東京高等裁判所 昭和54年(行ケ)75号 判決
原告主張の審決取消事由の存否について判断する。
本願発明の要旨と第一引用例及び第二引用例の各記載内容とが審決認定のとおりであること、本願発明と第一引用例のものとの対比における一致点と相違点が審決認定のとおりであること、閃光放電灯と半導体制御整流素子とを直列に接続して閃光放電灯用スイツチ回路を構成し、該半導体制御整流素子に逆電流を流してターンオフせしめ、前記閃光放電灯を消灯させること自体は、第二引用例にも見られるように当該技術分野では公知であること、以上の事実は、当事者間に争いがない。
1 成立に争いのない甲第二号証(本願発明の特許公報)によれば、本願発明の目的は、閃光放電灯と直列に接続されるスイツチ素子としてSCR(シリコン制御整流素子)を用いたものにおいて、「SCRのターンオフを容易かつ確実にすること」にあるものとされ、上記の目的を設定した理由として、一般に、SCRの瞬時過電流は、最大平均順電流の数十倍まで流すことができるので、閃光放電灯と直列に接続されたSCRに、通電時に大きな電流が流れても通電時間が短かく、くり返し時間が長いため、比較的小容量のSCRでも使用可能であるが、「放電灯及びSCRに流れる瞬間電流は、大きなものとなるため、通電途上にこのSCRをターンオフさせることは容易ではない。」ことがあげられている。これらの記載を併せ考えると、本願発明の目的は、基本的には、このような大電流が流れても、SCRのターンオフを容易かつ確実にすることにあるものといえる。一方、成立に争いのない甲第三号証によれば、第一引用例のものも、結局において、負荷と直列に接続されたSCRのターンオフ電流を高めるようにし、大量の電流のSCRによるターンオフを容易かつ確実にしたものであることが認められる。そうであれば、本願発明の技術事項と第一引用例の技術事項とは、基本的には、その目的を共通にしているものといえる。
しかして、本願発明と第一引用例のものとは、「負荷と第一の半導体制御整流素子とを直列に接続し、第一の半導体制御整流素子に逆電流を流すため、第一の半導体制御整流素子とコンデンサと第二のスイツチ素子をループ接続して成る逆電流放出回路を設けるとともに、第一の半導体制御整流素子のゲートに逆バイアスを印加するため、第二のスイツチ素子と逆バイアスコンデンサと抵抗をループ接続して成る逆バイアス回路を設け、第二のスイツチ素子の導通により第一の半導体制御整流素子に逆電流と逆バイアスを同時に加えて該半導体制御整流素子をターンオフせしめるようにしたスイツチ回路である点」では一致している(この点は当事者間に争いがない。)のであるから、本願発明は、負荷として接続されるものに関し差異があるとしても、第一引用例のものと、基本的には、共通の目的を達成するために、第一引用例に開示されたものと同等の構成の、逆電流放出回路及び逆バイアス回路を、閃光放電灯のスイツチ回路に適用したものということができる。そうであれば、第一引用例は本願発明とは全く技術分野を異にし、目的及び効果も異なるものであつて、本願発明の技術を示唆することはないとの原告の主張は、採用できない。
本願発明の作用効果のうち、SCRを確実にターンオフし、その端子電圧の変化中に誤つて再び導通することのない点は、成立に争いのない甲第六号証(「SCRとその応用」第一九七頁)に見られ、ターンオフ時間を短縮できる点は、成立に争いのない甲第五号証(「電気工学ハンドブツク」第六四八頁、第四五図及びその説明)に見られるように、いずれもSCRに逆電流と逆バイアスを加えた場合における周知の作用効果である。ターンオフ用コンデンサの容量を小さくすることができる点は、前述のとおり、逆電流と逆バイアスを併用すれば、SCRのターンオフ時間を短縮できることが周知であり、成立に争いのない乙第一号証の一ないし三によれば、選択すべき転流コンデンサ(ターンオフ用コンデンサ)の容量は、SCRのターンオフ時間に比例して決められることが明らかであるから、右各周知事項から当然に導き出される効果である。また、余光を少なくすることができる点も、後述のとおり、ターンオフ用コンデンサの容量を小さくすることができる効果に、当然付随して生ずる付加的効果に帰するものである。これらの点に関する審決取消事由1における原告の主張は、採用できない。
2 原告主張の余光の減少に関しては、前掲甲第二号証によれば、本願発明の明細書中には、解決課題として、「コンデンサの容量を大きくすると、この放電電流は放電灯にも流れ、かつまた、SCRがターンオフした後、再び電源より放電灯を通じてコンデンサへ充電電流が流れ込むため、放電灯より余分な光を発することになる。この余分な光は、撮影時所望の光量が小光量の場合、無視できず、露出過剰となる。」と記載され、作用効果として、「したがつて、シリコン制御整流素子のターンオフに関与するコンデンサの容量は小容量のもので充分であり、コンデンサの放充電によつて生じる余分な光量を少なくすることができ、写真撮影用エレクトロニツクフラツシユの場合、正確な露光が得られる。」と記載されていることが認められる。
原告の主張するところは、もつぱら、SCRのターンオフ後における転流コンデンサ(ターンオフ用コンデンサ)の再充電による余光に関するものであるが、本願発明の明細書(前記甲第二号証)添付の第1図(別紙図面(一))及び弁論の全趣旨によれば、第一のSCR13がターンオフすると、コンデンサ17は、放電灯2及び第二のSCR14を通して右第1図に示された極性とは逆の極性(右方電極マイナス、左方電極プラス)に再充電されるため、この逆方向充電電流が放電灯2を流れて余光の原因となることが明らかである。右によれば、余光の原因となる逆方向充電電流は、転流コンデンサが逆の極性に再充電されるために発生するものであるから、転流コンデンサの容量が小さくなれば、転流コンデンサに流れ込む逆方向充電電流分がそれだけ少なくなることは理の当然であつて、余光を減少しうる効果は、結局において、転流コンデンサ(ターンオフ用コンデンサ)の容量を小容量のものとしうる効果に当然附随して生ずる付加的効果に帰するものであり、しかも、転流コンデンサの容量を小容量のものとしうることは、前述のとおり、周知の技術事項から当然に導き出されるのであるから、余光減少の効果をもつて、本願発明に特有な新たな作用効果ということはできない。
審決は、余光減少の作用効果について触れるところがなく、説明不足の感がないではないが、ひつきよう、第一引用例に記載されているような半導体制御整流素子を用いたスイツチ回路を「閃光放電灯用スイツチ回路」として利用したことによつて新たに特有の作用効果が生じたものとはいえない、とした審決に誤りはない。
よつて、本件審決の違法を理由にその取消を求める原告の本訴請求を失当として棄却することとする。
〔編註その一〕 本願発明の要旨は左のとおりである。
閃光放電灯と第一のシリコン制御整流素子から成る直列回路と、前記第一のシリコン制御整流素子に逆電流を流すための、前記第一のシリコン制御整流素子とコンデンサと第二のスイツチ素子をループ接続して成る逆電流放出回路と、前記第一のシリコン制御整流素子のゲートに逆バイアスを印加するための、前記第二のスイツチ素子と逆バイアスコンデンサと抵抗をループ接続して成る逆バイアス回路とから成り、前記第二のスイツチ素子の導通により前記第一のシリコン制御整流素子に逆電流と逆バイアスを同時に加えることにより前記第一のシリコン制御整流素子をターンオフせしめて前記閃光放電灯を消灯させることを特徴とする閃光放電灯用スイツチ回路。
〔編註その二〕 本件に関する図面は左のとおりである。
別紙図面(一)
<省略>
別紙図面(二)
<省略>
別紙図面(三)
<省略>