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東京高等裁判所 昭和54年(行ケ)218号 判決 1981年10月20日

原告 広浜金属工業株式会社

被告 白井工業株式会社

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は、原告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

原告訴訟代理人は、「特許庁が昭和五四年一〇月二九日、同庁昭和五一年審判第九六三五号事件についてした審決を取消す。訴訟費用は、被告の負担とする。」との判決を求め、被告訴訟代理人は、主文同旨の判決を求めた。

第二原告の請求の原因及び主張

一  特許庁における手続の経緯

原告は、別紙意匠図面記載のとおりの意匠につき、罐の提げ手を意匠に係る物品とする登録第三二五一一八号意匠(昭和四二年二月一五日登録出願、昭和四五年一二月一一日登録。以下「本件意匠」という。)の意匠権者であるが、特許庁は、被告が昭和五一年九月六日にした本件意匠の登録無効の審判請求に基づき、同庁昭和五一年審判第九六三五号事件として審理した結果、昭和五四年一〇月二九日、本件意匠の登録を無効とする旨の審決をし、その審決謄本は昭和五四年一一月二一日原告に送達された。

二  審決理由の要点

本件意匠の要旨は、丸棒を折曲げて逆梯形状とし、角部を孤状とした枠体の上辺一ぱいに、回動自在に、分厚い長方形把手を長手方向に軸着した基本形態において、把手は、一面を、平担状とし、左右端附近に、両側からみると波形状を呈する、平行した二条の小凹部を、それぞれ表わし、長手方向にそつた前後辺端面に円弧状の丸味をもたせ、他面は、長手方向にそつて、適宜間隔を保持して、三条の表面からみると円弧状にみえる突条を表わし、中央の突条の断面形状を、サイン曲線状とした態様と、願書添付の図面及び願書の記載によつて認める。

なお、本件意匠の正面図は、把手が下辺に表わされており、明らかな誤記と認められるから、正面図の天地を逆にした状態を正しい表示とみて、以上認定した。

これに対して、昭和三六年九月一五日特許庁発行の意匠公報に掲載された意匠登録第一四五〇八七号類似第一号の意匠(以下「引用意匠」という。別紙図面参照。)は、意匠に係る物品を、(旧第一九類)罐の提手とし、その要旨は、丸棒を折曲げて逆梯形状とし、角部を弧状とした枠体の上辺一ぱいに、回動自在に、分厚い長方形把手を長手方向に軸着した基本形態において、把手は、一面を、平坦状とし、長手方向にそつた前後辺端面に円弧状の丸味をもたせ、他面は、長手方向にそつて、密接して、三条の表面からみると円弧状にみえる突条を表わした態様と認める。

そこで両意匠を対比するに、両者は、基本形態について共通し、把手についても、一面を平坦状とし、長手方向にそつた前後辺端面に円弧状の丸味をもたせ、他面は、長手方向にそつて、三条の表面からみると円弧状にみえる突条を表わした態様について共通しており、これらによつて、全体的なまとまりとしての意匠的特徴が形成されるものということができるから、この点は、両者の類否を支配する主要部と認める。これに対して、両者は、把手一面の両端附近の小凹部の有無及び他面の三条の突条の配列間隔に差異が認められるが、前者は、把手一面のしかも両端附近の小さな、限られた部分の変化にすぎないから、全体に与える影響は小さく、後者も、分厚い長方形把手の一面のみの態様であり、しかも、同様に構成された突条における配列間隔の問題にすぎないから、全体からみれば、部分的な差異にすぎない。

なお、被請求人(原告)は、本件意匠は、二枚の板をシンプルに巻設した点に創作性があり、引用意匠とは、この点において、おおいに異なる旨主張するが、被請求人の右主張は、主として構造に関する差異点にすぎないもので、全体的まとまりの異同をとう意匠の類否判断において、重大な影響をもつものと認めることができない。

以上のべたとおり、主要部において共通している両意匠は、部分的な点について差異があつても、これを、全体として観察した場合においては、類似しているものというほかない。

従つて、本件意匠は、意匠法第三条第一項第三号の規定に該当し、同法同条の規定に違反して登録されたものであるから、その登録は無効とすべきものとする。

三  審決を取消すべき事由

(一)  審決は、本件意匠と引用意匠のそれぞれの構成及び両者の類否判断において事実を看過誤認した結果、両者が類似の意匠である旨の誤つた結論に至つた違法があるから取消されるべきである。

(1) 本件意匠が「丸棒を折曲げて逆梯形状とし、角部を弧状とした枠体の上辺一ぱいに分厚い長方形把手を長手方向に軸着した基本形態」にあるとの審決の認定は争わないが、「把手」が「回動自在」であるとの点は争う。意匠の構成は、あくまでも意匠公報に示されたとおり解すべきであり、従つて本件意匠における把手は「回動自在」ではなく、「平坦状の面を上面に、円弧状にみえる三条の突条のある面を下面にして枠体に軸着している」とすべきである。この点についての審決の認定は誤つている。

また、「把手」の構成について、審決は「把手は一面を平坦状とし………、他面は、長手方向にそつて………と認定しているが、右の「一面を」は「上面を」の誤りであり、「他面は」は「下面は」の誤りである。

そして、審決は「他面(右に述べたように実は下面)は長手方向にそつて、適宜間隔を保持して三条の表面からみると円弧状にみえる突条を表わし、中央の突条の断面形状をサイン曲線状とした態様」と認定しているが、右の「サイン曲線状の中央の突条」は両脇の突条に比し巾及び高さとも大となつていることを看過している。

(2) 次に引用意匠の構成については、引用意匠が「丸棒を折曲げて逆梯形状とし、角部を弧状とした枠体の上辺一ぱいに分厚い長方形把手を長手方向に軸着した基本形態」にあるとの審決の認定は争わないが、「把手」が「回動自在」であるとの点は争う。引用意匠の構成としても、把手は「回動自在」ではなく、「円弧状にみえる三条の突条のある面を上面に、平坦状の面を下面にして枠体に軸着している」とすべきである。この点についての審決認定は誤つている。

また、「把手」の構成については、審決は「把手は一面を平坦状とし、他面は………三条の表面からみると円弧状にみえる突条を表わし………」と認定しているが、右の「一面を」は「下面を」の誤りであり、「他面は」は「上面は」の誤りである。

更に審決は、「他面(前述したように実は上面)は、長手方向にそつて、密接して、三条の表面からみると円弧状にみえる突状を表わした態様」と認定しているが、中央の突条は巾及び高さとも両側の突条のそれよりも小であることを看過している。

(3) 両意匠の対比に関する審決の認定については、基本形態において共通するとの点は争わない(ただし前述の「把手が回動自在」とする点を除く)が、把手に関して共通の態様を有しているとの点は判断が誤つている。すなわち、審決は本件意匠の「上面」と引用意匠の「下面」、本件意匠の「下面」と引用意匠の「上面」とを比較している。右の比較のしかたは誤つたもので両意匠は「上面」と「上面」、「下面」と「下面」とを比較すべきであり、このような比較をすれば両意匠の上面と下面の形状は(1)及び(2)で述べたとおり全く異つており、「態様が共通」であるとの判断はできないはずである。

(4) なお、本件意匠の正面図が審決認定のとおり上下逆に表示されていることは認める。従つて、右側面図及びA-A断面図も上下が逆であり、また、平面図とあるのは底面図と、底面図とあるのは平面図となるべきものである。

(二)  予備的主張

仮に、審決の「把手が回動自在である」旨の判断が正しく、本件意匠と引用意匠において共に把手の「上面」「下面」を特定して考える必要がないとしても、本件意匠と引用意匠とはその要部を異にしているから類似しているとはいえず、これを類似であるとした審決の判断は誤つている。

(1) 審決のいう「基本形態」(「丸棒を折曲げて逆梯形状とし、角部を弧状とした枠体の上辺一ぱいに、回動自在に、分厚い長方形把手を長手方向に軸着した」形態)は、甲第四号証の一ないし四に示すように罐の提げ手に係る他の登録意匠にも見られるところであり、極く普遍的な構成である。

従つて、本件意匠と引用意匠との類否を支配する主要部は審決のいう「基本形態」を除き「把手」のみの構成又は形状であるといわねばならない。

(2) そこで「把手」について本件意匠と引用意匠とを比較してみると、

(イ) 一面については、両意匠とも平坦状であるが、本件意匠にあつては左右端附近に、両端からみると波形状を呈する平行した二条の小凹部があるが、引用意匠にはこれがない(この点は審決も認めている。審決第二丁表第二ないし第四行)。

(ロ) 他面については、両意匠とも長手方向に沿つて間隔を保持して三条の突条を有する形状ではあるが、この三条の突条は両意匠間で全く異なる。すなわち、

(a) 三条の突条の断面形状は、本件意匠にあつては中央の突条がサイン曲線状でこの両側の二つの突条が円曲線状であるのに対し、引用意匠にあつては三つの突条全部が円曲線状である。

(b) 三条の突条相互の断面形状の大きさは、本件意匠にあつては中央の突条がその巾及び高さとも両側の突条より大で、特にその巾は両側の突条のそれの二倍近いが、引用意匠にあつては中央の突条は巾及び高さとも、両側の突条のそれより小である。

把手の一面が平坦であるということは、提げ手という物品の本質上極めてありふれた一般的な形状であり、この点は本件意匠と引用意匠との間の類否を支配する主要部とはいえない。従つて、両意匠の類否を支配する主要部は、他面の三条の突条の形状の差異と一面平坦部の両端附近の小凹部の有無であるということができる。そして、この主要部のうち、両意匠の「他面の三条の突条の形状の差異」については、前述したとおり極めて大きなものである。この点につき、審決は、両意匠とも「他面は長手方向にそつて三条の表面からみると円弧状にみえる突条を表わした態様である」(審決第二丁裏第一〇ないし第一二行)と簡単かつ大雑把にきめつけ、突条の大きさの問題を、誤つて「三条の突条の配列間隔」(審決第二丁裏第一四行、第三丁表第一行ないし第四行)の問題と片付けているが、この判断は皮相のものといわざるを得ない。

第三被告の答弁及び主張

一  原告の請求の原因及び主張の一、二の事実を認め、三を争う。

二  本件意匠並びに引用意匠に係る物品の把手が回動自在であることは、本件意匠公報並びに引用意匠公報に示される意匠図面により明らかである。把手が回動することは、原告自身「把手は枠体に軸着している」と主張していることからも明らかである。

意匠の要旨の判定に当つて、必らずしも外観が全ての判断の対象たり得るものではなく、「機能に即した意匠」を把握することも必要であり、現に原告自身本件意匠の審査段階での昭和四五年七月一三日付拒絶理由通知に対する昭和四五年九月九日付意見書で「本件意匠の最も特徴とするところは、引用意匠が断面図において両側を円弧に形成していたのを断面図において一側を平面にし、円弧に形成したことである。これによつて本件の把手は提手部としての機能が良好である」旨の主張をなし、さらに「なお、実用面においては前記平面部に印刷を施すのでその場合においても本件意匠は有利である」旨の実用性の点も主張している。

ところで、罐の提げ手は、罐体の荷重を当該提げ手の把手にて受け、これを手指にて支えて使用するものであるから、把手の下面が平らである方が握持し易いことは明らかである。従つて、本件意匠の提げ手にしてみても原告が認めるごとく、「枠体の上辺一ぱいに分厚い長方形把手を長手方向に軸着した基本形態」である以上、把手は枠体に対して回動し、実際の使用に当つて需要者は「上面を突条に下面を平坦状」にして使用する場合のあることを否定することはできない。しかも、この種の罐の提げ手は罐体の天板に対して把手が回動しないと罐体相互を積重ねる場合に不都合を生じることから機能上、把手が回動するように構成されることが必要不可欠である。右のような機能は本件意匠を解釈する際、当然考慮されるべき事項である。

原告主張のように、「平坦状の面を上に、三条の突条のある面を下にした状態と、これを逆にした状態の罐の提げ手」の両意匠が別の意匠であるとするならば、本件意匠の提げ手を逆にしたものは本件意匠の範囲に属さないことになるが、原告はこのことを容認するであろうか。

三  原告は、本件意匠と引用意匠との類否を支配する主要部である把手の形状が両者において極めて相違していると主張する。

しかしながら、把手の一面を平坦状に、他面を長手方向に沿つて三条の突条を表わすようにした態様のものが、提げ手の意匠の基本形態に加えて普遍的なものとなつていることは明白である。従つて、把手の一面を平坦にするか、あるいは小凹部を設けた形状とするかの相違は把手の一面のしかも両端附近の小さな限られた部分の変化にすぎないもので、全体観察上微差にすぎない。この点については、把手の一面を平坦にした意匠登録第三二五一一七号に対して両端附近に本件意匠の小凹部と全く同一の小凹部を加えた形状のものが同号の類似一として登録されている事実からも明白である。

また、他面の三条の突条の形状についても、たとえ原告主張のように、本件意匠と引用意匠間に相違があつても、それらは右の普遍的な罐の提手の意匠における全体的な形状において看者に与える影響は小さく、類似の範囲を出ないものである。この点については意匠登録第一四五〇八七号に対して同号の類似一及び二が存在する事実に徴しても明白である。

以上の点からして、「基本形態」を共通にし把手の一面を平坦状とし他面を長手方向にそつて三条の表面からみると円弧状にみえる突条を表わした態様を共通とし、かつ、これらによつて全体的なまとまりとしての意匠的特徴が形成されるとする審決に違法はなく、さらに本件意匠と引用意匠間の類否を支配する右主要部からして、本件意匠と引用意匠間における把手の一面の小凹部の有無及び他面の突条の形状の差異は全体観察上微差にすぎないとする審決に何ら原告主張のような違法は認められない。

第四被告の主張に対する原告の反論

一  被告は、本件意匠登録出願の審査段階における原告の意見を引用しているが、たとえば特許出願の審査段階において出願人が「特許請求の範囲」の文言を限定する主張をしたというような場合とは異なり、意匠公報の図面で特定されている意匠の構成が問題にされている本件訴訟において、審査段階における意見が、原告の訴訟上の主張を制約する根拠にはならない。審査段階において原告が失当な意見を述べたにすぎない。

二  被告は、把手を提げる際、手指には罐体の荷重がかかるので、下側が平坦である方が握持し易い旨主張する。たしかに、引用意匠に係る物品においては、そのとおりであろう。しかし、本件意匠に係る物品については三条の突条のある側を握持した方が指は痛くないのである。本件意匠の場合、三条の突条のうち、真中の突条は背が高く横に巾広く、両側の二つの突条は背が低く小さくなつている。従つて把手の突条のある側はいわば山型を形成している。一方、手指で把手を提げる場合、把手を支えるべき手指の部分はV字状に折曲げた第二関節の内側の個所である。そうであれば山型状をした側の方が平坦面をなす側よりもV字状の関節部分にうまく収まり、手指に馴染み易いことは理の当然である。

三  被告は、本件意匠の把手の上下を逆にした状態のものを別の意匠だとすれば、本件意匠としての類似範囲外であると即断しているが、原告はそのようなことは言つていない。右のような場合、当然両意匠間で類似かどうかの問題が起り得よう。上下対象の同じ形状をもつ二つの意匠は類似範囲に属する場合が多い。

しかし、本件意匠と、本件意匠における把手を上下逆にした意匠(以下「逆意匠」という。)とが類似であると仮定したとしても、本件意匠と引用意匠との類否の問題が、逆意匠と引用意匠との類否の問題と同一であるということにはならない。本件意匠と逆意匠とが類似であるかどうかの問題と、本件意匠と引用意匠とが類似であるかどうかの問題と、逆意匠と引用意匠とが類似であるかどうかの問題とは、みなそれぞれ別個独立のものである。

理由

一  原告の請求の原因及び主張の一、二の事実については、当事者間に争いがない。

そこで、本件審決にこれを取消すべき違法の点があるかどうかについて考える。

二  原告は、意匠の構成はあくまでも意匠公報に示されたとおりのものと解すべきであるから、審決が本件意匠においても、引用意匠においても、その把手は回動自在であるとし、本件意匠における把手を一八〇度回転させた状態において、本件意匠と引用意匠とを比較して両意匠は類似していると判断したのは違法であるとの趣旨の主張をする。

意匠法第二四条は、「登録意匠の範囲は、願書の記載及び願書に添附した図面に記載され………た意匠に基いて定めなければならない。」と規定しているが、この規定は、願書には記載されてはいないが、当該意匠に係る物品が、その物品であることにより当然持つ機能を考慮して登録意匠の範囲を定めることを禁じているものではなく、意匠法第六条が願書には意匠に係る物品を記載すべきことを命じている趣旨を勘案すれば、右とは逆に、意匠に係る物品の当然持つ機能を考慮して登録意匠の範囲を定めるべきであるといわなければならない。

これを本件についてみると、本件意匠に係る物品は罐の提げ手であり、その罐の提げ手の把手が回動し得るものと認むべきことは、その物品のもつ機能上当然のことといわなければならない。けだし、罐の提げ手はいうまでもなく罐に取付けられるものであり、本件意匠の如き提げ手についてこれを言えば、その下辺が罐の天板部に軸着され、その下辺を軸として少なくとも一八〇度は回動する(すなわち、罐の提げ手を持つて罐を持運びする際は、提げ手と罐の天板部のなす角は九〇度であり、多数の罐を積重ねる際に提げ手を左右いずれかに寝かす場合提げ手と罐の天板部のなす角は零である。)ものでなければならず、その際把手も上辺を軸として回動しなければ、把手が邪魔になつて罐を上下に積重ねることが不可能になるからである。そして、意匠を、その意匠に係る物品のもつ性質、機能をも勘案して解釈すべきであることは、原告もまた、これを認めているところである。なぜならば、本件意匠公報には本件意匠に係る罐の提げ手が上下逆に表示されていること、すなわち、罐の提げ手の本来の用途に従つた表示がなされていないことは、これを認めているからである。

右のとおりであるから、本件意匠においても引用意匠においても、ともに把手が回動するものと認定して両意匠の類否を判断した審決には誤りはなく、原告の前記主張は理由がない。

三  原告は、本件意匠と引用意匠との類否を支配する主要部は審決のいう「基本形態」(「丸棒を折曲げて逆梯形状とし、角部を弧状とした枠体の上辺一ぱいに、回動自在に、分厚い長方形把手を長手方向に軸着した」形態)ではなくて、「把手」の構成又は形状にあるところ、両意匠における把手は、その一面平坦部の両端附近の小凹部の有無及び他面の三条の突条の形状の点において差異があるから、両意匠は類似しないものといわなければならない旨主張する。

しかしながら、両意匠の、把手一面の平坦部の両端附近における小凹部の有無による差異は、審決のいうとおり、把手一面の、しかも両端附近の小さな、限られた部分の差異にすぎないから、その差異は両意匠を非類似のものたらしめるものではないといわなければならない。このことは、平坦部の両端附近に小凹部のある罐の提げ手の意匠が小凹部のない意匠の類似意匠として登録されている(成立について争いのない乙第二、三号証)事実からも明らかである。また、把手の平坦部と異なる面の三条の突条の断面形状が、両意匠において、原告主張のように異なつていることは、これを認め得るところではあるが、その差異は両意匠の全体観察の上からは微差にすぎず、これをもつて両意匠を非類似のものたらしめるものではないといわなければならない。この点に関する原告の主張も理由がない。

四  以上のとおりであつて、本件意匠は引用意匠に類似しているとし、本件意匠登録を無効とした審決の判断に誤りはないから、これを違法としてその取消を求める原告の本訴請求を棄却し、訴訟費用は敗訴の当事者である原告の負担とすることとして主文のとおり判決する。

(裁判官 杉本良吉 高林克巳 舟橋定之)

意匠図面<省略>

引用意匠 図<省略>

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