東京高等裁判所 昭和54年(行タ)20号 決定 1980年2月05日
申立人 山根二郎
被申立人 日本弁護士連合会
主文
本件申立てを棄却する。
申立費用は申立人の負担とする。
理由
一 申立ての趣旨
1 被申立人が昭和五四年一一月一日付でなした申立人を業務停止四か月に処する旨の処分の効力を停止する。
2 申立費用は被申立人の負担とする。
二 申立ての理由
申立人は第二東京弁護士会所属弁護士であるが、被申立人は昭和五四年一一月一日付で申立人に対し業務停止四か月に処する旨の処分を行い、右処分は同年同月八日申立人に告知された。しかし右処分には取消さるべき違法が存するので、申立人は被申立人を相手取り右処分の取消訴訟を提起した。
右処分により、申立人自身というよりも、むしろ申立人が右処分告知当時受任していた刑事事件の被告人及び民事事件の当事者に対し重大な不利益が及ぶので、右のような回復困難な損害を避けるため緊急の必要が存在するというべく、右処分の効力の停止を求める。
三 答弁の趣旨
本件申立てを却下する。
四 答弁の理由
申立人主張のような回復困難な損害の発生及び緊急性の存在は否認する。
五 当裁判所の判断
一件記録によれば、申立人は第二東京弁護士会所属弁護士であるが、被申立人は昭和五四年一一月一日付で申立人に対し業務停止四か月との懲役処分をなし、右処分は同年同月八日申立人に告知されたことが疎明される。
しかして、申立人が右処分にはこれを取消すべき違法があるとして、当庁にその取消の訴えを提起したことは記録上明らかである。
よつて本件につき執行停止の要件が存するか否かにつき検討する。
行政事件訴訟法二五条二項所定の損害とは申立人本人につき生ずるものをいうと解するのを相当とするから、申立人主張の受任事件の依頼者である当事者の受ける不利益は右にいう損害にあたらない。
次に申立人自身につき生ずる損害を考察する。
記録によれば、右処分告知当時、申立人は単独で法律事務所を経営していたが、民事事件若干を受任し昭和五四年一二月中に限つても六、七、一〇、一一、一三、一九の各日に口頭弁論期日(証拠調期日も含む)の指定を受けており、刑事事件二件を受任し、一件につき同年一二月四日東京地方裁判所で準備手続期日、一件につき同年一二月一二日と翌五五年一月二三日長野地方裁判所松本支部で公判期日(証拠調)の各指定を受けていたことが疎明される。
右事実によれば、申立人は右処分によりその告知を受けた時から四か月間業務を停止されるため、この間、新規の事件の受任はもとより、右各受任事件についても弁護士としての業務執行を禁じられたというべきであるが、しかし右処分の目的、性質、内容及び依頼者の利益を併せ考えれば、この間であつても、申立人はその依頼者本人が右期日の変更申請をなすのを補助し、或は右事件の代理人又は弁護人を辞任して依頼者に他の弁護士を紹介し、この者に右訴訟に関する法律事務を引きつがせ、更に処分告知前に行つた仕事について報酬を受領することは差支えないと解されるのみならず、申立人は右四か月の業務停止期間満了後、右各事件の依頼者から再び委任を受けて右各訴訟につき法律事務を行うこともできるのである。
従つて申立人がその職業とする弁護士業務を四か月間とはいえ停止されることにより、相当の不利益を受けることは明らかであるけれども、これが回復困難な程度にまで達しているとは到底いえない。
よつて本件申立てを理由なしとして棄却し、申立費用は行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条を適用して申立人の負担として、主文のとおり決定する。
(裁判官 鰍澤健三 沖野威 奥村長生)