判例

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東京高等裁判所 昭和54年(行ケ)215号 判決

原告の主張する審決取消事由の存否について検討する。

1 その1の主張について

原告は、審決が本願発明と引用例のものとの対比判断を誤つていると主張する。その主張の内容は、引用例における4―メルカプトピリジンと本願発明における4―メルカプトピリジン―1―オキサイドとは、構造が本質的に異なり、また、化学的性質も大巾に異なるというのである。

成立に争いのない甲第三号証(引用例)によれば、引用例には、チオエーテル化剤であるZ―SHについて、それが4―メルカプトピリジンを示す場合が例示されていることが認められる(第六欄第五七行、第一一欄第四四行)。そこで、この4―メルカプトピリジンと本願発明の4―メルカプトピリジン―1―オキサイドとを比較すると、前者はピリジン核の窒素原子に水素原子が結合しているのに対し、後者は酸素原子が結合している点に差異があるのみであるから、両者の化合物全体としての構造は近似しているということができる。

そして、前掲甲第三号証によれば、チオエーテル化剤であるZ―SHについて、α―ハロアセトアミド化合物との間のチオエーテル化反応に直接関与する部分は―SH基、すなわちメルカプト基の部分であつて、塩基性窒素を含むZ基の部分はそのままの形で生成物中に残存していることが認められるから、Z基の部分は反応に直接関与していないことが明らかである。

他方、本願発明における4-メルカプトピリジン―1―オキサイドについてみると、これがα―ハロアセトアミド化合物との反応に直接関与する部分としては、やはり、メルカプト基以外のものを考えることはできない。また、成立に争いのない乙第一号証の二によれば、塩基性窒素を含まないメルカプト化合物であるチオフエノールがハロゲン化アルキルとチオエーテル化反応を行なう旨の記載があることが認められるから(第九六頁第一一行~第一三行)、塩基性窒素が存在しなければメルカプト基は反応しないというものでもないことは明らかである。

そうすれば、α―ハロアセトアミド化合物との間のチオエーテル化反応に際し、化合物全体としての構造が引用例における右チオエーテル化剤と近似している本願発明の4―メルカプトピリジン―1―オキサイドが、引用例におけると同様に、チオエーテル化剤としてチオエーテル化反応をするであろうということは、当業者にとつて容易に予測できるところというべきである。

なお、原告は、引用例に示された4―メルカプトピリジンを用いる方法は副反応を併発する危険性の高い方法で、このことは甲第四号証の記載によつて裏付けられる旨主張しているが、既に説明したところで明らかなように、引用例の方法においても、4―メルカプトピリジンはチオエーテル化剤としてチオエーテル化反応を行つている事実はこれを否定することができないのであるから、この事実から、本願発明における4―メルカプトピリジン―1―オキサイドがチオエーテル化剤として使用できるであろうと予測することに何等不都合な点はないといわざるをえない。(甲第四号証の記載事実については3、の項に後述する。)

以上のとおりであるから、原告の1の主張は理由がない。

2 その2の主張について

原告は、本願発明における中間体N―オキサイドは、多くの反応性基を有すると共に、分子量も大きく、したがつて、従来のピリジン―N―オキサイドに適用された還元法が直ちに適用できるかどうかは予想できないことであると主張する。

しかしながら、引用例における目的化合物である7―〔α―(4―ピリジルチオ)―アセトアミド〕―セフアロスボラン酸(甲第三号証第一一欄第三一行~第四〇行)と本願発明における中間体N―オキサイドとの両者の化学構造を比較してみると、ピリジン核の窒素原子に、前者は水素原子が結合しているのに対し、後者は酸素原子が結合してN―オキサイドとなつている点が異なるのみで、他に異なる点はないのであるから、本願発明における中間体N―オキサイドは、これを還元してオキサイド基を除去すれば、目的とする7―〔α―(4―ピリジルチオ)―アセトアミド〕―セフアロスボラン酸を得ることができることは容易に理解しうるところである。

そして、ピリジン―N―オキサイド化合物を還元してピリジン化合物にするための還元手段が本願発明の特許出願前に公知であつたことは、本願発明の明細書(成立に争いのない甲第二号証の一)自体の記載(その第一一頁、第一二頁)に徴しても明らかなことである。他方、ピリジン―N―オキサイド化合物がN―オキサイド基のほかに反応性基を含有し、また、大きな分子量をもつものである場合には、右の還元手段が適用できないということを認めるに足る証拠はない。

そうすれば、本願発明における中間体N―オキサイドについて右の公知の還元手段を適用することは、当業者ならば容易に着想することができるというべきであるから、原告の2の主張は理由がない。

3 その3の主張について

原告は、甲第四号証の記載を根拠として、引用例の方法においては副反応が生起する筈であるが、これに比し、本願発明は副生物の抑制、収率の向上その他の面で顕著な作用効果を奏すると主張する。

しかしながら、一般に、二つの物質間の化学反応において、副反応が生起し、副生物が生成するか否かは、反応生成物を分析してみて始めて確認できることであつて、別の物質間の化学反応によつてこれを予測することは当を得ないものとするのが相当であるところ、成立に争いのない甲第四号証によれば、同号証に記載されているのは、メルカプト基をもたないアミノピリジンとα―ハロアセトアミド化合物との間の第四級化反応に関するもののみであることが認められるから、同号証の記載を根拠に引用例の方法においても副反応が生じている筈であるという原告の主張は採用できない。

また、前掲甲第三号証によれば、引用例の方法は一工程で目的物質を得るものであるのに対し、本願発明は二工程を要するものであるから、この点を考慮すれば、本願発明が引用例の方法に較べて著しく優れた作用効果を奏するものと断定するわけにはいかないといわざるをえない。

他に、本願発明が引用例の方法に比して顕著な作用効果を奏するものであるとの事実を認めるに足る証拠はない。

したがつて、原告の3の主張もまた理由がない。

よつて、本件審決の違法を理由にその取消を求める原告の本訴請求を失当として棄却することとする。

〔編註〕 本願発明の要旨は左のとおりである。

次式

<省略>

(但し、Aは水素又はアセトキシである。)を有するα―ハロアセトアミド化合物またはその塩を4―メルカプトピリジン―1―オキサイドと反応させて次式

<省略>

をもつ化合物またはその塩を製造し、次いで(Ⅱ)式を有する該化合物またはその塩をトリ低級アルキルホスフアイト類、三ハロゲン化リン類、鉄―酢酸、イオウ、トリフエニルホスフアイト、トリフエニルホスフイン、ハロゲン化ベンゼンスルフエニル類、一ハロゲン化イオウ類、硫化ジーn―プチル、低級アルキルメルカプタン類、チオ尿素、ヒドラゾベンゼンおよび鉛―修酸第一鉄からなる群からえらんだ穏和な還元剤で処理するかまたはパラジウム、ニツケル、ラネーニツケル、白金、ロジウムおよびルテニウムからなる群からえらんだ触媒の存在下で水素で処理することによつて還元することからなる、次式

<省略>

(ここに、Aは上記の通りである。)をもつ化合物または薬学上受容できるその無毒性塩の製造法。

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