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東京高等裁判所 昭和55年(う)736号 判決 1980年7月17日

控訴人 被告人

被告人 石村嘉男

弁護人 早川庄一

検察官 横山精一郎

主文

本件控訴を棄却する。

理由

本件控訴の趣意は、弁護人早川庄一が差し出した控訴趣意書に記載してあるとおりであるから、これを引用し、これに対して当裁判所は、次のように判断する。

所論は、法令適用の誤りの主張であつて、要するに、(一)被告人は、廃タイヤの再生利用の目的のために原判示第一の廃タイヤの収集・運搬の所為に及んだものであるから、右所為は、廃棄物の処理及び清掃に関する法律(以下、廃棄物処理法という)一四条但書に該当し、許可を要しない、(二)仮に右所為が右但書に該当せず、同条本文に違反するものとしても、再生利用の目的でなされたものであつて、社会的に相当な所為であるから、右所為は実質的に違法性を欠く、(三)原判示第二の農地を右廃タイヤの保管場所に転用した所為は、形式的に農地法四条に違反するものとしても、右廃タイヤは再生利用に供せられるべきものであるから、実質的には違法性を欠く、以上の次第であるから、被告人は右いずれの所為についても無罪といわなければならないが、これと反対の見解にたつて被告人を有罪と認定処断した原判決は、法令適用の誤りを犯したものとして破棄を免れない、というのである。

そこで、記録並びに原審及び当審取調べの各証拠により、所論の当否を検討するに、本件の事実関係は原判決の認定判示するとおり、被告人は、(一)法定の除外事由がないのに、原判示都県及び市の各知事及び市長の許可を受けないで、業として、昭和五一年一月ころから同五二年六月一〇日ころまでの間、合計三八六回にわたり、産業廃棄物である廃プラスチツクである廃タイヤ合計約一五四〇トン(約一五万四〇〇〇本)を収集・運搬し、(二)かねて妻石村シヅ子、実弟石村裕司、義兄町田弥市から管理を一任されていた右三名ら所有にかかる原判示群馬県下明和村所在の各農地を右廃タイヤの置場所に転用しようと考え、法定の除外事由がなく、かつ群馬県知事の許可を受けないで、(1) 同五二年二月ころから同年三月ころまでの間、右石村シヅ子所有にかかる原判示の田一筆四七六平方メートルに廃タイヤ約二万五〇〇〇本を野積みにし、(2) 同年三月ころから同年五月ころまでの間、右石村裕司所有にかかる原判示の畑及び田合計四筆、面積合計二二二一平方メートル、並びに右町田弥市所有にかかる原判示の田合計二筆、面積合計一二五六平方メートルに、廃タイヤ合計約二万五〇〇〇本を野積みにし、もつて右各農地をいずれも農地以外のものに転用した、というものである(なお、原判決二枚目表終りから三行目に「昭和五四年」とあるのは、「昭和五二年」の、同裏四行目に「畑五六五平方」とあるのは「畑九六五平方」の、同三枚目表終りから二行目に「同年一〇月二一日付)」とあるのは「同年一〇月二一日付((本文二枚つづり)))」の、同裏一行目に「兼松市郎」とあるのは「兼杉市郎」の、同四行目に「斎藤修一」とあるのは「斎藤修二」の、同四枚目裏終りから四行目に「と題する書面」とあるのは「と題する書面(被告人の検察官に対する昭和五三年八月二八日付供述調書に添付)」の、同五枚目表七行目に「一〇月二一日付)」とあるのは「一〇月二一日付((本文五枚つづり)))」の、同六枚目表終りから二行目に「判示第一の」とあるのは「判示第二の」の、同九枚目番号2に「東都商事」とあるのは「東部商事」の、同一一枚目表番号21に「至〃一二二六」とあるのは「至五二、二、一六」の各誤記と認められる)。

ところで、(一)廃棄物処理法一四条但書に許可を要しない場合として、「もつぱら再生利用の目的となる産業廃棄物のみの収集、運搬又は処分」を行う場合とあるのは、その物の性質上もつぱら再生利用される産業廃棄物のみを取扱う場合という意味であつて、それに当らない産業廃棄物を再生利用の目的で取扱う場合というのではないことは、文理上明らかであるところ、関係証拠によれば、被告人が収集・運搬した本件廃タイヤは、タイヤ販売会社等が顧客に新しいタイヤを販売する際に引取り、あるいは自動車解体業者から集めるなどした廃タイヤであつて、通常は、再生利用されることが少ないため、タイヤ販売業者等から、専門の廃棄物処理業者に対し廃棄物として有料で処理の委託がなされているものであることが明らかである(なお、被告人も廃棄物処理の専門業者と同様に収集先から料金を徴して収集していたものである)。してみれば、本件廃タイヤは物の性質上もつぱら再生利用される産業廃棄物とは到底いい難いから、本件は前記法条但書には該当しないものといわなければならない。したがつて、所論(一)は失当である。(二)廃棄物処理法一四条に違反し無許可で廃タイヤを収集運搬した被告人の所為は、たとえ所論のごとく再生利用の目的でなされたものとしても、そのゆえに社会的に相当な行為であつて違法性を欠くものということはできない。しかも、関係証拠によれば、被告人は、廃タイヤの再生利用として案出した畦畔ブロツクの製造については、製造過程において悪臭を放つなど新たな公害を生ずるなどのため、初めの段階で計画を放棄するに至り、農業暖房用燃料については、専用のストーブを試作し、改良を加え、実験的に使用するなど、被告人なりに工夫努力を重ねたものの、これとても、しよせん実験的段階にとどまるものであつて、収集・運搬した大量の廃タイヤの大半は現在に至るまでそのまま放置されていることが明らかであり、これから推してみても、結局、被告人は、相当の収入を伴うこともあつて、通常は再生利用できない廃タイヤを、確たるあてもなく、ただ再生利用の希望的観測を抱いて、無許可で大量に収集・運搬したものといわざるを得ないから、所論のごとく被告人の右所為を社会的に相当な行為であるということは到底できない。したがつて、所論(二)は失当である。(三)農地法四条に違反し、法定の除外事由がなく、かつ無許可で、原判示各農地を前記廃タイヤの置場に転用した被告人の所為は、たとえ、右廃タイヤが所論のごとく再生利用の目的に供せられるべきものであつたとしても、そのことのゆえに違法性を欠くものということはできない。のみならず、右廃タイヤの性質、これを収集した被告人の動機が、いずれも、前記(二)に認定したようなものであつてみれば、なおのこと所論は失当である。したがつて、所論(三)は採用できない。

なお、所論中、廃棄物処理法違反について被告人には違法性の認識がなかつたと主張して、原判決の事実認定を論難する部分があるが、原判決挙示の櫻田公磨の検察官及び司法警察員に対する各供述調書並びに被告人の検察官(昭和五三年八月二八日付)及び司法警察員(同年八月一二日付)に対する各供述調書によると、被告人は廃タイヤを収集・運搬するには法律上県知事等の許可が必要であることを本件犯行当時知つていたことが明らかであるから、右主張は失当である。

論旨は理由がない。

よつて、刑訴法三九六条により本件控訴を棄却することとし、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 向井哲次郎 裁判官 山木寛 裁判官 荒木勝己)

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