大判例

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東京高等裁判所 昭和55年(う)1805号 判決

所論は、量刑不当の主張であつて、要するに、各原判決は、被告人両名につきそれぞれ公訴事実とほぼ同趣旨の犯罪事実を認定しながら、被告人両名がいずれも右各事実とは別個の被疑事実により現行犯逮捕された後引き続き、被告人糸魚川は二〇日間、同綿引は起訴前の勾留を含め三六日間それぞれ勾留されたが、右各現行犯逮捕にはその要件を欠くという重大な違法のあつたこと、いずれも犯行当時学生であつたこと、本件各公訴の提起以来既に十有余年が経過していること、この間に被告人両名にはさしたる前科がなかつたことなど諸般の事情を考慮して、検察官の被告人両名に対する各懲役六月の求刑に対し、「被告人を懲役一月に処する。但し、本裁判確定の日から一年間右刑の執行を猶予する。」との各判決を言い渡したのであるが、各原判決は、いずれも被告人両名が現行犯逮捕の要件を欠く違法な逮捕に引き続き勾留されたことを量刑上の主たる理由としているところ、被告人両名に対する各現行犯逮捕はいずれも適法であり、原判決は本件各現行犯逮捕手続過程における事実認定において証拠の評価を誤つて事実を誤認し、その結果逮捕が適法であつたか否かについての判断を誤つたものというべきであり、仮に、逮捕手続に瑕疵が存したとしても、勾留裁判による審査を経て勾留状が発付されているから勾留は適法であつて違法拘束とはいえないし、そうでないとしても、その瑕疵は軽微であり勾留を違法ならしめるほど重大な違法があるとはいえないから、これをもつてその刑を軽減すべき事情として考慮するのは相当でないうえ、被告人両名の本件各犯行の態様、犯歴、共同審理された他の被告人らとの刑の均衡等諸般の事情を考慮すれば各原判決の量刑は著しく軽きに失して不当であり破棄を免れない、というのである。

そこで、原審記録及び原審取調べの証拠を精査し、当審における事実取調の結果をも参酌して検討するに、本件各事案の概要は、被告人糸魚川至郎において、緑色ヘルメツト着用のフロント派学生ら約三〇名と共謀し、昭和四四年六月八日午後二時一八分ころ静岡県伊東市玖須美元和田六一八番地の四二(当時の地番)所在の伊東市消防署付近路上において、アジア太平洋協議会(略称アスパツク)第四回閣僚会議の開催警備にあたつている警察官などに対する違法行為を採証車上でビデオテープ(昭和四四年検領第五三〇号の二三)に撮影して採証する任務に従事中の伊東警察署応援派遣警視庁公安部公安総務課所属の警察官佐藤英二及び同宮川卓男に対し、多数の石塊を約二分間にわたつて投げつける暴行を加え、もつて右警察官二名の職務の執行を妨害し、また、被告人綿引晴雄において、反戦青年委員会の一員として前記アジア太平洋協議会第四回閣僚会議開催に対する抗議行動に参加し、白ヘルメツト着用者など多数の者と共謀のうえ、昭和四四年六月八日午後三時四一分ころ伊東市湯川三丁目一二番地(当時の地番は一丁目二七七番地)国鉄伊東駅前広場北側において、警察官に対する投石などの違法行為を制止排除するなどの任務に従事中の伊東警察署応援派遣警視庁第五機動隊第一大隊第三中隊所属の警察官に対し、石塊多数を投げつけて暴行を加え、もつて右警察官の職務の執行を妨害した、というのである。

ところで、各原判決は、その判文に徴すると、被告人らが本件公訴事実とは別個の被疑事実により現行犯逮捕されたところ、右逮捕はその要件を欠くという重大な違法があることを理由に、そのような瑕疵が認められない共同被告人らに比し軽く量刑していることは所論指摘のとおりと思われる。しかしながら、関係証拠を総合すると、被告人糸魚川至郎の現行犯逮捕にあたつて警視庁第四機動隊第一大隊第二中隊警察官田能猪佐男は、昭和四四年六月八日午後三時五八分ころ前記国鉄伊東駅前広場において、折から同市において開催されるアジア太平洋協議会第四回閣僚会議の開催に抗議するため参集する学生らの規制等の職務を執行していたところ、緑色のヘルメツトを着用した学生集団三〇名くらいが伊東駅舎の駅長室前に固まつて右田能の所属する警察部隊に対し投石したが、その集団は一部の者が投石するというのではなく、入れ替り立ち替り投石するという態様であつたので、右集団構成員全員について公務執行妨害罪の共同正犯が成立すると判断し、直ちに同僚警察官とともにその検挙にあたつたところ、同人らは逮捕を免れるため駅長室に逃げ込んだのであるが、右の者らの中に緑色ヘルメツトを着用した同被告人がいたので、同人を共謀による公務執行妨害と建造物侵入の嫌疑で現行犯逮捕したこと、また、前記部隊所属の警察官太田俊雄は、同日午後三時五五分ころ伊東駅出札室前付近にいた白ヘルメツト着用の学生集団五〇名くらいが四機第一大隊の方向に投石しており、右集団構成員全員が投石しているように見受けられたので、右の者らを検挙しようとして進出すると、その集団は逮捕を免れるため駅長室の方に後退移動を始めたところ、白ヘルメツトを着用した被告人綿引晴雄だけが右集団から離脱し駅前広場の緑地帯方向に走り出したので、これを追跡して右緑地帯上において捕捉し、同被告人を共謀による公務執行妨害の嫌疑により現行犯逮捕したことが認められる。この点に関する右警察官両名の各原審証言は、これを十分措信しうるものと認められるのであつて、原審がその昭和五四年七月一三日の決定で説示するように、両者が相互に予盾して不自然であり、これを千代田恒雄の原審証言と対比すると措信できないとする証拠判断が是認し難いことは所論の指摘するとおりである。

以上の認定事実によれば、被告人両名の現行犯逮捕にあたつた警察官らが、いずれも被告人らが警察部隊に対し投石したのを現認したわけでなく、直ちに被告人らが投石したものと推認し難いとしても、それぞれの所属集団の中にあつて、投石をした構成員との間において現場共謀による公務執行妨害の共謀共同正犯が成立することは疑いのないところといわなければならないから、被告人両名に対する本件現行犯逮捕は適法というべきである。原審は、ヘルメツトの色によつて識別される同一組織内にある学生については、投石行為現認の有無を問わず、現場共謀による共同正犯の成立を認めるという見解をとるものであることは、その決定における説示に徴し明らかであるから、ひつきよう、原審は、証拠の取捨判断を誤つた結果、本件各現行犯逮捕の適否について、叙上説示するところと異なる判断をするに至つたものと認められる。

してみると、被告人両名に対しその刑を軽減すべき格別の事情は存在しないことになるので、共同審理を受けた他の相被告人らに対する科刑との均衡上、原判決の量刑は、その刑期の点において軽きに失することになるといわなければならず、その他被告人両名に有利とみられる諸般の情状を勘案してみても、右の結論を左右するに足るものは存在しない。論旨は理由がある。

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