東京高等裁判所 昭和54年(行ケ)74号 判決
1 請求の原因1ないし3の事実は、当事者間に争いがない。
2 そこで、原告主張の審決取消事由の存否について判断する。
(一) 成立に争いのない甲第五号証によれば、第二引用例記載のシンクロナスモータ(同期電動機)における回転子は、薄鉄板を積層した誘導回転子と、強磁性材を用いた反動回転子とからなる複合回転子であつて、このシンクロナスモータは、起動時は右の誘導回転子によつて誘導電動機として動作して起動(回転)し、起動後は同期速度近くで反動回転子によつて同期電動機として動作して同期回転に引き入れられるものであることが認められ、かつ第二引用例には、このシンクロナスモータの構造の大要が第8―2図(斜視図)に示され、また、回転子の具体的構造は第8―4図(側面図、一部断面側面図)に示されているが、複合回転子は、第8―4図との関係からみて第8―2図においては、矢印をもつて「複合回転子」と表示されているものであつて、その中央部分のものが誘導回転子であり、その両側のものが反動回転子であると認められる。そして、第8―2図においては、誘導回転子の約<省略>の部分が、また反動回転子は左側のものは約<省略>、右側のものは約<省略>見えており、かついずれのものもその外周面は滑らかであり、楕円状に見え、直線状には見えてなく、更に、回転子を貫いている軸の端末にはボールベアリング、減速歯車機構の各一部が見え、これらも同様に楕円状に見えており、一方第8―4図においては、誘導回転子及び反動回転子は、いずれも長方形に描かれ、上端、下端以外に横線は描かれていないことが認められる。そして、右第8―2図、第8―4図を総合して考察するならば、第二引用例記載の反動回転子は板状のものであることが明らかである。
ところで、製図上、斜視図は、物体を斜め前方から見て描いたものであるから、真円は楕円状に表され、一方、側面図では、円筒状体、環状体は、長方形で表され、上端、下端以外に横に線が現れないことは当然の事理であり、また誘導電動機の回転子は一般的には円筒状体で、その外周面は固定子の円筒状内周面と一定の微少間隙を介して対向していること、及びボールベアリング、ロータピニオンも一般的には環状体であることは技術常識として当裁判所に顕著な事実である。
そこで、これらの事実を前提として、前記認定事実に照らし、第二引用例記載の回転子の形状について検討すると、回転子は、斜視図である第8―2図において、いずれも楕円状に表されており、側面図である第8―4図においては、いずれも長方形に表され、上端、末端以外に横線は描かれていないこと、また、反動回転子は板状のものであることに鑑み、第二引用例記載の誘導回転子は円筒状体のものであり、反動回転子は環状のものと認めるのが相当である。
審決は、第二引用例における「第8―2図及び第8―4図をみただけでは、反動回転子を構成する強磁性材が果たしてどのような平面形状を有するのかが不明確である(通常リアクシヨンモータのロータとして用いられるような突極形状を有しているものとも考えられる)。」と認定している。
審決のいう「リアクシヨンモータのロータとして用いられるような突極形状」が具体的にどのような形状のものを想定しているのかは必ずしも明らかではないが、反動電動機(リアクシヨンモータ)において、薄鉄板を積層し、外周面に突極状の角部を設けて突極構造としたものを回転子として用いる場合、これを斜視図で描くときは、突極部が突出し、非突極部が凹んでいるためにその外周面は滑らかではなく凹凸をもつて描かれることは明らかであり、また側面図で描くときは、突極部の角部(稜線)があるために、単に長方形としては描かれず、稜線が横線として長方形の中間部に描かれることになるが、第二引用例記載の第8―2図及び第8―4図において、反動回転子がこのような形状に描かれていないことは、前記認定事実から明らかであるから、第二引用例記載の反動回転子が突極形状を有しているものとすることはできない。
また、被告は、第8―4図の拡大図をみても、反動回転子の中心軸から上部までの寸法と、中心軸から下部までの寸法が等しくないから、反動回転子は円形のものでないことが明らかである旨主張する。
しかしながら、前掲甲第五号証によれば、第8―4図は、回転子の具体的構造の概略を側面図をもつて表したものであり、設計図面のようにその寸法が正確に記載されているものではなく、またそのような目的で記載されたものでもないと認められるから、被告主張のような寸法上の違いがあるからといつて第二引用例記載の反動回転子が環状のものではないとはいえず、ましてそのことが審決のいう突極形状を有するものであることの根拠とならないことは明らかであつて、被告の右主張は採用することができない。
したがつて、第二引用例記載のものは、誘導回転子の短絡板の少なくとも一方に、円周方向全体にわたり誘導回転子よりやや小径であつて磁気的に方向性を有する環状の永久磁石を取付けた構成を開示しているというべきであり、この構成は、円筒状の誘導機としての籠型回転子の短絡板の少なくとも一方に、円周方向全体にわたり前記籠型回転子とほぼ同径であつて磁気的に方向性を有する環状の永久磁石を取付けた本件考案の構成と、環状の永久磁石の径が誘導回転子とほぼ同径であるかやや小径であるかの点を除き、同一であることが明らかである。そして、環状の永久磁石と誘導回転子の径の若干の相違は、本件考案の要旨に照らし、重要な構成上の相違ではないと認められる。
(二) 成立に争いのない甲第八号証によれば、第二引用例は、昭和三五年一一月東芝商事株式会社において作成し、その頃第二引用例に記載されている前記認定の構成を有する東芝ミゼツトモートルの販売用カタログとして国内に頒布されたものであることが認められるから、第二引用例記載のものは、本件考案の登録出願がされた昭和三六年五月二二日以前に日本国内において頒布された刊行物に記載された考案に該当することが明らかである。
したがつて、第二引用例の記載のみからでは、本件考案の構成、特に円筒状の誘導機としての籠型回転子の短絡板の少なくとも一方に、円周方向全体にわたり前記籠型回転子とほぼ同径であつて磁気的に方向性を有する環状の永久磁石を取付けた構成が開示されているものとは認め難いから、本件考案がその登録出願前、国内において公知公用であると認めることはできないとした審決の判断は誤りであるというべきところ、その誤りは本件考案の重要な構成要件に係るものであり、審決の結論に影響を及ぼすことが明らかであるから、審決は違法として取消されるべきである。
3 よつて、審決の違法を理由にその取消を求める原告の本訴請求は正当として認容することとする。
〔編註その一〕 本願考案の要旨は左のとおりである。
凸極成形をしない筒体の鉄心と、該鉄心の両端面に固着した該鉄心とほぼ同径の二個の環状の短絡板と、これら短絡板と前記鉄心とをその周縁に沿つて貫き前記両短絡板に固定せしめた複数個の短絡導体と、前記短絡板の少なくとも一方に固着した前記短絡板及び前記鉄心とほぼ同径の磁気的に方向性を有する環状磁石と、前記鉄心及び前記両短絡板並びに前記環状磁石の中央を夫々貫通して前記鉄心に固定した中心軸とより成る円筒形の外形の籠型回転子を有する誘導型同期電動機。(別紙図面(一)参照)
〔編註その二〕 本件に関する図面は左のとおりである。
別紙
(一)
<省略>
(二)
<省略>
(三)
<省略>