大判例

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東京高等裁判所 昭和54年(行ケ)54号 判決

事実及び理由

一  原告の請求の原因及び主張の一ないし三は、当事者間に争いがない。

そこで、本件審決にこれを取消すべき事由があるかどうかについて考察する。

二  原告は、審決は第一引用例の圧縮成形機による熱硬化性樹脂の成形と、本件考案の射出成形機における熱可塑性樹脂の成形との根本的な相違を看過して、「射出成形機と圧縮成形機とは可塑物を成形する点で共通しており、型の形成や型締め等の技術については共通するものが多いので、一行程で二個の成形品を成形するための圧縮成形技術を射出成形機によつて一行程で二個の成形品を成形する際に利用することは、当業者が必要に応じて容易にできる程度のこと」と判断して、第一引用例のものと本件考案との根本的な相違を無視した、と主張する。

しかしながら、圧縮成形法が熱可塑性樹脂の成形にも使用されることのあることは、原告もこれを認めるところであるのみならず、成立について争いのない乙第一ないし第四号証によれば、圧縮成形法を熱可塑性樹脂の成形に使用することは、本件出願前における周知の技術であつたと認めることができる。そして、圧縮成形機と射出成形機は、ともに雄型と雌型との一対の金型を用い、一方を固定し、他方を移動可能に設け、金型に形成された凹所内において加圧加熱された合成樹脂を所望の型に成形し、その後金型を開いて成形品を取出すように構成されている点において変りはなく、ただ、圧縮成形機において用いられる樹脂が熱硬化性樹脂であるか、熱可塑性樹脂であるかによつて、金型への樹脂の供給の仕方、金型の冷却装置の有無等の点において違いがあるだけである。従つて、第一引用例に一行程で二個の成形品を成形する金型の配置及び型締めの機構が記載されてあれば、これを熱可塑性樹脂の射出成形機に適用することは、当業者が必要に応じて容易になし得ることであるということができる。従つて、第一引用例(成立について争いのない甲第七号証)に、原告指摘のように、「一般に竪型の成型機は……熱硬化性樹脂製品の圧縮成型に専用されているが……」との記載があつたとしても、それをもつて圧縮成形機と射出成形機が樹脂の成形において根本的に異なり、それゆえに第一引用例に一行程で二個の成形品を成形する技術が記載してあつても、その技術を射出成形機による成形品の成形に利用することが容易でないとすることはできない。

三  原告は、本件考案においては、中央のダイプレート(4)と各固定盤(1)、(1)′との間には可動ダイプレート(5)、(5)′を、同時に作動される型締シリンダー(8)、(8)′によつて誘導杆(3)に誘導されて前進あるいは後退できるように設けるとともに、該固定盤(1)、(1)′の外方には各可動ダイプレート(5)、(5)′の射出口に対してそれぞれのノズル部(10)・(10)′を進退できるように射出成形装置(9)、(9)′を設置したものであるが、このような構成は第二引用例からは全く知ることができない、と主張する。

しかしながら、右の点に関する審決の判断は第二引用例との関係だけではなく、まず審決は本件考案と第一引用例とを比較し、両者の一致点及び四点にわたる差異点を指摘し、差異点(2)、すなわち、本件考案が横型の装置で、両端の固定盤、中央のダイプレートが基台に固定されているのに対し、第一引用例が竪型の装置で固定盤の一方が基台になつている点について、一行程で二回の成形ができる射出成形機を横型にすること及び両端の固定盤を基台に固定することは第二引用例に記載されているとし、また、差異点(3)、すなわち、本件考案が固定盤の外方にそれぞれ射出装置を設置し、可動ダイプレートの射出口に対しノズル部を進退できるようになつているのに対し、第一引用例が射出装置を有しない点について、一行程で二回の成形をすることができる射出成形機において、それぞれの射出板部材(可動ダイプレート)の外方にノズル部をもつ射出装置を配置し、射出成形時に成形型部材の射出口に上記ノズルを嵌入できるようにすることは第二引用例に記載されており、また、一行程で一回の成形をする横型の射出成形機において、固定盤の外側に射出装置を配置して射出時にノズル部を射出口に嵌合できるようにすることも本件出願前に周知のことである(本訴で提出された成立について争いのない乙第六号証――昭和三六年二月二二日に出願公告された特許公報――によれば、右の点は本件出願前において周知であつたものと認めることができる。)ので、本件考案において固定盤の外方に射出装置を設けて可動ダイプレートの射出口に対しノズル部を進退できるようにすることは、当業者が必要に応じて容易にできる程度のことであるとし、差異点(4)、すなわち本件考案が型締シリンダーの取付位置を限定していないのに対し、第一引用例が型締シリンダーを固定盤の中央に嵌設している点について、一行程で二回の成形をすることができる射出成形機において射出装置を射出板部材(可動ダイプレート)の外方に配置して型締シリンダーを固定盤以外の個所に配置することは第二引用例に記載されているので、型締シリンダーの取付個所を変更することは当業者が必要に応じて容易にできることと認めるとしたものであつて、審決の右認定判断に誤りはないから、原告の前記主張は採用することができない。

四  原告は、第二引用例に記載の射出成形装置と第一引用例記載の熱硬化性樹脂の圧縮成形装置とは成形方式、構成が根本的に異なるものであり、両者を結びつける技術思想は両引用例の記載からは知ることができないから、本件考案を両引用例から当業者が必要に応じて容易に考案することができる程度のものとすることはできないと主張するが、右両引用例自体において、射出成形装置の成形方式、構成を、熱硬化性樹脂の圧縮成形装置のそれに、又はその反対のものに結びつける技術思想の記載がないことは当然のことであり、審決は、本件考案は第一引用例、第二引用例並びに周知技術から、当業者がきわめて容易に考案することができたものと認定したものであつて、審決の右判断は、被告が第三の三において主張するところから勘案して、優にこれを是認することができるから、原告の前記主張は理由がない。

五  原告は、本件考案にかかる成形機は、(1)在来の射出成形機の二台分の生産能力を発揮する、(2)中央のダイプレート及び型締シリンダーに機械的な無理がない、(3)型締シリンダーを小型化できる、(4)バリのない成形品が成形できる、という独特の作用効果を発揮すると主張するが、(1)については、第一引用例にも一台の機械で二台分の作用をする旨の記載があり(第一頁右欄第二七行ないし第三一行)、これは金型の配置及び型締機構によつて生ずる効果であるから、これを射出成形機に適用すれば、在来の成形機の二台分の生産能力を発揮できるものであることは当業者が容易に予測できるところであり、また、第二引用例のものも二台分の生産能力を発揮できるものであることは、第二引用例公報の記載自体から明らかであり(2)については、第一引用例のものについても、本件考案の中央ダイプレートに相当する中立定盤に対して本件考案の可動ダイプレートに相当する上部移動定盤の上部シリンダーと下部移動定盤の下部シリンダーとが同時に作動し、互に中立定盤に向つて作用し合うものであるから、本件考案と作用効果上格別の差異がなく、(3)、(4)については、第一引用例のものも、中立定盤の上下側面に熱盤及び金型を装着し、この金型に対応して、上部移動定盤、下部移動定盤にそれぞれ金型を装着し、その金型を型締シリンダーにより、それぞれ中立定盤に向つて押圧するもので、本件考案と同様な操作が行なわれるから、シリンダーの押圧力は金型に有効適確に働き、従つて型締シリンダーを小型化することができ、成形品もバリのないものが作られるものと考えられ、その作用効果は第一引用例から当然予測される程度のことであり、原告の主張するような作用効果は第一引用例及び第二引用例からは予測することのできない本件独特のものであるとすることはできない。原告の主張は理由がない。

六  以上のとおりであつて、本件考案は第一引用例及び第二引用例に記載された考案に基づいてきわめて容易に考案することができたものと認めた審決の判断に誤りはなく、これを違法としてその取消を求める原告の請求は理由がないからこれを棄却する。

〔編註〕本件考案の要旨は左のとおりである。

基台(2)の上面に対向して設けられる固定盤(1)、(1)′の四隅間に誘導杆(3)を張設して該固定盤(1)、(1)′の中間位置には左右両側を型取付面(4)′、(4)′′とした中央のダイプレート(4)を基台(2)に固定して設け、該中央のダイプレート(4)と各固定盤(1)、(1)′との間には可動ダイプレート(5)、(5)′を同時に作動される型締シリンダー(8)、(8)′によつて前記誘導杆(3)に誘導されて前進あるいは後退できるように設け、さらに固定盤(1)、(1)′の外方には各可動プレート(5)、(5)′の射出口に対してそれぞれのノズル部(10)、(10)′を進退できる射出成形装置(9)、(9)′を設置したことを特徴とする射出成形機。

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