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東京高等裁判所 昭和54年(行ケ)226号 判決

原告主張の審決取消事由の存否について判断する。

1 (本願意匠の要旨の認定について)

(一) 審決は、本願意匠の刃身部について、「剣先状刃身部」とするが、これは、別紙図面(一)に示されたとおりの、先端に向つて先細状としたいわゆる「剣先」のような態様を指すものであることが、成立に争いのない甲第一号証(審決)により、明らかであるから、必ずしも文言により一々詳細に表現がされていないとしても、その意味する内容ないし趣旨において、原告の主張するところと何ら径庭はなく、審決の認定を誤りということはできない。

(二) 審決が、本願意匠の刃身部の長さを、「柄部及び輪状部を合せた長さと、ほぼ同長とする」としたことに誤りはない。「ほぼ同長」と原告の主張する「約<省略>」とでは、視覚的にはほとんど変りはない。

(三) 審決が、本願意匠の屈折半身体につき、「柄部を刃身体に対し上方に「く」字状に屈折したように表わす」としたことに誤りはない。本件における対比上、視覚的に意味のある範囲で考えると、原告が主張する「約三〇度の角度」とするまでもないことであり、審決を誤りとすることはできない。

(四) 審決が、本願意匠の屈折半身体の輪状部の形状につき、「右辺が直線に近い、ゆるい弧状にした楕円形状」としたことに誤りはない。原告が主張する「へら」にも種々の形状があり、必ずしも適切な表現とはいえない。

(五) 審決が、本願意匠の屈折半身体の透孔部の形状を、「わずかに横長な楕円形状」としたことに誤りはない。本件における対比上、視覚的に意味のある範囲で考えると、原告主張のところまで詳細に認定しなかつたとしても、審決を誤りとすることはできない。

(六) 審決が、本願意匠の屈折半身体の輪状部下辺の突出部の形状を、「山形状突出部」としたことに誤りはない。本件における対比上、視覚的に意味のある範囲で考えると、原告が主張する「約<省略>の突出量」とするまでもないことであり、審決を誤りとすることはできない。

(七) 審決が、本願意匠の突出部を中心として左方に形成される間隙部を、「平凸レンズ(断面形)形状」としたことに誤りはない。本件における対比上、視覚的に意味のある範囲で考えると、「底辺に対し高さが約<省略>」とまで認定するまでもないことである。

(八) 原告主張の1の(八)の(1)ないし(5)の各点を検討しても、以下に述べるとおり、審決が本願意匠の特徴を看過したものということはできない。

(1) 屈折半身体と直状半身体との横方向の長さをほぼ同一とすることは、本願意匠において、特に指摘し表示すべきほどのこととは考えられない。

(2) 屈折半身体の柄部を広幅とし、直状半身体の柄部とほぼ同一幅を有するようにしていることは、本願意匠において、本件における対比上、特に摘示するほどのものではない。

(3) 直状半身体の輪状部の最大幅部及び上下輪状部の接点がともに直状半身体の輪状部中心より右方に位置することは、本件における対比上、特に顕著なものとして本願意匠について、摘示すべきほどのこととは認められない。

(4) 屈折半身体の輪状部と直状半身体の輪状部とを同一平面に位置するようにしていることは、本願意匠において、特徴といえるほどのものではない。背面図に表われている直状半身体のビスの左方の斜状直線部も、面と面との境界を示す稜線であつて、刃身部、柄部及び輪状部の全体を厚板状に表わされるはさみにおいて、二つの輪状部を同一平面上にあらしめ斉合させる場合は、はさみの素材の肉厚に応じて、傾斜を示すものとしてあらわれ、かつ、本願意匠については、その直線は、背面図にのみ、直状半身体の柄部を斜めに横切り、その延長線は屈折半身体柄部の内側の縁線に一致するかたちで表われるものであるから、形状として訴える印象は、部分的で弱く、看者によるその存在についての認識は、強くなく、類否の判断上は影響を与えることが少ないものというのほかはない。したがつて、これもまた、本件における対比上、本願意匠において特徴とすべきほどのものとは認められない。

(5) 原告主張の「全体形状がほぼ角丸三角形状のライン内に納まるようにまとめられている」との点は、本件における対比上、視覚的には特に顕著なものとして認識しうべきものではなく、本願意匠の特徴とはいえない。

2 (引用意匠の要旨の認定について)

(一) 審決は、引用意匠の刃身部について、その形状を「剣先状刃身部」とするが、必ずしもそれ以上に一々の詳細な表現をまつまでもなく、意味する内容、趣旨は明らかであり、審決の認定を誤りということはできない。

(二) 審決が引用意匠の刃身部の長さを、「柄部及び輪状部を合せた長さと、ほぼ同長とする」としたことに誤りはない。「ほぼ同長」と原告の主張する「約<省略>」とでは、視覚的にほとんど変りはない。

(三) 審決が、引用意匠の屈折半身体につき、柄部を刃身体に対し上方に「く」字状に屈折したように表わす」としたことに誤りはない。本件における対比上、視覚的に意味のある範囲で考えると、原告が主張する「約四〇度の角度」とするまでもないことであり、審決を誤りとすることはできない。

(四) 審決が、引用意匠の屈折半身体の輪状部下辺の突出部の形状を、「山形状突出部」としたことに誤りはない。本件における対比上、視覚的に意味のある範囲で考えると、原告が主張する「約<省略>の突出幅」とするまでもないことであり、審決を誤りとすることはできない。

(五) 審決が、引用意匠の突出部を中心として左方に形成される間隙部を、「平凸レンズ(断面形)形状」としたことに誤りはない。原告主張の「キヤツプ形状」の方が適切であるとは、必ずしもいえないし、本件における対比上、視覚的に意味のある範囲で考えると、「底辺に対し高さが約<省略>」とまで詳述しなければならないものとは考えられない。

(六) 原告主張の2の(六)の(1)ないし(4)の各点を検討しても、以下に述べるとおり、審決が引用意匠の特徴を看過したものということはできない。

(1) 屈折半身体の右端は、直状半身体の右端より全長の約<省略>左方にあるとの点は、本件における対比上、視覚的に意味のある範囲で考えると、引用意匠において、特に指摘し表示しなければならないほどのこととは考えられない。

(2) 屈折半身体の柄部の幅が、直状半身体の柄部の幅の<省略>以下であるとの点は、引用意匠において、本件における対比上、特に摘示するほどのものではない。

(3) 直状半身体の輪状部の最大幅部及び上下輪状部の接点がともに直状半身体の輪状部のほぼ中心に位置するとの点は、引用意匠においても、その位置が中心よりやや右寄りであるばかりでなく、本件における対比上、特に顕著な印象を看者に与えるものとして、引用意匠について、特に摘示しなければならないほどのものとも認められない。

(4) 直状半身体の柄部と刃部との境界に段付部の形成されていないことをもつて、引用意匠について特に顕著な印象を看者に与えるものということもできない。

3 (本願意匠と引用意匠との対比判断について)

(一) 前記1及び2において検討したとおり、審決における本願意匠及び引用意匠のそれぞれの要旨の認定に誤りはないので、審決が、「両意匠は、基本形態について、屈折半身体の輪状部の右辺の態様を除いて、共通している」としたことに誤りはない。

原告の主張する差異点は、結局、いずれも右基本形態に変更を与え全体的な別異感を惹起するほどのものではなく、微差にすぎないものである。

(二) 輪状部の右辺の態様が全体に占める位置及び割合からいつて、審決が、「輪状部の右辺の態様は、輪状部の一部分の態様にすぎず、ましてや、半身体全体の構成からみれば、全く一部分の態様にすぎない」としたことに誤りはなく、両意匠の基本形態によつて形成される全体的なまとまりから受ける類似の印象が、輪状部の右辺の態様によつて破られるとみることはできない。

(三) 意匠は、その各構成部分を総合した全体的なまとまりとして、視覚的に看者に印象づけるものであり、ある部分が看者の注意を特にひく部分かどうかについても、その部分が全体に対しどれだけ影響力を及ぼしているかを全体的に考究すべきものであることにかんがみると、意匠の類否判断にあたつて、公知ないし周知の構成部分をたやすく除外して類否の判断をするのは、相当ではない。原告の3の(三)の主張は、結局において、類否の判断にあたり、公知ないし周知の構成部分の除外を求めるに帰するものであつて、採用することができない。

審決が、「基本形態について、両者は酷似しているということができ、この基本形態は、全体的なまとまりとしての意匠的特徴を表わしている点というべきであるから、類否判断を支配する主要部である。」としたことに誤りはない。

(四) 屈折半身体の右辺の態様の差異に伴い、両意匠間には、突出部右方の空隙部に広狭の差異、輪状部右下の角部の有無の差異、透孔部及び突出輪の右辺の態様の差異を生じているが、いずれもわずかな差異であつて、全体に与える影響は小さく、基本形態から受ける類似の印象を破るものではない。この点に関する審決の判断に誤りはない。

(五) 原告は、本願意匠については、上下対称の美、落着き感、扁平感、重量感の印象を与えられるのに対し、引用意匠からは、上下非対称の流動感、スマート感、軽量感が与えられる旨主張するが、以上に説示したところにかんがみ、両意匠を全体的に対比すると、両者は、結局、審決のいうように、屈折半身体の輪状部の右辺の態様を除いて、基本形態ないし主要部を共通にしているとして妨げなく、その間に存する右除外の点にかかる若干の差異等は、すべて支配的な差異とはみられず、部分的な差異にとどまり、意匠全体として受ける感じについて原告の主張するところを検討しても、両者を別異の意匠とするほど顕著なものがあるとは認められない。両意匠は、類似の意匠とするのが相当であり、審決の判断に誤りはない。

よつて、本件審決の違法を理由にその取消を求める原告の本訴請求を失当として棄却することとする。

〔編註その一〕 本件における請求原因は左のとおりである。

一 特許庁における手続の経緯

原告は、昭和五一年五月六日、別紙図面(一)のとおりの意匠(以下、「本願意匠」という。)につき、意匠に係る物品を「はさみ」とし、昭和四九年意匠登録願第四三九一六号出願にかかる意匠を本意匠とする類似意匠登録出願をしたところ、昭和五三年五月三一日拒絶査定を受けたので、昭和五三年七月二六日審判を請求し、特許庁昭和五三年審判第一一七四四号事件として審理され、昭和五四年一一月一日右審判の請求は成り立たない旨の審決があり、その審決の謄本は同年一二月三日原告に送達された。

二 本件審決の理由の要点

本願意匠の構成、意匠に係る物品、本意匠、類似意匠登録出願日は、前項記載のとおりである。

本願意匠の要旨は、「剣先状刃身部(ビスより左方の部分)に連続して一体に柄部を、さらに、その右方に輪状部を設けた一対の半身体を形成し、その刃身部のみを重合合致させ、刃身部の右端において、ビスで軸着し、刃身部の長さを、柄部及び輪状部を合せた長さと、ほぼ同長とし、全体を厚板状に表わしたものにおいて、一方の屈折半身体は、刃身部の上辺にそつて、斜状に刃部を表わし、柄部を刃身部に対して上方に「く」字状に屈折したように表わし、中央付近より右方に向つて漸次幅広状に拡大して、右端に輪状部を設け、輪状部を、右辺が直線に近い、ゆるい弧状にした楕円形状に表わし、周辺に縁取状に余地を残して、わずかに横長な楕円形状透孔部を表わし、透孔部も、右辺が直線に近い、ゆるい弧状に表わし、その透孔部に、正背面にわずかに突出した突出輪を縁取状に嵌着したように表わし、輪状部の下辺中央に山形状突出部を表わしたものであり、他方の直状半身体は、刃身部を屈折半身体のそれと同一とし、上辺を、ほぼ直線状とし、刃身部の右方の柄部を、太く短くし、その下辺を、ゆるく凹曲線状として輪状部下辺に連なり、輪状部を、上辺及び右辺を直線に近い弧状とした横長な扁平楕円形状とし、周辺に縁取状に余地を残して、上辺を直線に近い弧状とした横長な扁平楕円形状の透孔部を表わし、その透孔部に、正背面にわずかに突出した突出輪を縁取状に嵌着したように表わし、輪状部の長さを、柄部のほぼ二倍としたものであり、輪状部を圧接させた状態において、突出部を中心として、左方に、平凸レンズ(断面形)形状の間隙部を、右方に、半弧状の空隙部を形成するように表わして基本形態としたもので、屈折半身体の輪状部は、右辺を直線に近い弧状とした結果、右下に、角部が形成され、したがつて、右方空隙部を、かなり小さく表わした態様のもの」である。

これに対し、本願意匠の先願である意匠に係る物品を「布用ばさみ」とする登録第四六五七五七号意匠(昭和四九年四月一三日意匠登録出願、昭和五二年八月一三日設定登録。以下、「引用意匠」という。別紙図面(二)参照。)の要旨は、「剣先状刃身部(ビスより左方の部分)に連続して一体に柄部を、さらに、その右方に輪状部を設けた一対の半身体を形成し、その刃身部のみを重合合致させ、刃身部の右端において、ビスで軸着し、刃身部の長さを、柄部及び輪状部を合せた長さと、ほぼ同長とし、全体を厚板状に表わしたものにおいて、一方の屈折半身体は、刃身部の上辺にそつて、斜状に刃部を表わし、柄部を刃身部に対して上方に「く」字状に屈折したように表わし、中央付近より右方に向つて漸次幅広状に拡大して、右端に輪状部を設け、輪状部を、楕円形状に表わし、周辺に縁取状に余地を残して、わずかに横長な楕円形状透孔部を表わし、その透孔部に、正背面にわずかに突出した突出輪を縁取状に嵌着したように表わし、輪状部の下辺中央に山形状突出部を表わしたものであり、他方の直状半身体は、刃身部を屈折半身体のそれと同一とし、上辺を、ほぼ直線状とし、刃身部の右方の柄部を、太く短くし、その下辺を、ゆるく凹曲線状として輪状部下辺に連なり、輪状部を、上辺及び右辺を直線に近い弧状とした横長な扁平楕円形状とし、周辺に縁取状に余地を残して、上辺を直線に近い弧状とした横長な扁平楕円形状の透孔部を表わし、その透孔部に、正背面にわずかに突出した突出輪を縁取状に嵌着したように表わし、輪状部の長さを、柄部のほぼ二倍としたものであり、輪状部を圧接させた状態において、突出部を中心として、左方に、平凸レンズ(断面形)形状の間隙部を、右方に、半弧状の空隙部を形成するように表わして基本形態としたもので、屈折半身体の輪状部は、楕円形状であるため、右辺が弧状となり、右方の空隙部を、かなり大きく表わした態様のもの」である。

両意匠を対比すると、両者は、基本形態について、屈折半身体の輪状部の右辺の態様を除いて、全く共通しており、輪状部の右辺の態様は、輪状部の一部分の態様にすぎず、ましてや、半身体全体の構成からみれば、全く一部分の態様にすぎないから、結局、基本形態について、両者は酷似しているということができる。そして、前記基本形態は、全体的なまとまりとしての意匠的特徴を表わしている点というべきであるから、類否判断を支配する主要部である。さらに、子細にみれば、両者は、屈折半身体の右辺の態様が、弧状である点と直線に近い態様をしているため、突出部右方の空隙部に広狭の差を生じたり、輪状部右下の角部の有無、透孔部、突出輪の右辺の態様に差異があるが、その差異はごくわずかであつて、全体に与える影響は小さいから、基本的形態から受ける酷似した印象を破るまでには至つていず、結局は部分的な差異である。

以上のとおり、両意匠は、基本形態について酷似しているので、部分的な点について差異があつても、これを全体として観察した場合においては、類似しているものというほかはない。本願意匠は、先願にかかる引用意匠に類似しているというべきであるから、意匠法第九条第一項の規定により登録を受けることができない。

〔編註その二〕 本件に関する意匠は左のとおりである。

別紙図面(一)

<省略>

別紙図面(二)

<省略>

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