東京高等裁判所 昭和55年(う)1062号 判決
被告人 細田和美
〔抄 録〕
本件覚せい剤は、警察官らが、違法な逮捕行為に引きつづき、被告人の承諾を得ることなく、抵抗する被告人を床に押えつけ、その口中に割箸や手錠を入れて、口を開けさせたうえ、取り出しあるいは吐き出させて、違法に収集されたものである旨主張するので、この点について検討する。清水警察署においても、まず、保護室で、被告人と面識ある森巡査が、被告人の求めで、他の者を退席させたうえ、被告人から事情聴取をしたのであり、その際、被告人が、突然、隠し切れなくなったビニール袋入りの覚せい剤五袋を口に入れ、呑み込もうとしたので、同巡査らが、これを阻止するため、やむなく前記のような実力行使をしたものであるところ、被告人の右行為は、犯罪の証拠隠滅工作であるとともに、覚せい剤の自己使用の罪の実行にも該当する行為であり、しかも、同巡査らは、それまでの経過、被告人の前歴等により、口腔内の物が覚せい剤あるいは劇薬である疑いを抱いており、かつ、それにより被告人の身体、生命に危険が及ぶことをおそれていたのであるから、被告人の薬物嚥下を阻止し、証拠隠滅の防止及び保護の目的を達成するため、必要最少限度の実力を行使することは、警察官としての適法な職務の範囲に属するものと認められ、前記の事実関係の下において、その状況の緊急性、切迫性、実力行使の必要性、程度、方法、結果等にかんがみると、森巡査らのした前記実力行使は、やむをえないものであって、許される必要最少限度内にあったものと認めるのが相当である。
そして、警察官らは、被告人の口腔内からビニール袋粉末二包を取り出し、残り三包を吐き出させたうえ、これを、被告人の承諾を得て、試薬検査し、覚せい剤と確認したため、被告人を覚せい剤所持の現行犯人として逮捕するとともに、その現場で右覚せい剤等を差し押えたものであるから本件覚せい剤等が令状主義に反する違法な手続によって収集されたものとはいえない。
(綿引 三好 杉山)