東京高等裁判所 昭和54年(行ケ)224号 判決
一 請求の原因一、二の事実は当事者間に争いがない、
二 そこで、審決の取消事由の有無について検討する。
1 本件意匠と引用意匠の差異について
(一) まず、押金の形状についてみるに、成立に争いのない甲第二号証ないし第四号証によると、<1>本件意匠と引用意匠の押金には、いずれも、丸棒を梯形状に折曲げた提手の短辺(枠体のうち、把手部分すなわち長辺に相対する辺)の部分が、回動自在に装着できるように、長手方向中央部に円弧状に隆起した突条が、押金の長さだけ形成されており、その横断面は、ほぼ別紙図面(〔編註〕省略)(3)第二図のような形状(原告のいう「かまぼこ状」に近い。)となつており、ただ、本件意匠の押金にあつては、右突条部の両端に近い部分で、その断面における弧状部と直線状部との交わる部位の弧状部側に、突条部の内方に向けて一対づつの小突起があるのに対し、引用意匠の押金にあつては、これがない点において、及び<2>両意匠の押金には、いずれも前記の中央部突条隆起をはさんで両側にそれぞれ六条づつ(計一二条。六条は、中央付近に余地を残した各三条よりなる。)の溝(隆起)が形成されているところ、その溝の横断面は、本件意匠にあつては円弧状であるのに対し、引用意匠にあつては三角状である点においてそれぞれ相違していることが認められる(なお、原告は、本件意匠の押金の中央部に形成された突条隆起は、その全体が横断面において別紙図面(3)第一図のように壺をさかさまにした形状のものであるかのように主張するが、前掲甲第二号証、第四号証に徴し、肯認しえないことが明らかである。)。
(二) 次に、枠体の把手についてみるに、前掲甲第二号証ないし第四号証によると、本件意匠の枠体の把手と引用意匠のそれとの間には、原告が請求の原因三の1の(二)(枠体の把手の形状について)において主張する(1)及び(2)のとおりの差異があることが認められる。
2 両意匠の相違点についての判断
ところで、右認定の相違点について検討するに、まず、押金に関する相違点及び枠体の把手に関する相違点のうちA面に小凹部があるか否かの点は、各意匠全体からみて極めて限られた小部分における微差にすぎない。
次に、枠体の把手のB面における相違点は、B面の長手方向全体に及んでいる点で、前記各相違点と比較すると、これよりはやや大きいということができよう。しかし、前認定のとおり、両意匠はともに、B面中央部に長手方向全体に亘つて円弧状の突条が、引用意匠にあつてはその両側が平坦であるという意味において、また、本件意匠にあつても、その両側の突条よりも大きく突出している(前掲甲第四号証)という意味において顕著に形成され、かつ、B面の長手方向両側部は、いずれも丸味を呈していることからすると、右の相違点は、結局、中央部突条隆起の両側部に溝(凹部)が形成されているか平坦であるかの差異にすぎず、両意匠全体からみればもとよりのこと、枠体の把手に限定してみても部分的な変化にとどまり、意匠全体に与える影響は小さいものというべきである。のみならず、成立に争いのない乙第一号証、第三号証によると、本件意匠とほぼ同様に、中央のものがやや大きくその両側にこれよりやや小さい三つの円弧状突条隆起が長手方向に並列して形成されている枠体の把手が、本件意匠の出願日より一〇年前後前である昭和三五年二月一七日及び昭和三七年五月一二日を出願公告日とする実用新案公報に登載されていることが認められ、このことからすると、本件意匠の枠体の把手B面における中央突条隆起の両側に円弧状突条が並列して形成されている点は特段新規なものともいえず、ひいてまた、この点をもつて看者の注意を特にひく部分とすることは、にわかにし難いといわざるをえない。
なお、成立に争いのない甲第七号証及び前掲第八号証によると、罐の提手に関する意匠として、梯形状の提手のみの意匠とこれに本件意匠におけると同種の押金が結合された意匠とが、いずれも同一人(被告会社代表者)を創作者とするものではあるが、それぞれ独立に意匠登録がされていることが認められる。しかし、右事例から、押金を含まない梯形状の提手の意匠と、この梯形状の提手に押金が組合わされた意匠とが類似するか否かの論をすることができないわけではないとしても、本件はこれと異なり、梯形状の提手が押金と組合わされた本件意匠とその梯形状の提手及び押金のいずれをも開示する引用意匠との対比に関するものであるから、右の登録例が存するからといつて、このことが、前記の対比判断を左右しうるものではない。また、成立に争いのない甲第五号証及び第六号証によると、登録第一四五〇八七号意匠と登録第三二五一一八号意匠とは、なるほど、本件の枠体の把手のB面に相当する部分は原告の主張するとおり三個の断面円弧状の突条を表わしていることが認められるけれども、本件意匠の枠体の把手のA面に相当する面について、前者は三条の円弧状の突条を表わしているのに対し、後者は本件意匠のそれと同様ほぼ平坦であつて長手方向の両端部に各二条の小凹部がある点で異なるのみであるとしても、右の各意匠が独立の登録意匠として存在するからといつて、にわかにこれをもつて前記の判断を左右しうるものではない。
3 結局、本件意匠と引用意匠とは、基本的構成態様から受ける看者の印象は共通であり、両者の相違点は、右印象を破るほど顕著なものではないから、全体として両者は互に類似する意匠というべきであり、審決の認定には誤りがない。
三 よつて、本件審決の違法を理由にその取消を求める原告の本訴請求を失当として棄却することとする。