東京高等裁判所 昭和55年(う)1475号 判決
(一) 千葉県では、昭和四六、七年ころから県下におけるゴルフ場開発が盛んとなるとともに、地域の乱開発や大規模な災害の発生、自然や環境の破壊が著しくなつたことから、ゴルフ場開発にともなう災害の防止、自然の保護或は環境の保全等の見地からゴルフ場等の開発事業の適正な施行を確保するとともに地域に整合した開発を進めるよう強力な行政指導を行う必要があつたので、これらの目的を達するため、同四八年一月二二日県の庁議を経て「ゴルフ場等の開発事業に関する指導要綱」(以下、指導要綱という。)を制定し、同日施行した。
指導要綱によると、千葉県内において、法令の規定による宅地開発事業に該当しないゴルフ場の設置等の開発事業を行う者は、まず、その用地取得について関係者と交渉を開始する前に開発事業計画について知事と協議をするため事前協議申出書を開発区域の所在する市町村の長に差し出し、当該市町村の長は、意見を付して(意見を付することについては、指導要綱に明文はないが、運用上そのようにしている。)、その区域を管轄する支庁の長を経由して知事に提出する。県は事前協議をするにあたつては、関係法令等の規定に基づき当該開発事業が行政庁の許認可その他の処分を必要とする場合には、当該行政庁並びに開発区域の所在する市町村長等とあらかじめ協議する。次いで、事業者は、事前協議に係る知事の同意の通知を受けた後、当該工事の設計が指導要綱に定める基準に適合するかどうかについて知事と協議するため設計協議申出書を市町村の長に差し出し、当該市町村の長は、意見を付し、管轄支庁の長を経由して知事に提出する。知事は、設計協議をするにあたつては、開発区域の所在する市町村の長の意見を聞き、開発事業の適切な施行を確保するために必要と認めたときは、事業者と協定を締結し、助言又は勧告をする。指導要綱の内容は以上のようなものである。
千葉県は、同月三〇日同県都市部長名をもつて県内各市町村の長宛に「ゴルフ場等の開発事業に関する指導要綱の施行について」と題する施行通達をもつて、指導要綱の施行について特段の協力を依頼するとともに、同施行通達において、ゴルフ場等開発区域の所在市町村の長が当該事業者と独自に協定を締結することを推奨するとともに、市町村においても独自の指導要綱を策定する等の措置を講ずることを助言している。
(二) 君津市は、千葉県の指導要綱の施行を受けて、同月二月一三日に君津市開発事業対策協議会を設置し、企画課長等各関係課長、支所長などを構成員とし、ゴルフ場建設等の事前協議及び設計協議の申出に関し、指導要綱に基づく事業者の指導や知事への意見の進達等必要事項を協議し、その協議結果については、さらに、庁内調整会議(「君津市庁内調整会議等の設定及び運営に関する規則」に基づき設置され、市長、助役、関係部長等で構成されている。)の議を経て市長より知事へ意見書等を進達することにした。
………(中略)………
指導要綱は、前記第一の(一)にみたような目的および内容のものであつて、その性質は、地方自治法二条二項に定める地方公共団体に固有の事務の処理の方法を定めたものと解される。しかも、指導要綱は、もつぱら関係事業者の協力を求めるもので、住民の権利を制限し、自由を規制するような権力の行使を伴うものではないから、具体的、個別的な法令又は条例に基づく必要のないことはもちろんである。次に千葉県は、前記のように、指導要綱の施行について、県下の市町村の長に協力依頼の形で通達し、市町村の長は右依頼を受けて事務を処理しており、関係証拠によれば、右協力依頼は、地方自治法所定の事務の委任ないし委託の形式をとつているとは認められず、その実質は、事実上の事務の委託の関係にあたると解するのが相当である。
他方、指導要綱が目的としているゴルフ場の適正な開発と災害の防止、自然及び環境の保全は、同時に君津市の固有の事務と合致し、かつ、同市がすでに決定している奥地開発事業の基本構想にも添うものである。したがつて、同市内でゴルフ場等の開発事業を行おうとする者が同市を経由して千葉県知事に対し、事前協議及び設計協議の申し出をするに際し、同市が千葉県の協力依頼により、指導要綱の趣旨に基づいて、事業者から実情を聴取し陳情を受け、また各協議申出書に意見を付して同県知事に進達することなどは、君津市の固有の事務ないしこれに当然随伴する事務にほかならない。このことは、なかんずく同市がこれらの事務を指導要綱に即応して処理するため、開発事業対策協議会を設けて案件を協議し、あるいは、庁内調整会議に上程審議している事実からも十分窺える。しかして、被告人四宮は、前記の如き職務権限を有する同市助役として右の事務あるいはその指導監督等に従事していたことはすでに明らかである。
以上のとおりであるから、原判示の「地元市長において事業者と事前協議・設計協議をし各協議申出書及びこれに関する意見を県知事に対し進達すること」に関し、被告人四宮の関与した事務は、所論のように同被告人が北辰観光のために個人としてなした事実上の行為でないことはもとより、千葉県知事に対する事実上の協力(サービス)にすぎないものでもなく、公務員たる君津市助役としての同被告人の職務権限に基づく行為であることは明白である。