東京高等裁判所 昭和55年(う)1313号 判決
被告人 尾坂光義
〔抄 録〕
法令適用の誤りの控訴趣意について
所論は、要するに、本件各写真は、(一) 陰毛が見えるからわいせつ図画であるとされたものは、修正されて消去された部分の周辺部に僅かに陰毛らしきものが見えるか、手や体や衣服のかげにかくれるように僅かに見えるか、下着等を通して陰毛が見えるに過ぎないものであり、(二) 性器又は肛門が見えるからわいせつ図画であるとされるものは、性器の一部である旨指摘されて初めてわかる程度のものであり、肛門の映像はそもそもわいせつ性がないものであり、(三) 玩具等が性器に近接した位置にあるからわいせつ図画であるとされるものは、玩具等と性器との間には明らかに距離があり、自慰行為に進展するか否か不明のものであり、(四) 玩具等が性器に接着又は挿入されているからわいせつ図画であるとされるものは、その映像上からは玩具等が性器と接着し、あるいは挿入されているか否か、したがって、性器を弄んでいるか否か不明のものであり、(五) 肛門に浣腸器具を挿入しているからわいせつ図画であるとされるものは、肛門自体が明らかでないのみならず、肛門や浣腸の映像は社会通念上わいせつ性を欠くものであり、(六) 男女の性交場面と受け取れるからわいせつ図画であるとされるものは、(イ) 男女の位置関係から両性の性器が接触するのは無理であって、性交場面と認められないものか、(ロ) 性交場面であるとしても、性器をていねいに消去した結果何をしているか不明なものであり、(七) 性器接吻の場面と受け取れるからわいせつ図画であるとされるものは、いずれも性器が消去されており、口唇や舌と性器との関係が不明確なものであり、いずれもわいせつ性がないのに、本件各写真をわいせつ図画と認めた原判決には、事実誤認に基づく法令解釈適用の誤りがある、といらのである。
そこで検討すると、原判決がわいせつ図画の基準として判示するところは、当裁判所もこれをそのまま相当として是認することができ、押収した本件各写真によれば、次に別記する各写真を除く本件各写真は、性交、性器接吻、性戯、自慰等の性行為や、性器の殊更な露出等原判示のとおりのいやらしい場面を写したものであって、見る者の好色的興味に訴えるものであり、ほとんどのものは性器部分が抹消されているものの、抹消部分が僅少なためにわいせつ性が除去されないものと認めるに十分であるから、これらの写真について右基準に照らしわいせつ性を肯定した原判決の判断に誤りはない。
しかしながら、本件各写真中、(一) 原判決六〇号別表四七、七二、一〇二、五〇四、五四七、五五九、五七三、五七六、五八八、五九五、六三〇、六三七、六四三、六五四、六五六、六五九、六六二、六六九、六八九、七二三、七二四、七三二、七三四、七六七、七八一、八八二、九一一、九一三、九五六の各写真は、原判示のように陰毛が見えるか否か必ずしも判然とせず、(二) 同六八、五〇九、五二一、五九〇、五九一、五九二、五九三、六〇五、六二〇、六二七、六二九、六三四、六四〇、六七五、六七六、七六三、七六四、九五一の各写真は、女性の単なる裸体写真であって、抹消された性器の周辺部分に僅かに陰毛が残っているか、陰毛の一部が僅かに見えるか、うすいネグリジエを通して陰毛がすけて見えるに過ぎないものであり、(三) 同七六、九二二、九五七の各写真は、原判示のように性器が見えるか否か判然とせず、(四) 同三九八、五七二、五七九、七〇一、七四六、七八二の各写真は、女性の性器部分が抹消されて肛門もしくは肛門らしいものが残っているだけであり、(五) 同六三一の写真は、黒色塗料を消去したあとは、股を開いた女性の性器の前にこけしらしいものが置かれていることはわかるが、性器部分が広く抹消されたものであり、(六) 同三四二、八一五、八一九、八二一、八三〇、八三二、八三三、八四二、八四四、八四八、八五〇、八五九、八六一、八六三の各写真は、女性又は男性の肛門もしくは肛門付近に、浣腸器等の器具を挿入ないし接着しているに過ぎないものであり、(七) 同三七、二六五、二九一の各写真は、原判示のように必ずしも性交の場面とは受け取れないものであり、いずれも前記基準に照らし、わいせつ性を肯定することの困難なものである。したがって、これらの写真をわいせつ図画と認めた原判決には、法令適用の誤りがあるから、その余の論旨について判断するまでもなく、破棄を免れず、論旨はこの点において理由がある。
(新関 下村 小林)