東京高等裁判所 昭和54年(行ケ)77号 判決
事実及び理由
原告主張の審決の取消事由の有無について検討する。
1 原告は、引用例に開示の無端状履板付移動車輛のパツド21及びブラケツト23、24は、いずれも無端状履板1の外側縁よりも外側に突出していると主張するのでこの点について考える。
成立に争いのない甲第二号証によると、引用例は、原動機、変速機、無端状履板の誘導装置等を無端状履板で囲まれた空間(ループ)内に収納支持した無端状履板付移動車に関し、また、この車輛を並列又は直列に並べて使用しうることも示されているものであつて、右移動車に施設されているブラケツト23、24は、いずれも右移動車において荷物を積載収納するための車輛ボデイー19を車輛本体(無端状履板付移動車)に連結するための部材であつて、同車輛の後面図である第二図によれば、いずれも無端状履板の外側縁の外側に突出していることが認められる。
また、前掲甲第二号証によると、前記車輛におけるパツド21は、前記ブラケツト23、24の下端部を車輛本体に取り付けるための受座であつて、無端状履板で囲まれた空間内に収納されている変速装置8の外枠(ケース)に設置されているが、同車輛の後面図である第二図には、これを示す符号の記載がないため、無端状履板の外側縁との位置関係が必ずしも明らかではないけれども、前記のとおりブラケツト23、24の下端部を車輛本体に取り付けるための受座であることに徴すると、その取り付け又は取り外ずし作業を容易にするためには、右外側縁の外側に突出していることが望ましいと考えられ、しかも、右第二図には、無端状履板の外側縁の中央部外側に実線で示された突出部があり、これが、その高さ位置などからみてパツド21であると解する余地があることからすると、右パツド21もまた、無端状履板の外側縁の外側に突出しているものと考えられる。
2 ところで、原告は、パツド21及びブラケツト23、24はいずれも、駆動装置の一部を構成するものであると主張するので、この点について考える。
前掲甲第二号証によると、引用例に開示の無端状履板付移動車輛において駆動装置とされるものに、内燃機関5と変速装置8、9が包含されることは明らかであるが、前述のとおり、ブラケツト23、24は、いずれも右車輛において車輛ボデイー19を車輛本体(無端状履板付移動車)に連結するための部材であり、また、パツド21は、右ブラケツト23、24の下端部を右車輛本体に取り付けるための受座であることからすると、いずれも履板駆動のための動力発生作用にはもとより、動力伝達作用にも全く関与するものではないことが認められ、そうだとすれば、これらが駆動装置の一部を構成するものと解することはできない。
したがつて、引用例に開示の無端状履板付移動車輛において、パツド21及びブラケツト23、24が無端状履板の外側縁の外側に突出していることから、駆動装置も右外側縁の外側に突出しているということはできない。
なお、原告は、引用例のものにおいて、パツド21及びブラケツト23、24が無端状履板の外側縁の外側に突出している以上、引用例のものは、本願考案と異なり、作業時や運搬時の機体の運転や運搬が困難になることからも、駆動装置が突出している場合と同様であり、このような点からも、右パツドやブラケツトは駆動装置の一部と解すべきであると主張する。
しかしながら、そもそも、当事者間に争いのない本願考案の要旨によれば、本願考案は、無端状履板に囲まれた空間部に油圧駆動装置を内装し、かつ、油圧駆動装置に装備する油圧モーターを無端状履板の外側縁よりも外側に突出しないことが要件とされているに過ぎないのであるから、右外側縁よりも外側に突出してはならないものは、駆動装置を装備した油圧モーターのみであつて、それ以外の部材を右外側縁の外側に突出しないよう限定したものではない。したがつて、油圧駆動装置に装備する油圧モーター以外の部材が右外側縁の外側に突出しているとしても、本願考案の構成要件に関りのない事項であるばかりでなく、このような場合に作業時や運搬時の機体の運転や運搬に若干の支障を生じたとしても、これに基づいて、本願考案のように、支障となる部分を除去することに想到するについては、当業者として何らの困難もないといえるから、原告の右主張は、結局、採用しえない。
よつて、本件審決の違法を理由にその取消を求める原告の本訴請求を失当として棄却する。
〔編註その一〕本願考案の要旨および審決理由の要点は左のとおりである。
本願考案の要旨
機体(1)の両側に無端状履板(7)を回動移動自在に張設すると共に該無端状履板(7)にて囲まれた空間部(16)に油圧駆動装置(A)を内装し、かつ、油圧駆動装置(A)に装備する油圧モーター(14)を無端状履板(7)の外側縁端(B)よりも外側に突出しないように構成したことを特徴とする無端状履板付移動車輛における駆動装置。
審決の理由の要点
(一) 本願考案の要旨
前項のとおり。
(二) 引用例(米国特許第三、〇七四、四九九号明細書―特許庁資料館受入昭和三八年九月一三日)の記載事項
「機体の両側に、無端状履板を回動移動自在に張設し、該無端状履板で囲まれた空間部に履板駆動装置を内装し、かつ、該駆動装置が無端状履板の外側縁よりも外側に突出しないようにした無端状履板付移動車輛における駆動装置」(別紙図面(2)参照)
(三) 本願考案と引用例のものとの対比
両者は共に、無端状履板付移動車輛における駆動装置に関するものであつて、機体の両側に無端状履板を回動移動自在に張設すると共に、該無端状履板で囲まれた空間部に履板駆動装置を内装し、かつ、該駆動装置が無端状履板の外側縁よりも外側に突出しないようにした点で一致し、本願考案が履板駆動装置として油圧駆動装置を用い、かつ、その油圧モーターが無端状履板の外側縁よりも外側に突出しないようにしているのに対し、引用例のものが履板の駆動装置として内燃機関と歯車伝動装置を用い、これらが無端状履板の外側縁よりも外側に突出しないようにしている点で一応相違している。
(四) 相違点についての判断
無端状履板付移動車輛において、履板の駆動を油圧モーターによるようにしたものは、例示するまでもなく従来周知であるから、引用例のものの駆動装置に代えて、これを油圧式とした点は、単なる均等物の置換に過ぎない。そして、この場合、油圧モーターを無端状履板の外縁よりも外側に突出しないようにした点は、引用例のものにおいて歯車装置等が無端状履板の外側縁よりも外側に突出しないようにされている点を考慮することにより、当業者が極めて容易に考案をすることができることである。
(五) 結論
本願考案は、引用例に記載されたものに基づいて当業者が極めて容易に考案をすることができたものであるから、実用新案法第三条第二項の規定により、実用新案登録を受けることができない。
〔編註その二〕本件に関する図面は左のとおりである。
別紙図面(2)
<省略>