大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京高等裁判所 昭和54年(行ケ)49号 判決

一 請求の原因一ないし三の事実は、当事者間に争いがない。

二 そこで、審決にこれを取消すべき違法の点があるかどうかについて判断する。

1 成立について争いのない甲第九号証の二によれば、本願発明の願書に添付した明細書の特許請求の範囲の記載は、当事者間に争いのない請求の原因二のとおりであることが認められる。

ところで、審決は、前記本願発明の特許請求の範囲の記載のうち、「直列共振回路を設けない増幅器の遮断周波数の<省略>の近くにある周波数に同調せしめ」とある部分を除いたものをもつて本願発明の要旨を認定しており、原告はこのことを争つているので、その適否について考える。

本願発明の前記特許請求の範囲の記載によれば、本願発明は、「連続する二つの段において一つの変成器を有する結合回路網を少くとも一つ設け、伝送周波数帯域の上限領域において、大体変成器の漂遊インダクタンスであるインダクタンスを抵抗と直列に接続して構成した次のベース接地回路で動作するトランジスタ段の入力インピーダンスと先行トランジスタ段の出力容量とから形成された並列共振回路の並列共振が生ずるようにした多段広帯域トランジスタ増幅器」に、補償回路として直列共振回路を挿入し、その直列共振回路の共振周波数を調整して、直列回路と並列回路とより形成された伝送特性曲線における、「最大の平坦な振幅特性曲線」を得るようにしたものであるが、右のように、挿入された直列共振回路の共振周波数を調整して、「最大の平坦な振幅特性曲線」を得ようとする場合、そのために必要な直列共振回路の共振周波数がいくつも存在するとは技術常識上考えられず、当事者間においても、そのような直列共振回路の最適な共振周波数は一義的に一つ存在し、かつ、それは「直列共振回路を設けない増幅器の遮断周波数の<省略>の近くにある周波数」であることについて、争いがない。

そうすると、前記特許請求の範囲にいう「直列共振回路を設けない増幅器の遮断周波数の<省略>の近くにある周波数に同調せしめ」ることと「最大の平坦な振幅特性曲線に対する条件が充足される」ようにすることとは、技術的には実質的に同義であるということができる。

したがつて、本願発明の要旨としては、右に関して、「最大の平坦な振幅特性曲線に対する条件が充足される」といえば足り、重ねて「直列共振回路を設けない増幅器の遮断周波数の<省略>の近くにある周波数に同調せしめ」という必要はなく、審決のした本願発明の要旨認定に誤りはないというべきである。

2 原告は、第一引用例は、その発明の名称が示すとおり、「インピーダンス整合結線網」であつて、その目的とするところは、電波伝送線中で必要なインピーダンスに対する整合を行うことにより「鳴音現象の原因である反射を防止」することにあり、本願発明がフイルタ的減衰作用により平坦な振幅特性曲線を得ることを目的とするのとは異なり、両者は目的の差異に応じてその構成においても著しく異なるのであるから、第一引用例は本願発明の特許性を否定する資料とはなり得ない旨主張する。

しかし、第一引用例に、「連続する二つの段において結合回路網を少くとも一つ設け、結合回路網内に減衰直列共振回路を分路分岐として接続し、この共振回路を伝送特性曲線における最大の平坦な振幅特性曲線に対する条件が充足させるように減衰させる」技術が記載されていることは、当事者間に争いがなく、成立について争いのない甲第三号証によれば、第一引用例に記載された前記直列共振回路もフイルタ的減衰作用により平坦な振幅特性曲線を得るものであることが認められるから、第一引用例の発明の名称が「インピーダンス整合結線網」であり、その目的とするところが原告主張のものであるとしても、本願発明の引用例たりえないわけではなく、原告の主張は採用できない。

3 原告は、第二引用例には、分路分岐として接続された「直列共振回路」の記載がなく、この構成を欠如する点で本願発明と根本的に異なるから、審決が、「本願発明は、第一引用例に記載された直列共振回路による分路分岐を、その構成や作用の変更を何ら伴わずに、第二引用例に記載された多段トランジスタ増幅器における振幅特性の“山”を平坦にするために、単に転用したものにすぎない。」としたのは誤つていると主張する。

しかし、第二引用例に、「連続する二つの段において一つの変成器を有する結合回路網を少くとも一つ設け、伝送周波数帯域の上限領域において、大体変成器の漂遊インダクタンスであるインダクタンスを抵抗と直列に接続して構成した次のベース接地回路で動作するトランジスタ段の入力インピーダンスと先行トランジスタ段の出力容量とから形成された並列共振回路の並列共振が生ずるようにした多段広帯域トランジスタ増幅器」の構成が記載されていることは、当事者間に争いがないところであり、第一引用例には、前述のとおり、「結合回路網内に減衰直列共振回路を分路分岐として接続」する構成が示されているのであるから、当業者であれば、第二引用例の前記多段広帯域トランジスタ増幅器の構成に第一引用例の前記構成を組合せて本願発明のようにすることは、容易になしうるところというべきであつて、審決の認定に誤りはない。

4 原告は、特許第一一六三九五号明細書記載の発明は、カツトオフ周波数付近で急峻な減衰特性を与えるための直列共振回路を有する電気濾波器に係る発明であり、米国特許第二一二三一七八号明細書記載の発明は、段の負帰還増幅器に関する発明であり、いずれも、本願発明とは異なり、伝送特性曲線における平坦な振幅特性を得るためのものではないから、本願発明の特許性を否定する資料とはなり得ない旨主張する。

しかし、審決がこれらを引用したのは、フイルタの中に直列共振回路による分路分岐を設けてそのフイルタの振幅特性を任意に調整する、という技術が、普通に行われていることを示すためであり、成立について争いのない甲第一二、第一三号証によれば、その限りにおいてこれらの引用に誤りがあるとは認められないから、原告の主張は採用できない。

三 以上のとおり、原告の主張はいずれも理由がなく、審決にはこれを取消すべき違法の点はないから、その取消を求める原告の本訴請求を失当として棄却することとする。

〔編註その一〕 本件における特許請求の範囲は左のとおりである。

連続する二つの段において一つの変成器を有する結合回路網を少くとも一つ設け、伝送周波数帯域の上限領域において、大体変成器の漂遊インダクタンスであるインダクタンスを抵抗と直列に接続して構成した次のベース接地回路で動作するトランジスタ段の入力インピーダンスと先行トランジスタ段の出力容量とから形成された並列共振回路の並列共振が生ずるようにした多段広帯域トランジスタ増幅器において、結合回路網内に減衰直列共振回路を分路分岐として接続し、この共振回路を、直列共振回路を設けない増幅器の遮断周波数の<省略>の近くにある周波数に同調せしめ、直列回路と並列回路とより形成されたフイルタの伝送特性曲線における最大の平坦な振幅特性曲線に対する条件が充足されるように減衰させることを特徴とする多段広帯域増幅器。(別紙図面(一)参照)

〔編註その二〕 本件に関する図面は左のとおりである。

別紙図面(一)

<省略>

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!