東京高等裁判所 昭和54年(行ケ)220号 判決
審決を取り消すべき事由の存否について判断する。
1 本願意匠が、意匠に係る物品を「構築用ブロツク」として別紙目録(一)(代用写真)(〔編註〕省略)に示されるとおりの意匠であることは当事者間に争いがなく、また、成立に争いのない甲第三号証の二及び甲第六号証(引用意匠)によると、引用意匠は、意匠を現わす物品を「建築用ブロツク」(第一二類)とした別紙目録(二)(代用写真)に示されたとおりの意匠であることが認められ、両意匠は、ともに「横長のほぼ直方体状としてその側方中央に帯状の凹みを設け、かつ上面に三個の同間隔をおいた透孔部(引用意匠にあつては凹陥部)が設けられた」構成において共通しているものと認められる。
しかしながら、成立に争いのない甲第七号証(日本規格協会発行・昭和三三年八月二五日改正の空胴コンクリートブロツクについてのJIS)及び甲第一〇ないし第一三号証、甲第二三ないし第二五号証(いずれも意匠公報)などによれば、建築用コンクリートブロツクもしくは構築用ブロツクにあつては、横長のほぼ直方体状としてその側方中央に帯状の凹みを設け、上面に透孔部を同じ間隔をおいて設けるという構成はきわめて周知な態様であつて、このような態様のものとして認識できる建築用もしくは構築用ブロツク自体は、一般需要者にとつてきわめてありふれたものであることが認められる。
したがつて、一般の需要者としても、右のごとき周知な構成部分をもつ構築用ブロツクを看る場合には、このありふれた構成部分を把えて意匠としての特徴点とは考えず、むしろ、それ以外の形状及び模様の部分にその意匠の特徴を見い出すものと考えるのが妥当である。
そうすると、審決が、本願意匠と引用意匠とが共通して有する前記のごとき周知の態様を把えて「これらの共通点は、相当に看者の注意を引くものとみられる」とした点は、誤りというべきである。
2 次に、両意匠が共通して有する前記構成部分以外の点について、本願意匠と引用意匠とを対比して両意匠における支配的部分がどこにあるかを検討することとする。
成立に争いのない甲第一号証の一、二、甲第八号証(本願意匠の意匠登録願書添付の代用写真)ならびに甲第三号証の二、三、甲第六号証(引用意匠の意匠登録願書添付の代用写真)によれば、両意匠の間には次のごとき相違があることが認められる。
(縦筋状の溝による正面の形状とその美感の相違)
本願意匠の正面には、全域にわたつて多数の縦筋状の細い溝が、溝幅の数倍に相当する均一の間隔をおいて並列されており、これが背後の白と黒の斑点模様と調和して、きわめて淡白清楚な印象をあたえるのに対し、引用意匠の正面には、本願意匠にみられる白と黒の斑点模様はなく、縦筋状の溝があるとはいえ、互いに接近した三本の縦筋状の溝が組を成し、その三本の縦筋状の溝からなる組が溝幅にほぼ等しい間隔をおいて繰返えされて並列されており、本願意匠の正面と比べて、引用意匠の正面は、縦筋状の溝が強調して表わされ、看者に対し、より重厚な感じを抱かせるものである。
しかも、本願意匠は、意匠に係る物品を「構築用ブロツク」とするから、本願意匠を構成する各部分のうちでも、ブロツクの正面部分が、通常最も人目につきやすい部分であるとみるのが相当である。このことに徴すると、この正面部分における両意匠の間の前記のごとき形状及びこれによる美感の相違は比較的重きをおいて評価されるのが相当である。
(上面及び下面における形状と左右側面の凹みの相違)
本願意匠と引用意匠との上面及び下面についてみると、本願意匠における三個の透孔は、貫通孔で、平面形状は短径と長径の比を約一対二とした横長扁平な楕円形状であり、これらの透孔と左右側面の帯状凹み相互間の肉厚を右楕円形の短径よりやや長くし、かつ三個の透孔と前記両側面凹みの前後の肉厚がほぼ右楕円形の短径と同じくなるように配置されているのに対し、引用意匠の三個の凹陥部は、有底であり(この点は当事者間に争いがない。)その平面形状は、やや縦長ではあるがほぼ正方形とみられ、これら三個の凹陥部と左右側面の帯状凹み相互間の肉厚ならびに凹陥部とその前後の肉厚は、ともに右正方形一辺の長さのほぼ三分の一程度とみられる。
さらに、左右側方の帯状の凹みの形状をみると、本願意匠の左右側方の凹みは、平面形状としては半円形であるのに対し、引用意匠の側方の凹みはほぼ一辺を欠いた矩形状をなしていることが認められる(審決が、これを台形状とみたのは誤りである。)。
右のごとき本願意匠と引用意匠の相違点を認識したうえで、両意匠の外観を全体として観察して両意匠の類否を判断するに、正面における形状が最も一般の需要者の注意を惹く部分とみるのが相当であり、かつこの正面形状から受ける美感は前叙のとおり異つたものであるほか、上面及び下面の透孔部(引用意匠にあつては凹陥部)や左右側方の凹みの形状についても両意匠において明らかな相違があることから、たとえ本願意匠と引用意匠とは、前叙のとおりの共通した構成部分があるとしても、一般の需要者は、両意匠から異なつた印象を受けるものとみるのが相当であり、両意匠を誤認混同するおそれがあるものとは認められない。
3 以上のとおりであるから、本願意匠を引用意匠と類似するものとして意匠法第九条第一項の規定に基づいてその登録を拒絶した審決は誤りであつて取消しを免れない。
よつて、審決の違法を理由にその取消しを求める原告の本訴請求を正当として認容することとする。
〔編註〕 本件における請求原因は左のとおりである。
1 特許庁における手続の経緯
訴外加藤鈴一は、昭和四八年三月一日、意匠に係る物品を「構築用ブロツク」として図面代用写真により別紙目録(一)(代用写真)に示されるとおりの意匠について意匠登録出願(昭和四八年意匠登録願第八七六九号)をしたが、昭和四九年九月三〇日拒絶査定を受けた。
そこで、右加藤鈴一は、昭和四九年一二月一一日、審判を請求し、昭和四九年審判第一〇五四一号事件として審理され、その間、原告が、本願意匠の登録を受ける権利を譲り受けて、昭和五三年四月二四日、特許庁長官にその旨の届出をしたが、昭和五四年一一月一日、「本件審判の請求は成り立たない。」旨の審決がなされ、その謄本は昭和五四年一一月二八日原告に送達された。
2 審決の理由の要旨
本願は、昭和四八年三月一日の登録出願であつて、意匠に係る物品を構築用ブロツクとし、その意匠は、全体を横長の直方体状に形成してその両側の中央に半円状の凹みを帯状に設け、上面には三個の楕円状の透孔を等間隔に並列せしめてなるものであつて、正面及び背面には、黒白の多数の斑点模様を全面に表わし、そして正面のみには、細い縦筋状の細い溝を多数並列せしめてなるものであることが、願書添付の図面代用写真及び願書の記載によつて認められる。
これに対し、原査定において本願意匠に類似するとして引用された先願意匠は、昭和三五年意匠登録願第五八三号で、昭和三五年一月一六日登録出願し、昭和三五年一〇月一四日に拒絶され、その後査定の確定したものであつて、その意匠は、全体を横長の直方体状に形成して、その両側の中央に台形状の凹みを帯状に設け、上面には三個のほぼ正方形状の深い凹陥部を等間隔に並列せしめてなるものであつて、正面には細い縦筋状の細い溝を多数並列せしめてなるものであることが認められる。
そこで両意匠を比較検討すると、両者は、前記認定の通り、側面の凹みの形状、上面における透孔部と凹陥部の違いやその形状、その他正面の斑点模様の有無などに相違があることは認められるとしても、しかし両者は、共に横長のほぼ直方体状として、その側方中央に帯状の凹みを設け、また上面には凹陥部や透孔部を共に三個同間隔に設けたものであつて、その基本的構成態様において変りなく、その上、表面には共に細い縦筋状の溝を並列させており、これら共通点は、相当に看者の注意を引くものとみられるのに対し、前記相違点は、やはり部分形状の差にとどまる程度であると共に、その態様自体共にありふれたところで、そのため両意匠の特徴ともみられず、また、表面の模様についても同様であるから、してみれば、これら相違点は、共通点に比しやはり微弱なもので、全体としての意匠は互いに類似の範囲をでないものとするのが相当である。
したがつて、本願の意匠の前記引用の意匠に類似するものとし、意匠法第九条第一項の規定に基づいてその登録を拒絶した原審の判断は、妥当なものというべく、これを取り消すべき理由はない。