東京高等裁判所 昭和54年(行ケ)41号 判決
一 請求の原因一、二の事実は、当事者間に争いがない。
二 そこで、原告主張の審決の取消事由について順次検討する。
1 取消事由1の点について
本願商標や引用商標のように、後部に「ミン」・「MIN」を用いて薬剤の商品名とすることは、広く行われており、薬剤等を指定商品とするこのような登録商標が多数存在することは顕著な事実である。そしてこのことからすると、本願商標及び引用商標に接する者の注意をひく部分は、それぞれ「ヒスト」及び「ヒツト」であるということもでき、時により、右各商標からそれぞれ「ヒスト」及び「ヒツト」の称呼が生ずるであろうことも、推認するに難くない。
しかし、本願商標と引用商標との構成が、それぞれ別紙第一及び第二のとおり、いずれも、横一連に片仮名又はアルフアベツトの文字をほゞ同一の大きさで(なお、引用商標中の「ツ」の文字は他の文字に比べてやや小さい。)、かつ、ほゞ等間隔に字数もさして多くなく記載してなることからすると、それぞれ一連に「ヒストミン」及び「ヒツトミン」と称呼されることが極めて自然であることは疑いのないところであり、この認定をくつがえすに足りる特別の事情も窺えない。
そうすると、審決が、本願商標と引用商標とが、それぞれ「ヒストミン」及び「ヒツトミン」と称呼されるとしてこれを対比した点において誤りはなく、右各商標からそれぞれ「ヒスト」及び「ヒツト」の称呼のみが生ずるに過ぎないとする原告の主張は採用できない。
2 取消事由2の点について
前述のとおり、本願商標と引用商標とから、それぞれ「ヒストミン」及び「ヒツトミン」の称呼が生ずるところ、本願商標の第二音である「ス」は、摩擦子音を含み、本願商標を一連に称呼する場合には、「ヒ」又は「ト」にアクセントがつけられ、したがつて、自然に「ス」の音は「ヒ」又は「ト」よりも相対的に弱く発音され、「ス」のみにアクセントをつけて称呼するような特別の事情は窺えない。一方、引用商標は、前述のとおり、その第二番目の「ツ」の文字が他の文字に比較してやゝ小さく表示されていること及び欧文字の表示からしても、この音は、次の音である「ト」の初めの子音と中止的に破裂するいわゆる促音であり、したがつて、それは一音節をなすものではあつても、促音でない「ツ」すなわち〔tsu〕と発音されるわけではない。その意味においては、引用商標は、原告が主張するようにこれを称呼する場合に四音からなつているとみることも可能である。しかし、右の「ツ」は促音として存在するのであるから、決して「ヒトミン」と発音する場合と同一でないことはいうまでもない。そして、これを本願商標の称呼としての「ヒストミン」と対比すると、「ス」と「ツ」の点を除いては、他の音はその順序を含めすべて同一であり、本願商標の「ス」の音が前述のとおり弱音であることからすると、これらをそれぞれ一連に称呼した場合には、両者は、互いに相紛らわしく、聞きわけ難い場合が生ずることも少なくないと考えられる。
そうだとすると、本願商標と引用商標とが、称呼上、前者は五音であり、後者は四音であり、また、第三音以下の対応音が異るとし、両者に顕著な相違があるとする主張も理由がない。
3 取消事由3の点について
前述のとおり、引用商標の「ツ」が称呼上促音であることからすると、これに「ウ」(「U」)の母音が存しないことは原告主張のとおりであり、この点に関する審決の説示は、その措辞において適切を欠くきらいはあるが、本願商標と引用商標との称呼上の対比に関する前3に述べたところを考慮すると、審決の右の点は、称呼の類否の判断に影響を及ぼすものではない。
4 取消事由4の点について
引用商標中「ヒツト」の部分をとり出してみると、これは、英語のHITに由来するものとして、野球をはじめ日常広く使用されている語であり、一方、引用商標の「ヒスト」の部分は、造語として特別の意味観念を生じさせないものといえようが、前述のとおり、本願商標と引用商標とがそれぞれ「ヒストミン」及び「ヒツトミン」との称呼を生ずるものであることからすると、その一部である「ヒスト」及び「ヒツト」において右のような相違があるとしても、そのことが、前3に述べた称呼上両者相紛らわしく聞きわけ難い事情を解消させるものとは考えられない。
そうすると、原告のこの点の主張も採用できない。
5 取消事由5の点について
証人山田孝弘の証言により、真正に成立したと認められる甲第一三六号証ないし第一七五号証、同証人及び証人田中一義の各証言並びに検甲第一六号証の一ないし三によると、本願商標を付した商品は、感冒薬として、その大部分は薬局、薬店において一般大衆に販売されていること、一方、引用商標が付された商品も感冒薬であるが、主に配置販売(販売業者が、予め消費者に商品を預けておき、消費者がこれを使用した後に代金を請求する行商的形態の販売方法)によつて一般需要者に販売されていることが認められる。
しかしながら、本願商標と引用商標について、その互いに同一又は類似する指定商品のいずれのものについても、今後通常考えられるすべての場合に、販路ないし流通経路、需要者等が截然と区別され、右商品について出所の混同を生ずるおそれがないとの事実は、これを認めるに足りる証拠がないから、この点の原告の主張も採用できない。
6 以上のとおり原告の主張する審決の取消事由はすべて理由がなく、審決の判断は相当である。
三 よつて、本件審決の違法を理由にその取消を求める原告の本訴請求を失当として棄却することとする。
〔編註〕本件に関する商標は左のとおりである。
別紙第一
<省略>
別紙第二
<省略>